運転手や建設業界は適用除外?

ただし、例外もあります。いくつかの業種に関しては、今回の法改正の適用を5年間先延ばしにすることが決められています。

一つは「自動車運転の業務」。トラック運転、タクシー運転などの業務で、その職種柄、どうしても労働時間が長時間、そして不規則になりがちです。

これらの業務については、改正法施行5年後(2024年4月)に、時間外・休日労働の上限規制を適用。逆に言えば、上限規制を5年間先延ばししたわけです。

もう一つが「建設事業」。改正法施行5年後(2024年4月)に一般則を適用することになっている他、災害時における復旧・復興の事業については、1カ月100時間未満・複数月80時間以内の要件は適用しないことになっています。

その職種の重要性を考えれば当然と言えなくもありませんが、ここ数年はいわゆる「気候の激甚化」にて各地で災害が相次ぐようになり、災害救助にあたる人たちの過労が問題視されるようになっています。そのため、将来的には災害復旧に関する労働においても一般則の適用について検討する、とされています。

ちなみに、建設事業というと現場での建設作業に携わる人だけと思われがちですが、実際には建設会社で働いている営業、総務等すべての労働者が含まれます。

これらの職種は昨今の人手不足もあり、なかなか労働環境整備が難しいのが現実ではないかと思います。進化するAIなどの活用も含め、環境整備を目指していくことになるでしょう。

その他にも医師や研究職などいくつかの業種について、適用除外となっています。

残業を減らさないと、会社が罰せられるって本当?

さて、一部の企業の人事担当者の間で驚きをもって受け止められたであろうことが、この規定が「罰則つき」となったことです。これらの上限に違反した使用者(会社法人と管理監督者)には、6カ月以下の懲役または30万円以下等の罰金が科される、というのです。

具体的には、まずこの法規定に直接違反した者が罰せられます。たとえば、総務課長が明らかにこれらの上限を超えていることを知りながら、部下にその事実を隠ぺいするように指示したとしたら、その総務課長が処罰されることになります。

ただし、「これは総務課長が個人的にやったことであり、会社としてはまったく知らなかった」という言い訳は通用しません。その会社の使用者の誰かが処罰される場合は同時に、自動的にその法人には罰金刑が科されるのです。個人企業の場合、社長自身に罰金刑が科されます。

労働基準法においては、その法人や社長個人が法違反をしたわけではなくても、社員が法規定に違反すれば、会社もまた自動的に罰せられるというのがルールなのです。これを「両罰規定」と言います。

ちなみにこうした違反はマスコミに公表されることにもなります。

言い換えれば、これまでは罰則がなかったということなのです。今回の法改正が「70年に一度の大改正」と言われる理由の一つがこれで、私のように長年、労務関係の仕事をしてきた人間からすると、まさに革命的なことと言えます。

そして、企業にとっては罰金もさることながら、違反を公表されるなど、社会的にも大きなダメージを受ける危険性がある、ということなのです。

この規定は中小企業に関しては2020年4月の施行ということで、1年間の猶予があります。ただし、今から準備をしておくに越したことはないでしょう。

(『「働き方改革関連法」早わかり』より一部加筆・修正)

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(画像=THE21オンライン)

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