不動産市況が活況です。7月7日に発表された相続税路線価によると、銀座4丁目交差点近くの土地(1)の価格は4,432万円/m2なり、前年比+10%上昇しました。これは平成バブル直後(1992年)の3,650万円/m2を21%も上回る水準であり、はがき一枚分の面積に換算すると約66万円に相当します。
「保有不動産が値上がりし、売却して利益を得た」といった景気の良い話につい耳を傾けてしまう方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
とはいえ、一般の個人投資家にとって不動産投資は通常、金額が大きく気軽に手を出せるものではありません。また、よく理解しないままに投資をしてしまえば、思わぬしっぺ返しが待っているかもしれません。
例えば、最近ではサラリーマン投資家による「かぼちゃの馬車(2)」問題が世間の注目を集めました。「高い投資利回り」、「30年賃料保証」、「拡大するシェアハウス需要」、「女性の社会進出を支援」など、魅力的な商品設計で、一見すると安全な投資のように見えました。一方で、「高い購入価格」や、「相場とかけ離れた家賃想定」、「市場競争力の無い間取り」、「サブリース契約のあり方」、「金融機関の融資姿勢」、「投資家の自己責任」といった多くの問題点が指摘されています。
ところで、投資は不動産に限らず原則として全て自己責任です。投資に失敗したからといって、他人に責任を押し付けたり、損失の補填をしてもらうことはできません。また、現在のように不動産の価格がかなり上昇した局面では、不動産投資の知識や経験に乏しい個人投資家にとっては投資リスクが高く、それに見合った利益も得にくいのではないかと思います。
一方で、「不動産は比較的大きな資金を長期に安定して運用できる」有用な投資対象です。単なるイメージだけで「不動産投資は全て怪しい、危険だ」と判断してしまうのも残念なことです。
それでは、不動産投資を検討する場合、どのような知識や心得を持って挑めばよいのでしょうか。不動産投資では、一般には非公開の情報や、経験の差などが成否を分けることも多く、初心者にとって高いハードルとなっているように感じています。
そこで、はじめての不動産投資にあたって、物件を探したり、細かい知識を勉強したりする前に、大切にしたい心得について、私見ながら以下の5か条にまとめました。
一般的に、プロによる不動産投資は、「物件情報を入手」→「納得するまで徹底調査」→「価格交渉と資金計画」→「購入」→「価値を上げる追加投資」→「売却」というプロセスを踏みます。不動産投資ではプロと個人の情報量格差は圧倒的に大きく、個人がプロと同じレベルで調査し、投資リスクなどを事前に把握することは難しいかもしれません。また、プロでも不動産の目利きに失敗して想定外の損失を被ることがあります。
しかし、個人投資家がプロの投資プロセスを参考にして学び、自身で実践できることも沢山あります。これまで不動産鑑定士として不動産の現場で売買、運用、価格評価に係わってきた筆者が、『不動産投資の心得 5か条』について、次回以降で具体的な事例をもとに説明し、失敗しない不動産投資について皆様と一緒に考えていきたいと思います。
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(1)相続税路線価とは、相続税価格を計算する基準となる1㎡あたりの評価額で、土地取引の指標となる公示地価(地価公示価格)の8割程度の価格となっており、国税局長によって定められ、毎年7月に1月1日時点の価格が公表されます。東京都中央区銀座5丁目『鳩居堂(きゅうきょどう)』前は、昨年に続き、今年も日本一地価の高い商業地となりました。
(2)「かぼちゃの馬車」とは、㈱スマートデイズが販売した女性専用シェアハウスのブランド名です。スマートデイズはこの事業の失敗により2018年5月15日に東京地裁にて破産手続き開始決定を受けました。スルガ銀行発表の「危機管理委員会による調査結果の要旨」によると、2018年3月時点でシェアハウス案件の融資を受けたオーナーは1,258人、融資残高は約2,035億円となっています。なお現在、投資家13人が旧経営陣らに対し、計2億円の損害賠償を求めて提訴し、係争中です。
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渡邊布味子
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員
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