2019年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比5.6%増(1)と、前期の同6.3%増から低下し、市場予想(2)(同6.0%増)を大きく下回った(図表1)。

フィリピンGDP
(画像=The Art of Pics/Shutterstock.com)

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に純輸出の悪化や政府消費、投資の鈍化が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比6.3%増(前期:同5.3%増)と上昇した。民間消費の内訳を見ると、引き続き酒類・たばこ(同3.7%減)は低迷したものの、通信(同8.5%増)や食料・飲料(同5.8%増)、交通(同5.7%増)が復調したほか、教育(同12.0%増)や住宅・水道光熱(同6.6%増)が堅調に推移した。

政府消費は同7.4%増となり、前期の同12.6%増から低下した。

総固定資本形成は同5.7%増となり、前期の同8.5%増から低下した。まず建設投資は同5.0%増(前期:同17.6%増)と大きく低下した。好調だった公共建設投資(同8.6%減)が急減し、民間建設投資(同8.6%増)も鈍化した(図表2)。一方、設備投資は同5.7%増(前期:同2.3%増)と上昇した。設備投資の内訳を見ると、電気通信装置(同3.4%増)は低調だったが、全体の4割を占める道路運送車両(同4.8%増)やオフィス機器(同12.6%増)が持ち直したほか、鉱業・建設機械(同11.4%増)が高水準を維持した。

フィリピンGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲2.6%ポイント(前期:▲0.6%ポイント)となり、マイナス幅が再び拡大した。まず輸出は同5.8%増(前期:同14.4%増)と低下した。輸出の内訳を見ると、財輸出は同6.1%増(前期:同16.1%増)と主力の電子部品を中心に鈍化、またサービス輸出が同4.9%増(前期:同7.4%増)と伸び悩んだ。一方、輸入についても同8.3%増(前期:同12.4%増)と低下したが、伸び率は輸出を上回った。

供給項目別に見ると、主に第一次産業と第二次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表3)。

まず第二次産業は同4.4%増(前期: 同6.1%増)と低下した。製造業(同4.6%増)はラジオ、テレビ・通信機器の落ち込みを食品加工や化学製品の拡大が上回って上昇したが、前期まで二桁成長が続いた建設業(同3.9%増)が大幅に鈍化、電気・ガス・水供給業(同3.1%増)と鉱業・採石業(同5.3%増)も伸び悩んだ。

また第一次産業は前年同期比0.8%増(前期:同1.8%増)と再び低下した。エルニーニョ現象による干ばつや昨年末の大雨の影響でコメが不作となり、農業(同0.6%増)が低調だった。

一方、GDPの約6割を占める第三次産業は同7.0%増(前期: 同6.8%増)と上昇した。行政・国防(同9.7%増)の増勢は鈍化したものの、商業(同7.4%増)や運輸・通信(同8.1%増)、金融(同9.8%増)がそれぞれ加速した。

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(1)5月9日、国家統計調整委員会(NSCB)が2019年1-3月期の国内総生産(GDP)統計を公表。前期比(季節調整値)の実質GDP成長率は1.0%増と前期(同1.8%増)から低下した。
(2)Bloomberg調査

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は、増税の影響で消費が盛り上がりに欠けた昨年でさえ+6.2%の高い成長を維持したが、1-3月期の成長率は4年ぶりとなる5%台の低水準まで鈍化した。フィリピン政府は3月に今年の成長目標を従来の7-8%から6-7%に引き下げているが、1-3月期の成長率はこの下限を下回る結果となった。

1-3月期の景気減速の主因は、2019年度予算を巡る上下両院の対立と米中貿易紛争の影響だ。まず今年度予算案は昨年11月に下院、今年1月に上院で可決された後、内容の改変を巡って両院が対立、2018年予算が再執行されている事態となっていた。このため、政府のインフラ整備事業や公務員給与の支給などに悪影響が表れ、1-3月の中央政府歳出は前年比0.8%増(10-12月期:同13.5%増)と失速した。結果として、1-3月期の実質GDPでは政府消費が同7.4%増(前期:同12.6%増)と鈍化、公共建設投資が同8.6%減(前期:同11.8%増)とマイナスに転じることとなった。

また米中貿易摩擦が加わって電子機器の受給が悪化したことも、輸出と設備投資の鈍化を通じて景気を押下げている。電子機器はフィリピンの輸出全体の約6割を占める最も重要な輸出品であるだけに、世界的な電子機器の需要鈍化や市況悪化が製造業の足枷となっている。このほか、企業優遇税制の縮小を盛り込んだ法人税改革の議論が遅れていることも、外資系企業が政策の先行き不透明感を警戒して設備投資を控える要因になっている。

フィリピンGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、GDPの約7割を占める民間消費は3四半期ぶりに+6%台まで加速した。消費者物価は、物品税増税の影響で昨年9月に+6.7%まで上昇したが、その後は政府のインフレ抑制策や中央銀行の利上げ(昨年+1.75%)、油価下落、そして年明けからの増税効果の剥落により落ち着きを取り戻しており、今年1-3月には+3%台まで低下した。また良好な雇用環境も続いており、消費を巡る環境の改善が民間消費の回復に繋がったようだ。

成立が遅れていた今年度予算案であるが、ドゥテルテ大統領が4月15日に両院が対立していた公共事業予算を除いて署名、予算執行は同26日から始まっている。今後は政府支出が加速することにより、政府主導のインフラ整備計画が再び進展へ向うものと予想される。また4月のインフレ率は+3.0%と中銀目標(2-4%)の中央値付近で推移しており、引き続き消費の回復が期待できそうだ。こうしてフィリピン経済は1-3月期で底打ち、成長率は再び+6%台へと上昇するだろう。原油価格の上昇や天候悪化など先行きのインフレリスクには注意が必要だが、現行の物価水準を踏まえると、今後は中銀が金融緩和に舵を切る可能性は高まっており、政策支援が景気を押し上げる展開も予想される。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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