その他の国の会社の事業年度はどうなっているのか
●中国の会社
中国では、会計法において、民間の会社の事業年度にあたる会計年度について、「会計年度は1月から12月まで」と規定されており、会社が自由に設定することはできない。
結果として、中国では、政府及び民間会社とも、全国的に、会計年度は、さらに課税年度を含めて、1月から12月までに統一されていることになる。
●インドの会社
インドにおいては、会社の事業年度である会計年度(fiscal year)は、会社法で「4月から3月まで」と定められている。以前は、会社が自由に設定することができたが、2013年会社法の改正により、原則3月期決算に統一されることになった。実際に、例えば、インドのムンバイ証券取引所のS&P BSE SENSEX(S&P Bombay Stock Exchange Sensitive Index)の構成銘柄である30社(Tata Motorsは2つで31社)は全て3月期決算となっている。
なお、インドにおいては、2019年3月に終了する事業年度に対応するAnnual Reportは、「Annual Report 2018-19」として開示されている。
インドは、1867年に、当時英国政府の統治下にあったことから、英国に合わせる形で、国の会計年度を4月1日~3月31日と定めた。多くの会社も基本的にはこれに従っていた。なお、ヒンズー教の暦(ヒンズー暦)等においては、新年は4月から開始しており、インドの作物シーズンは4月からスタートすることも、政府が4月を会計年度の始まりとしたことと関係しているのではないかとのことである。
ただし、モディ首相率いる現在のインド政府は、現在の会計年度に基づいた場合に次期モンスーンの予想と政府の予算案時期が異なっていることや、欧州諸国や中国等のグローバルで主流の会計年度に合わせるとの理由から、会計年度を「1月から12月まで」に変更することを検討しているようで。インドにおいては、過去にも会計年度を暦年に合わせることが検討されてきたが、移行に伴う各種の課題の存在等から、これまでのところ実現していない。
●カナダの会社
カナダの会社は、決算期を自由に設定できる。
カナダのトロント証券取引所に上場する銘柄のうち、流動性の高い上位60銘柄で構成される時価総額加重平均型株価指数であるS&P/TSX60(S&P/Toronto Stock Exchange 60)の構成銘柄(2019年3月1日時点)の決算期別分布を調べてみると、以下の図表の通りとなっている。
これによれば、12月期決算の会社が78.3%の割合を占めており、圧倒的に多く、次が10月期決算の会社が10.0%となっている。なお、10月期決算の6社は全て銀行であり、カナダにおいて5大銀行ないしは6大銀行と呼ばれているBank of Montreal、Bank of Nova Scotia、 Canadian Imperial Bank of Commerce 、Royal Bank of Canada、Toronto?Dominion Bank及びNational Bank of Canada.がこれに該当している。カナダの大手銀行の決算期末が全て10月末になっている理由については、会計士の業務が1月から4月にかけて非常に忙しいことを考慮して、1965年に10月末に設定することに合意した、とのことのようであり、銀行取引との特段の関係があるわけでもなさそうである。ただ、今ひとつ明確ではない。
なお、カナダの会社のAnnual Reportについては、基本的には「終期の属する暦年」で表示されている。例えば、上記の図表において、1月期決算(実際には1月31日に最も近い日曜日)であるDollarama Inc.及び2月期決算であるBlackBerry Limitedとも、2019年の期月に終了する事業年度に対するAnnual Reportを「Annual Report 2019」と称している。
●オーストラリアの会社
オーストラリアの会社は、決算期を自由に設定できる。実際に各社毎に決算期はかなり異なっている。その中では、国の会計年度に合わせる形で「7月から6月」に設定している会社が多い。
北半球の欧州諸国で一般的な「1月から12月まで」という暦年ベースが、通常の会社において一般的でないのは、前回の基礎研レターの中で、オーストラリアの国の会計年度が「7月から6月まで」に設定された理由で述べたように、12月から1月は夏季休暇時期に相当するためである。
ただし、6月期決算とした場合でも、結局は12月末には半期報告を求められる形になることで、会計部門に一定の業務負担が発生することにもなる。そうした観点もあり、3月期や9月期決算としている会社もあるようである。
オーストラリア証券取引所に上場される銘柄のうち、時価総額上位50銘柄で構成される時価総額加重平均型株価指数であるS&P/ASX 50(S&P/Australian Securities Exchange 50)の構成銘柄(2019年3月1日時点)の決算期別分布を調べてみると、次ページの図表の通りとなっている。
これによれば、6月期決算の会社が66%の割合を占めているが、S&P/ASX 50は大会社で構成されていることから、12月期の会社も20%の割合を占めて比較的高くなっている。
例えば、世界的にも有名なオーストラリアの会社として、Qantas AirwaysやBHP Billitonは6月期決算の会社であるが、一方で、Rio Tintoは12月期決算となっている。
因みに、オーストラリアの4大銀行であるCommonwealth Bank of Australia(CBA)、Westpac Banking Corporation(Westpac)、Australia and New Zealand Banking Group(ANZ)及びNational Australia Bank(NAB)の決算期については、CBAが6月期、ANZ、NAB及びWestpacが9月期となっており、カナダとは異なり、必ずしも大手銀行の間でも統一されているわけではない。
なお、オーストラリアの会社のAnnual Reportについても、基本的には「終期の属する暦年」で表示されている。例えば、Qantas Airways は、2018年6月木に終了する事業年度に対するAnnual Reportを「Annual Report 2018」と称しており、上記の図表の3月決算の2つの会社についても、2018年3月木に終了する事業年度に対するAnnual Reportを「Annual Report 2018」と称している。
国の会計年度と会社の事業年度の関係-各国比較-
今回を含めたこれまでの3回の基礎研レターで、国の会計年度と会社の事業年度の状況を諸外国も含めて報告してきた。概略をまとめると、以下の図表の通りとなっている。
これからわかるように、日本だけでなく、国の会計年度と会社の事業年度はリンクしている国が多い。これはやはり、前々回の基礎研レターで述べたように、国と事業年度を合わせておくことが何かとメリットがあることによるものと推察される。
一方で、カナダのように、国や州等の政府の会計年度は「4月から3月」であるのに対して、大会社の多くが「1月から12月」の暦年ベースの事業年度を採用しているケースもある。
ただし、前々回の基礎研レターでの日本及び今回の英国やインドやオーストラリアのように、国の会計年度をベースとしていた国々における会社も近年は、大会社を中心に、グローバルな多数派である12月期決算に変更する傾向が見られているようである。
まとめ
以上、今回は諸外国の事業年度の状況について報告してきた。
我々は、外国の会社というと、12月期決算であろうという先入観があると思われるが、実態は必ずしもそうではない。各国・各社とも、それぞれの事情を踏まえた上での事業年度の設定が行われていることがわかる。ただし、そこにおいては、国の会計年度との関係は、歴史的な意味合いもあって、引き続き強い要素として働いているようである。
諸外国の会社の業績発表を耳にした場合に、こうした事実や背景も念頭において置くと、興味・関心が広がるかもしれない。
中村亮一(なかむら りょういち)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長
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