はじめに

訪日外客数は2018年に3,000万人を突破した。今後も増加が見込まれ、宿泊需要の高まりが期待できる。一方、現在宿泊者の8割以上を占める国内旅行客は人口減少が下押しに効いてくる。そこで本稿では、国内旅行客・訪日外国人の宿泊施設の利用動向から2020年、2030年のホテルの客室稼働率を試算し、過不足状況を予測した(1)。

試算の概要・前提

試算の概要・前提を図表1に示した。需要サイドの訪日外客数は政府目標である2020年に4,000万人、2030年に6,000万人を想定している。国内旅行客の延べ宿泊者数は、性別・年齢別の将来推計人口と宿泊日数を基に算出した。

供給サイドの総客室数は、2017年から固定した上で客室稼働率を算出した。その結果、稼働率が85%を超えた都道府県のホテルは客室数が不足しているとし、85%に収まるための必要な客室数(利用客室数÷85%-総客室数)を求めた。加えて、2020年までのホテルのオープン計画(株式会社オータパブリケイションズによる調査)を加味した稼働率も一部都道府県について算出した。

都道府県別,ホテル稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2020年、2030年の利用客室数と客室稼働率の予測

●延べ宿泊者数の将来予測

延べ宿泊者数は、国内旅行客の減少分を訪日外国人の増加がカバーし、2017年と比べて2020年は7.6%、2030年は9.2%増加する[図表2]。

都道府県別,ホテル稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

訪日外国人が占める割合は2017年の15.6%から2020年は23.3%、2030年は30.2%まで高まる結果となった。

●全国での予測

利用客室数は2030年にかけて増加基調が続く見通しである[図表3]。

都道府県別,ホテル稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

客室数を2017年時点で固定した場合、稼働率は2020年に80%弱まで上昇するため、宿泊施設の不足感が高まるが、2020年までのホテルのオープン計画(13.8万室)を加味すると、2020年、2030年ともに2017年より稼働率が低くなった。全国でみると、すでに訪日外客数6,000万人を超える規模を見越したホテル建設が計画されているといえる。

●都道府県別での予測

都道府県別の状況をみると、まず利用客室数は、三大都市圏だけでなく地方でも2020年、2030年時点で増加しているが、国内旅行客の減少を訪日外国人の増加でカバーできない県も出てきている[図表4]。

都道府県別,ホテル稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2020年には利用客室数が15県で、2030年には20県で減少している。インバウンド需要の恩恵が十分に及んでいない中、国内旅行客の減少によって、観光需要の落ち込みが見込まれる。

次に、総客室数を2017年から固定した場合の客室稼働率を試算した[図表5]。

都道府県別,ホテル稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

稼働率は2020年時点の大阪、2030年時点の東京、大阪、京都で100%を上回っており、現状の客室数では不足する状況にある。仮に稼働率の上限を85%とすると、2020年時点で東京は2.2万室、大阪は1.4万室、京都は0.3万室、福岡は0.1万室の客室数が必要となる[図表6]。

すでに大阪は2.0万室、東京は3.0万室のホテルが2020年までにオープンする計画が見込まれており、2030年時点で必要となる客室数に匹敵している。オープン計画を加味すると東京、大阪の稼働率(2020年)は80%前後と高水準を維持しており、急増する需要に見合った計画といえる。2030年にかけても需給が逼迫した状況が続きそうだ。一方で、京都は2017年の客室数2.7万室に対して、41%増に相当する1.1万室のホテルが2020年までにオープンする計画となっており、供給過剰となる恐れがある。計画を加味した稼働率は67.9%と7割を割り込む水準まで大幅に低下している。ただ、京都市を訪れた訪日外国人の約3割は大阪府に宿泊(2)しており、需給が逼迫している大阪から宿泊客を取り込める余地がある。

また、奈良、島根はホテルオープン計画を加味すると稼働率が大幅に低下した。ただし、奈良はホテル・旅館の客室数が全国最下位の47位、島根は42位と宿泊施設が少なく、魅力的なホテルを建設することで宿泊需要を取り込む狙いがあるようだ。特に奈良は、奈良市を訪れた日に奈良県に宿泊する訪日外国人は7.9%に留まり、約7割は大阪府、約2割は京都府に宿泊している(2)。利用客室数の増加も見込まれる上[図表4]、受け入れ態勢が充実し他府県への流出に歯止めがかかれば稼働率が大幅に低下する事態には至らないと思われる。一方、島根は利用客室数の減少が見込まれ、受け入れ態勢を充実させるだけでは取り組みとして不十分だろう。地域一体となった観光客誘致への取り組みが求められる。

都道府県別,ホテル稼働率予測
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)詳しくは基礎研レポート「都道府県別にみた宿泊施設の稼働率予測(2019年2月18日)」を参照されたい。また、同レポートではホテルだけでなく、旅館、簡易宿所の稼働率も予測している。
(2)国土交通省近畿運輸局、関西観光本部、関西経済連合会「訪日外国人向けの関西統一交通パス「KANSAIONE PASS」の利用実績等のデータ分析結果(2017年4~12月利用分の約13.4万枚分のデータ)」

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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員・総合政策研究部兼任

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