はじめに

学校年度
(画像=PIXTA)

基礎研レター「3月期決算の会社が多いというのは本当か、またその理由は?」(2019.4.1)では、日本の会社で3月期決算(事業年度が4月から3月まで)が多いことの理由の1つとして、「教育機関の学校年度(school year又はacademic year)との関係」も挙げた。小中高等学校や大学等の教育機関の学校年度が4月にスタートして3月に終了することも、会社の事業年度の決定に影響していると述べた。

それでは、なぜ、学校年度は4月から3月になっているのだろうか。今回のレターではこの点について調べてみた。

教育機関の学校年度について

「学校年度」というのは、いわゆる教育機関の1学年の年度を表す用語として、英語で言えば「school year又はacademic year」ということになる。「学年暦」という言い方もしている。

学校教育法に定められている「学校」(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校)については、その設立について、監督庁の認可を受けなければならない。国立学校や公立学校の場合には、当然に国や地方公共団体の予算管理下にあるが、私立学校の場合も、「毎会計年度の開始前に収支予算を、毎会計年度の終了後二箇月以内に収支決算を監督庁に届け出なければならない」(学校教育法第15条)ことになっている。このように、学校の予算については、国や地方公共団体の会計年度とリンクした形になっている。

また、学校教育法施行規則第59条には「小学校の学年は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる。」と規定されており、中学校については第79条で、高等学校については第104条で、特別支援学校については第135条で、幼稚園については第39条で、それぞれ第59条を準用している。

従って、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等の学校年度については、4月から3月までとなっており、たとえ私立学校であっても、自由に設定することはできない。

一方で、大学については、同じく学校教育法施行規則第163条に「大学の学年の始期及び終期は、学長が定める。」と、専修学校については第184条に「専修学校の学年の始期及び終期は、校長が定める。」と規定されている。

実際に、大学によっては、9月や10月からの入学(学年の初期)を認めているところもある。

なお、学校の会計年度については、私立学校法第48条には「学校法人の会計年度は、四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終るものとする。」と規定されており、国公立学校を含めて、4月から3月までに統一されている。

(参考)4月1日生まれの児童生徒の取扱

よく知られているように、4月1日生まれの児童生徒は、3月31日生まれと同じ学年となることから、学校年度は4月2日からではないかと思われる方もおられるかもしれない。これについては、「年齢計算ニ関スル法律」と民法第143条によりその考え方が示されており、「年齢計算ニ関スル法律」によれば、「年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス」となり、さらに「民法第百四十三条ノ規定ハ年齢ノ計算ニ之ヲ準用ス」との規定から、民法第143条第2項の「週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。」ということになる。即ち、人は誕生日の前日が終了する時(午後12時)に年を一つとる(満年齢に達する)ことになる。このため、4月1日生まれの児童生徒は誕生日の前日である3月31日の終了時(午後12時)に満年齢が増加していることになることから、4月1日時点の年齢は、3月31日生まれまでの人と同じグループとなる。このため、4月1日からの学校年度にリンクした児童生徒の学年編成になっているということになる。

日本の教育機関の学校年度はなぜ4月から3月に設定されているのか

江戸時代の寺子屋や明治時代の初期の学校においては、入学時期や進学時期について、特段の決まりはなく、いつでも入学できるし、進級についても各個人の能力に応じたものだった。また、地域や学校によっても異なるものだった。ただし、子供の寺子屋入学は一家の慶事であったことから、気候のよい春先が選ばれるケースが多かったようである。

明治時代になると、明治政府は全国的に近代的な学校を作るため、明治5年に「学制」を交付し、学校制度がスタートしたが、ドイツや英国等を手本にして、「一斉入学・一斉進級」にするとともに、9月入学が主流になっていった。

ところが、前々回の基礎研レターで述べたように、明治19年に国の会計年度が「4月から3月まで」になると、これに合わせて、徴兵対象者の届出日がそれまでの9月から4月に変更され、4月が士官学校等軍関係学校の新学期になっていた。これに伴い、一般の学校についても、国が積極的に学校年度の統一を指導するようになった。国や地方公共団体から補助金をもらっている学校は、初等・中等教育から順次、学校年度が国の会計年度に合わせる形で「4月から3月まで」に変更されていったようである。

一方で、大学については、当時の帝国大学が大正10年に4月入学としたことで、「4月から3月まで」の学校年度が定着していったようである。

諸外国の学校年度はどうなっているのか

それでは、諸外国の学校年度はどうなっているのだろうか。また、国の会計年度との関係について、日本では両者はともに4月から3月までで一致しているが、諸外国ではどのような関係になっているのだろうか。

●各国の公的教育機関の学校年度(School Year)

各国・地域の初等・中等教育(小・中・高等学校)の「学年暦」の開始時期(新たな学年がスタートする時期)について、文部科学省のWebサイトにおける「世界の学校体系」(1)によると、以下の通りとなっている。

