為替も米国の影響を大きく受けている。基軸通貨である米ドルに対する交換比率が各国通貨の基本となるため、日本円と米ドルの交換レート、すなわちドル円レートが日本の為替レートとなる。
米国経済の影響を受ける為替
日経平均とドル円レートのグラフを見ると、連動性があることがわかる。この背景には、個別の企業に将来どれぐらいの収益が期待できるのか、ということで株価が決まることがある。つまり、日本の株価は日本の企業の業績に大きく左右されるということになる。
今は、企業もグローバル化しているため、連結決算で評価される。つまり、海外の工場や販売会社など海外現地法人の利益も含めて、トータルで利益を計上する。そして、海外での利益を円に換算する場合、円高ドル安になれば、利益は小さくなり、企業業績が下がる。逆に円安ドル高になると、円で換算した企業業績は上がる。
アベノミクスが始動して以降は、輸出関連産業を中心に大きく利益が増えた。しかし、海外現地法人の売上げがそれだけ増えているのかというと、実はそうでもない。背景には円安になったことがある。
ただし、日本と米国の経済規模を考えると、ドル円レートは日本の政策のみならず米国の政策にも大きく影響される。つまり、ドル円レートが日経平均と連動しているということは、米国の政策が日本経済に及ぼす影響がそれだけ大きいということも意味する。
日本の偏った貿易構造
さらに、原材料を輸入して加工組立て品を輸出するという日本の貿易構造も大きく関係している。リーマンショックの後、当事国である米国よりも日本のほうがGDPの落ち込みが大きかった背景の一つには、為替が円高になったことがある。そしてもう一つは、まさにこの貿易構造に要因があった。
以下の図は、日本の品目別輸出入のウェイトをみたものである。輸出では輸送用機器、電気機器、一般機械といった、いわゆる加工組立て品が多いことがわかる。それに対して輸入は食料品、原料品、鉱物性燃料が大きなウェイトを占めている。原料品というのは、鉄鉱石や飼料用の大豆など、材料になるものである。一番大きいのが鉱物性燃料で、これはいわゆる化石燃料である。石油、石炭、天然ガスなどが含まれるが、この鉱物性燃料だけで2割以上になっている。
つまり、日本が輸入しているのは、いわゆる生活必需品なのである。人は食べ物がなくては生きていけない。生活をする上では当然、燃料も必要になる。今の日本は原発が自由に動かせなくなっているため、特に化石燃料が必要になっている。このように、実は日本が輸入しているのは、それを輸入しないと生きていけないようなものが多いのである。
それに対して、日本が輸出しているモノの多くは、いわゆる耐久消費財に関連するモノが多いため、一回購入すれば、暫くは持続的に使えるものということになる。
そうなると、世界的に景気が悪くなった時に、世界中の人たちが節約をはじめるわけだが、食料品、原料品、鉱物性燃料等は生きていくためには絶対に必要となるため、景気が悪くなっても需要が減りにくい。それに対して、例えば自動車や家電のような加工組み立て品等は、一つ保有していれば、仮に買い換えたいと思っていたとしても、買い換えは先送りできる。このため、景気が悪くなると大きく売上げが落ち込む。日本はそういうモノを多く輸出しているわけである。
輸出が増えると、GDPも当然増える。ただ、GDPというのは国内総生産、つまり国内で生み出された付加価値の合計であるため、輸入は差し引くことになる。このため、輸入が増えるとGDPは減ってしまう。日本の場合、世界的に景気が悪くなると、輸出が大きく減る一方で、輸入は大きく減らないため、GDPは大きく落ちることになる。
ところが、米国やヨーロッパの貿易構造というのは、日本ほどは偏っていない。米国は加工組立て品もそれなりに輸出している一方で、燃料は国内で採れるため、輸出と輸入の構造が、日本ほど極端に異なっていない。
世界的に景気が悪くなると、米国では輸出も輸入も減る。ということは、輸出が減ることによるマイナスと、輸入が減ることによるプラスが相殺されるため、景気の悪影響が日本ほどは出にくい。しかし、日本のような貿易構造になると、計算上GDPが大きく落ち込んでしまうため、影響が大きいということになる。
結局、米国がくしゃみをすれば、日本のGDPが大きく落ち込んで風邪を引いてしまうことになる。米国経済が悪くなれば、為替で円高になることと、輸出が大きく落ちたにもかかわらず、輸入が大きく減らないという貿易構造が影響するというところが大きなポイントなっている。
永濱利廣(ながはま としひろ) 第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。