要旨
● 1-3月期法人企業景気予測調査を見ると、18 年度下期は売上高計画が10-12 月期調査の前年比+1.8%から同+1.0%の下方修正にとどまったが、経常利益が10-12 月期調査の同▲0.6%から同▲4.9%に下方修正され、期末決算でも利益の下方修正が予想される。
● 今回初公表となる19 年度計画では、売上高が上期と下期でそれぞれ前年比+0.3%、▲0.1%、経常利益がそれぞれ同▲3.1%、+2.4%と計画されており、来期見通しでは上期が増収減益になるも、下期に減収増益が計画されている。
● 業種別に見ると、18 年度下期に前年比増収かつ10-12 月調査から売上高の上方修正率が高い業種は「その他物品賃貸」「生活関連サービス」「パルプ・紙・紙加工品」であり、特にサービス業の中でも所得の増加や余暇時間の拡大を取り込んだ企業では、期末決算の上方修正が期待される。また、18 年度下期における増益率の上方修正幅が大きい「食料品」「職業紹介・労働者派遣」等に関連する企業も、期末決算でどの程度上方修正するかが注目される。
● 19 年度計画において大幅な増収計画を立てている上位業種は、「電気・ガス・水道」「職業紹介・労働者派遣」「不動産」等であり、これに関連する内需関連企業では来期見通しが注目されよう。また、「農林水産業」「医療・教育」等も来年度における増益率計画が高い。よって、原油など資源価格の低下の恩恵を受けやすい「電気・ガス・水道」や「農林水産」、社会保障充実の恩恵を受けやすい「医療、教育」関連が産業全体の増益率見通しをどれだけけん引するかが注目されるだろう。
● 日銀が4月1日に公表する3月短観の収益計画(大企業)も期末決算と来期業績見通しを読み解く手がかりとして注目したい。
来年度は増収減益の見込み
3月12 日に公表された1-3月期法人企業景気予測調査は、2月下旬にかけて金融・保険を除く資本金10 億円以上の大企業約4千社に対して行った景気予測調査であり、今期業績の修正度合いと来期業績予想の先行指標として注目される。
そこで本稿では、4月下旬から本格化する期末の決算発表で業績回復や堅調な来年度計画が見込まれる業種を予想してみたい。
資料1は、法人企業景気予測調査の調査対象企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず、売上高を見ると18 年度下半期はやや下方修正となることに加え、19 年度上期は更に鈍化し、下期は前年比マイナスに転じる計画となっている。このことから、18 年度下期にも前年同月比で下方修正となる業種には注目が集まるものと推察される。
一方、経常利益は18 年度下期から前年比マイナスに転じており、減益率も前回調査から大幅に下方修正されている。更に、19 年度上期の経常利益も減益計画となっており、通期でも前年比で▲0.4%の小幅減益見込みとなっている。なお、売上高は来年度下期に減収に転じる計画になっているが、経常利益は増益に復帰する計画となっている。
今期上方修正期待の高い「その他の物品賃貸」「生活関連サービス」「パルプ・紙・紙加工品」
以下では、期末決算で期待される業種を見通してみたい。表1は18 年度下期の業種別売上高計画前年比を前回10-12 月調査と今回1-3月調査で比較し、この3ヶ月の修正状況を見たものである。結果を見ると、増収業種の中で最も上方修正幅が大きいのは、自動車賃貸業やスポーツ・娯楽用品賃貸業等を含む「その他の物品賃貸」であり、前年比+11.9%→+15.2%と+3.3pt の上方修正となっている。それに続くのが、洗濯・理容・美容・浴場業や旅行・家事サービス・衣類裁縫修理・物品預り・火葬墓地管理・冠婚葬祭業を含む「生活関連サービス」の同+0.8%→+3.1%、「パルプ・紙・紙」の同+1.3%→+2.9%と、いずれもこの3ヶ月間で大幅に上方修正されている。
従って、特にサービス業の中でも所得の増加や余暇時間の拡大を取り込んだ企業では、期末決算でも上方修正の可能性が高い業種として注目されよう。一方、足元の世界景気減速に伴い、世界的にも高いシェアを占める情報関連財メーカー等では業績の下方修正となることが懸念される。
今期増益率では「食料品」のほかに「職業紹介・労働者派遣」にも注目
続いて、経常利益の側面から注目業種を見てみよう。ただし、経常利益は赤字で前年比を計算できない業種が存在する。このため、経常利益についてはこうした業種を除いて、この3ヶ月間の修正状況を見た(表2)。
結果を見ると、最も上方修正率が大きかったのは、広告や純粋持株会社等を含む「学術研究、専門・技術サービス」の+17.8pt であるが、広告業の急激な利益の上方修正が考えにくいため、恐らく純粋持ち株会社等の要因が大きいことが推察される。それに続くのが「食料品」「職業紹介・労働者派遣」のそれぞれ+10.9pt となる。なお、「食料品」については値上げの効果が出ているのに対し、「職業紹介・労働者派遣」は人手不足の効果であることは注意が必要だ。
一方、今期末決算では、企業業績の下方修正を牽引する業種として自動車や電機に関連した部品や情報通信機械器具など新興国を中心とした外需依存度の高い製造業のほかに、非製造業では「小売」や「宿泊・飲食サービス」に関連した企業の下方修正も警戒される。
大幅増収期待の「電気・ガス・水道」「職業紹介・労働者派遣」「不動産」
以下では、2019年度において大幅な増収が見込まれる業種を選定してみたい。表3は19年度の業種別売上高計画を上期と下期に分けて、前年比の状況を見たものである。
結果を見ると、殆どの業種において下期において伸びが鈍化もしくは悪化の計画となっている中で、最大の増収計画を立てているのが「電気・ガス・水道」の前年比+19.3%である。それに続くのが減益計画となっている「鉱業、採石業、砂利採取」を除けば、「職業紹介・労働者派遣」の同+4.6%、「不動産」の同+3.1%であり、いずれも内需関連非製造業が連なる。
従って、2019年度の業績見通しにおいては、これらの内需関連非製造業に関連する企業の計画が注目される。特に、原油安などエネルギー価格低下の恩恵を受けやすい電気・ガス・水道や鉱業、人手不足の恩恵を受けやすい職業紹介・労働者派遣関連に注目したい。
来期の利益けん引役は「電気、ガス、水道」「農林水産」「医療、教育」
最後に、経常利益の側面から来期の業績を牽引することが期待される業種を見通してみよう(表4)。
結果を見ると、増益率が最も大きいのは「農林水産業」の+95.0%となる。それに続くのが高齢化や幼児教育無償化の恩恵を受けやすい「医療・教育」の+69.0%、増収増益の計画となっている「電気・ガス・水道」の+41.4%となる。
このように、来期の経常利益見通しでは、増益幅を牽引する業種として、原油などエネルギー価格下落の恩恵を受けやすい農林水産や電気・ガス・水道、社会保障充実の恩恵を受けやすい医療、教育関連がけん引役として注目される。ただし、これらの業種は商品市況や国の社会保障政策変更の影響も受けやすいことには注意が必要だ。
なお、日銀が4月1日に公表する3月短観の収益計画(大企業)は法人企業景気予測調査に比べて聞き取りのタイミングが若干遅いことから、3月短観における大企業の収益計画も期末決算と来期業績見通しを読み解く手がかりとして注目したい。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