1月 シンガポール、マレーシア、バングラデシュ、南アフリカ
2月 オーストラリア、ニュージーランド、ブラジル
3月 韓国、アフガニスタン、アルゼンチン、ペルー、チリ
4月 日本、インド、パキスタン
5月 タイ
6月 フィリピン、ミャンマー
7月 米国
8月 スイス、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、台湾、ヨルダン
9月 英国、アイルランド、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、オランダ、ベルギー、ギリシア、ロシア、カナダ、メキシコ、キューバ、中国、インドネシア、ベトナム、イラン、トルコ、サウジアラビア、エチオピア、ナイジェリア
10月 エジプト、カンボジア

世界の多くの国では、学校年度は9月からスタートしている。

これは、北半球の国々の場合、夏休みを終了して、新たな学校年度がスタートする形になっていることを意味している。南半球のオーストラリアやニュージーランドやブラジル、アルゼンチン等も同様の考え方で、夏休み明けの2月や3月から新学年がスタートする形になっている。

これは、基本的には、春から夏に当たる時期は、小麦の収穫期や牧畜の出産期等で忙しい時期にあたるため、昔の子供たちは農作業等の手伝いを行っており、これらの時期を終えた後の秋に当たる時期から新たな学校年度が開始され、冬にかけて学校に通っていたことによっている、と考えられている。

多くの国がこうした考え方に基づいていると想定されるのに対して、日本や韓国等ではそれぞれの国の歴史的な経緯等も踏まえて、稲作のスタートする時期ではあるものの、新たな学年がスタートする時期として、これから暖かい時期を迎えていくことになる、春に新学期をスタートさせる形になっている。

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(1)http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/detail/1396836.htm

●米国の学校年度について

米国の学校年度については、州毎に定められている。

州法が定める「学年暦」については、「7月から6月まで」となっているが、入学時期については基本的には9月となっている。なお、9月とはいっても、ハワイ、フロリダ、カリフォルニア、アラスカ等、州や地域によって、その気候等は大きく異なっているため、入学時期のイメージは大きく異なっているといえるかもしれない。

また、学校の会計年度に関しては、例えばテキサス州では、「7月から6月まで」と「9月から8月」までの2つのオプションから選択できる形になっている。

●英国の学校年度について

英国では、基本的には9月入学がメインであるが、それ以外にも1月や4月からの入学の機会も与えられている。

●韓国の学校年度について

韓国も1961年までは、日本と同じ4月スタートだったが、1962年から3月スタートに変更されている。3月に変更された理由としては、1月、2月を休暇にすることで、国家による暖房費用の負担を減らすためだったと言われているようである。

実際に、韓国では、12月下旬~1月下旬や2月上旬までが冬休みで、この期間は旧正月と重なることにもなっている。その後1週間から2週間、授業があって、2月中旬から2月下旬まで、今度は春休みになる。そして、3月から新年度がスタートする形になっている。

なお、日本と同様に、大学等の高等教育においては、秋学期制等の導入が認められている。

日本の学校年度を見直す動きについてはどうなっているのか

諸外国の多くにおいて、学校年度が9月にスタートすることから、国際化が進展している中で、外国からの学生を受け入れるためには、こうした諸外国に合わせて、日本においても学校年度を9月からにしてはどうかという意見が出てきている。

日本においては、卒業式や入学式は桜の季節というイメージが大きいことから、こうした動きに対しては何となく違和感を受ける人も多いかもしれない。こうしたこともあり、学校年度の見直しの話については、繰り返し出てくるが、これまでは実現していない。

ただし、先に述べたように、諸外国では新学年は秋に迎えるものとの考え方になっており、日本のように春に新学年を迎える国は少数派となっている。春は芽吹きの季節であるから、新しい学年を迎える季節としてふさわしいというのが、多くの日本人の感覚かもしれないが、このような考え方は世界の主流ではないことになる。

学校の入学時期については、各国の気候・風土や歴史的な背景等をベースとしつつも、過去には財政や社会的な問題等も背景にあって変更もなされてきている等、結構政治的な要素も影響していることは否めないようである。

「現在の制度は伝統的な文化として定着しており、社会生活とも深く関わっているから変更すべきでない」との意見も多いことから、これから学校年度を変更することについて、社会的なコンセンサスを得るのは相当に難しいと思われるが、グローバル化が進展していく中で、何が本当に守るべき「伝統的な文化」なのかを今一度考えてみることも大事なことかもしれない。

会計年度と学校年度及び会社の事業年度の関係-各国比較-

今回及びこれまでの基礎研レターで、国の会計年度、学校年度及び会社の事業年度の状況を諸外国も含めて報告してきた。概略をまとめると、以下の図表の通りとなっている。

これからわかるように、日本は基本的に国の会計年度に従っており、これらの3つが一致していることになっているが、諸外国では必ずしも3つが一致しているわけではない。前回の基礎研レター「諸外国の会社の事業年度は12 月期決算が殆どなのか?」(2019.4.12)でも述べたように、国の会計年度と会社の事業年度は一致している国も多いが、国の会計年度と学校年度はむしろ異なっているのが一般的である。

3つの年度が一致していることは、それはそれで、それなりの効率性を生んでいるのかもしれないが、こうした点も今一度再評価してみることも必要かもしれない。

学校年度
(画像=ニッセイ基礎研究所)

中村亮一(なかむら りょういち)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

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