はじめに

事業年度,12月期決算
(画像=PIXTA)

前々回の基礎研レター「3月期決算の会社が多いというのは本当か、またその理由は?」(2019.4.1)では、「日本の会社では、大会社を中心に、3月期決算(事業年度が4月から3月まで)の会社が多く、最近は国際化の流れの中で、12月期決算の会社が増加傾向にある。」と報告した。

それでは、諸外国の会社の事業年度はどうなっているだろうか。12月期決算が大多数を占めているとのイメージがあるが、実際はどうなっているのだろうか。前々回の基礎研レターでは、「日本の会社で3月期決算が多いのは、国や地方公共団体等の公的機関の会計年度が4月から3月までとなっていることが大きな理由である」と説明した。さらには、前回の基礎研レター「国の会計年度はなぜ4月から3月までなのか? 諸外国はどうか?」(2019.4.5)において、諸外国の会計年度の状況も報告した。それでは、こうした国の会計年度と会社の事業年度の関係は、諸外国ではどうなっているのだろうか。

今回のレターではこれらの点について調べてみた。

米国の会社の事業年度はどうなっているのか

米国の場合、日本と同じように、会社は決算期を自由に決定することができる。ただし、実際には12月期決算の会社が多いといわれているようであるが、実際にはどうなのだろうか。

ここでは、2018年末において、ダウ平均株価(Dow Jones Industrial Average)に採用されている30の会社の決算期について調べてみた。結果は、以下の図表のようになっている。

これによれば、12月期決算の会社が20社で最も多く、次が9月期決算で3社、1月期と6月期が2社等となっている。因みに、日本で一般的な3月期決算の会社は1社もない。

さらに、前々回の基礎研レターの日本の会社の場合で述べたように、業種の特性を反映する形での決算期の設定も行われており、例えば、小売業界の会社がクリスマス等の買い物シーズンを終えた後の1月期決算となっていたりしている。

いずれにしても、これにより、ダウ平均株価に採用されているような大会社に限っても、12月期決算の会社が2/3と大多数を占めてはいるが、殆どの会社が12月期決算の会社というわけでもないことがわかる。

事業年度,12月期決算
(画像=ニッセイ基礎研究所)
事業年度,12月期決算
(画像=ニッセイ基礎研究所)

さらに、S&P500(Standard & Poor's 500 Stock Index)の構成銘柄(2019年4月1日時点)の決算期別分布を見てみると、以下の図表の通りとなっている。この図表において、例えば、小売業の会社において、2月1日や2月2日を決算年度末としているような場合には、その実質的な意味合いから1月期決算として分類している。

例えば、Macy’sは「1月31日に最も近い土曜日」を決算期末日としている。このため、毎年の決算期末日は異なってくることになる(翌年が1年365日の時は翌年の決算期末日は1日前倒しになり、翌年が閏年の時は2日前倒しになる。ただし、これにより基準となる月末等の日から3日を超えてくる場合には、一挙に1週間後倒しになる)。これに伴い、会計期間は、1つの会社の中で、52週の年と(5年ないしは6年毎に)53週の年が存在することになる。こうした考え方は、小売業だけでなく、他の業界の会社でも採用している場合があり、もちろん期月も1月に限らない。こうした会社についても、上記と同様の考え方で分類している(なお。こうした考え方に基づく決算期末日及び会計期間の設定は、米国だけでなく、他の欧米諸国でも見られる)。

これによれば、結局、基本的にはダウ平均株価採用銘柄とほぼ同様な分布をしていることがわかる。ただし、3月期決算の会社の割合は74.8%とさらに高くなっている、これに続いて、9月期、6月期、1月期の会社の割合が他の月に比べて相対的に高くなっている。

事業年度,12月期決算
(画像=ニッセイ基礎研究所)

今回は、あくまでもダウ平均株価やS&P500に採用されている大会社のケースに絞って調査した。ただし、これが米国の一般的な会社の状況を示しているとは限らないかもしれない。実際に、米国においては、州の会計年度とリンクする形で、例えば「7月から6月まで」という事業年度を採用している会社が多い、と言われているようである。実は、この点についても調査したが、今回のレターでは具体的なデータでこれを明確に示すことはできなかったことを敢えて触れておく。

ただし、上記の図表にある通り、6月期決算や9月期決算の会社が他の月に比べて多くなっているのは、前回の基礎研レターで述べたように、殆どの州政府が6月期決算で、連邦政府が9月期決算であることが一定程度影響しているといえるだろう。

(参考)事業年度の呼称・表示

前回の基礎研レターで、政府の会計年度の呼称・表示については、「始期の属する暦年になる場合と、終期の属する暦年になる場合がある」、さらには「始期と終期の両方の暦年を表示する場合がある」と述べた。会社の事業年度に対するAnnual Report の表示はどうなっているのだろうか。

ダウ平均株価に採用されている30銘柄のうち、12月期決算以外の10社の例を調べてみると、9社は終期の属する暦年で表示していたが、1月期決算のThe Home Depot Inc.1社のみが始期の属する暦年で表示していた。その意味で、米国では、基本的には、政府の会計年度と同様に、「終期の属する暦年で表示」している会社が殆どのようであるが、必ずしも統一的なルールがあるわけではないようだ。

英国の会社の事業年度はどうなっているのか

英国においても、会社は決算期を自由に決定することができる。従って、会社によって、決算期は異なっている。

例えば、BT GroupやNational Gridなど、かつて政府が所有していた多くの大会社は、民営化以降に事業年度を変更する特段の理由もなかったことから、4月から3月の事業年度を引き続き使用している。一方で、British Airwaysを含むIAG(International Airline Group) 等のように、欧州全体にわたって、さらにはグローバルに活躍している大会社の多くは12月期決算となっている。

因みに、ロンドン証券取引所に上場する時価総額上位100銘柄で構成される株価指数であるFTSE100 (Financial Times Stock Exchange 100 )の対象銘柄(2019年3月末時点)の決算期日の分布は、以下の図表の通りとなっている。

これによると、大会社が対象となっており、グローバルに活躍している会社も多いことから、12月期決算の会社が6割を超えている。なお、次に3月期決算の会社が17%と高い割合となっている。

なお、FTSE100の構成銘柄のうち、米国の会社の例で述べたように、決算期末が必ずしも月末でない会社は5社ほど存在している。また、これらの会社の決算期末は、必ずしも月末を基準日に設定しているわけではなく、例えば3月中旬や9月中旬を決算期末としている会社もある。

事業年度,12月期決算
(画像=ニッセイ基礎研究所)

結果として、英国においても、大会社の場合の事業年度と国と会計年度とはあまりリンクしていないようである。ただし、英国においても、一般的な会社の場合には、国の会計年度とリンクする形で、3月期決算の割合が高くなっているようである。この点についても、具体的なデータで示すことはできなかったが、敢えて触れておく。

なお、英国の会社のAnnual Reportの表示についても、米国と同様に、統一されているわけではなく、例えば2018年に開始して、2019年の決算期月に終了する事業年度に対するものは、「Annual Report 2019」として表示される場合や、「Annual Report 2018/19」として表示される場合があるようだ。