山村の人が住まなくなり崩れかけている木造家屋、都市内にある何十年にもわたり居住者がおらず壁にはツタがからまり窓は割れて一部の壁が壊れている一軒家・・。
空き家数増加のニュースで、このような映像を見られた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
2019年4月26日に平成30年住宅・土地統計調査の概数集計結果として、全国の空き家数と空き家率が公表されました。調査結果によると、2018年の全国の空き家数は過去最多の846万戸(空き家率は13.6%)となり、2013年の前回調査と比べ26万戸(+3.2%)の増加(空き家率は0.1ポイント上昇)でした。
空き家は人口減少、少子高齢化の中で増え続けています。ただ、空き家率はさほど上昇していないと感じた方がいるかもしれません。その理由の一つに、報道で流されたような廃屋が、空き家数846万戸には含まれていないこともありそうです。住宅・土地統計調査は人が住める住宅を対象とする統計だからです。廃屋の空き家を含めると、実際の空き家数は846万戸より多くなると考えられます。
空き家率がさほど上昇していないと感じる他の理由としては、空き家の区分ごとの増減もあげられます。空き家には、別荘などの「二次的住宅」と、「賃貸用の住宅」、「売却用の住宅」に加え、「その他の住宅」として転勤・入院・死去などの理由で、居住世帯が長期にわたって不在の住宅などがあります。前調査からの5年間に、「二次的住宅」は3万戸の減少、「賃貸用の住宅」は2万戸の増加、「売却用の住宅」は1万戸の減少でしたが、「その他の住宅」は29万戸の増加となっています。一般的には、「その他の住宅」が空き家のイメージに合うと思いますが、これが9.1%という大幅な増加になっているのです。一方で、売却用の空き家などが減少していることが、空き家数全体の増加を抑制しているようです。
増え続ける空き家への対策として、2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法(以下空家特措法とする)」が施行され、荒廃した空き家などを「特定空家等」と自治体が認定すると、固定資産税額は大幅に引き上げられ、行政代執行で取り壊されるとその費用を所有者に請求できるようになりました。前ページの図に示したのが、住宅・土地統計調査と空家特措法における空き家の定義の違いになります。空家特措法の対象には、廃屋の空き家も含まれています。ただし、空家特措法は2018年10月現在、全国の市区町村の49%が策定済みの段階であり、全国的な統計は整っていません。また、荒廃した空き家などへの対策(助言・指導、勧告、命令、代執行等)が主な目的のため、各自治体における調査でも、空き家数の把握というよりも、空き家の損傷程度の判断に重点が置かれているようです。
全国の自治体別の空き家数と空き家率は、現時点では5年に一度調査される住宅・土地統計調査でのみ把握できます。ただ、廃屋が統計には含まれないなど、一般的なイメージでの「空き家」とは異なる点があるかと思います。住宅開発や住宅投資などで、空き家数や空き家率を対象地域の住宅需給の現況をみるための指標として用いる場合もあるかと思いますが、改めて統計の定義を確認するのはいかがでしょうか。
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竹内一雅(たけうち かずまさ)
ニッセイ基礎研究所 客員研究員
http://www.nli-research.co.jp/
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