(本記事は、中川奈美氏の著書『自分も相手も幸せになる最高の気遣い』=自由国民社、2018年10月17日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

共感力を磨く

自分も相手も幸せになる最高の気遣い
(画像=Stock-Asso/Shutterstock.com)

お客様と心の距離を縮め、より良い人間関係を築くために、とても大切なのは共感力です。

そして、接客で求められる共感力とは、ただ、共感することのみではなく、共感を表現すること。

「共感を表現する」とは、お客様の心の状態を察して表現して差し上げることです。

そして、お客様に、こちらが共感していることを感じていただくことです。

そのことにより、お客様の中で、「この人私のこと分かってくれている」という安心感が生まれます。この安心感は両者の心の距離を縮めるのに大変役立ちます。

そして、テンションも合わせましょう。

例えば、お客様が心配と焦りのご様子で「どうしよう。子供がいなくなっちゃって、どこに行っちゃったのかしら」とお子様が迷子になってしまわれた旨の問い合わせがあった場合。接客側も少し、テンションを合わせて「それは心配でいらっしゃいますよね」と共感してから、対応に入るのです。

すると、お客様の心が安定することが多いです。これはお客様の心の中に、自分の理解者がいるという安心感が芽生えるからです。

他にも、会話の中でお客様やその身近な方のお祝い事が分かったら、すぐに嬉しい笑顔で「おめでとうございます」とお客様の喜びを共に分かち合うとよいですね。当然、お客様に喜んでいただけるはずです。

この共感力を磨くためには、まず、感性を高めること。そして、その感性を表現することです。

例えば、五感を磨く。

忙しい中でも、ちょっと立ち止まって、季節を感じるようにする。

頬を撫でる風を感じる。木やお花、雨等の香りを感じる。

自然の色彩を感じ、様々な自然の輝きを感じる。

毎日慌ただしく過ごしている現代日本人にはなかなかできないことですが、ぜひ、少し立ち止まって「感じる」時間を持ってみてはいかがでしょう。

お食事もそうです。舌でしっかりと美味しさを感じる。そして、言葉に出してみてほしいのです。

色彩であれば、「きれい」だけではなく、「若葉に日が差して活き活きとした生命力を感じる」ですとか。お食事であれば、「美味しい」だけではなく、「素材の味一つ一つがしっかりしているけれど、とても調和がとれていておいしい」等、様々な言葉、語彙で表現するのです。すると、感性を磨くとともに、表現力も磨かれます。

よく、指導する接客者の方から、接客時、「お客様の気持ちは分かるし共感できるんですけど、なんて言っていいか分からないんです」という言葉を伺います。

そこは、感性と表現力を磨くことで、共感をするときに自然と言葉が出てくるようになります。ぜひ、お勧めします。

そして、この表現力は営業時の商品説明の時にも役立ちます!

ご自分の感性で、ご自分の表現で良いので、試してみてください!!

上昇のスパイラルに一緒に乗る 

お客様との関係性、相手の方との関係性において、やはり、一緒にいる時間を楽しく、気持ちよく過ごしていただきたいですよね。

万が一、お客様の心の中が暗い状況であっても、晴れやかで明るい気分になって帰っていただきたいですよね。

接客側の働きかけにより、それが可能なのです。

もちろん、相手の方の心の状況を察することも大切です。

相手の方が落ち込んでいたら、一緒にテンションを下げてお話を伺って差し上げることもあるかと思います。それもとても大切なことです。

ただ、お帰りになる際には、気持ちよく、少しでも明るい気持ちになってお帰りいただきたいものですよね。

また、お客様の心が普通の状況であればなおのこと、明るい気持ちになっていただきましょう。

まずは、常に明るい笑顔でいましょう。

そして大切なのが、前向きなコミュニケーションです。

前向きな言葉、ポジティブトークとも言います。これまでにもこのお話が出てきたかと思いますが、もう少し詳しく見ていきましょう。

まず、表現を前向きにしましょう。

基本的なところでは語尾を肯定形にすること。何か尋ねられて分からないとき「分かりません」「知りません」ではなく、「ただ今すぐには分かりかねますが、すぐに確認いたします」等。

他にも、梅雨時で雨が続いている頃に、お客様がご来店くださったとしましょう。その際、お客様が「今日も雨ね」と不機嫌そうにおっしゃったら、「さようでございますね」とお客様に同調してから

「本当に梅雨らしいお天気ですね。お足元の悪い中、ご来店くださいまして、本当にありがとうございます。こんなに雨続きでは今年は水不足の心配はなさそうですね」

と明るく感謝と雨であることのメリットを伝えてみる。

また、傘などのレイングッズで素敵な物をお持ちの場合であれば「こんなおしゃれな傘でしたら、お使いになるのも楽しいですね! とてもお似合いでいらっしゃいますね」等と笑顔でお褒めする。ちょっと嫌だと思うことも楽しいコミュニケーションによって楽しい気持ちや明るい気持ちに変えられるのです。

どのような出来事もメリットと感じる部分とデメリットと感じる部分、良いと感じる部分とそうでないと感じる部分が混在しているのです。

接客側はお客様をおもてなしをする際、言葉遣いや所作のみでなく、心のおもてなしも大変重要です。心のおもてなしこそ、根底にあるおもてなしの基盤と考えます。

ですので、コミュニケーションによって明るく心地よいお気持ちになっていただくのです。

アパレルなどで、色展開の少ない商品、例えば、黒とグレーの2色展開のジャケットがあったとします。そこでお客様が黒のジャケットを指して、「他の色ある?」とお問い合わせをいただきました。

よくあるのは「申し訳ございません、こちら黒とグレーのみしかないんです」という答え方です。この「しか」と「ないんです」という言葉はややネガティブです。そう言われるよりは、「はい、ありがとうございます。こちらグレーもお作りしております」とお伝えしてお見せします。

お客様の反応が難色気味であった場合「こちらのジャケットは黒やグレーが一番しっくりと、このしなやかなカットに合うものです。とても上品さや落ち着いた雰囲気が際立ちます。もしよろしければ、どのようなお色目やイメージでお探しでいらっしゃいますか?」とニーズの聞き出しをします。

前向きに商品を魅力的に表現しながら、お客様のニーズにしっかりと対応していくことが重要です。がっかりさせた気持ちのまま終わらせないのがポイントです。

他にも在庫切れでお目当ての商品がない場合、よくあるのが「後は、お取り寄せになっちゃうんですよね」この答え方も積極性に欠けていて、前向きとは言えません。

それであれば「お客様、お急ぎでいらっしゃいますか?」と確認したのち、「よろしければお取り寄せをさせていただきます。○日にはご用意できますがいかがでしょう?」と積極的にお勧めしましょう。

そのほうがお互いに気持ちが良くないですか? 

しかも、「お取り寄せ」は店頭にないものをわざわざもう一度足を運んでお買い求めに来てくださるのです。もちろん「ありがとうございます!」ですよね。

「少々お待ちください」をポジティブに

ここで、「少々お待ちください」について。

日本の接客者は「少々お待ちください」という言葉をよく使います。しかし、この言葉はお控えいただいたほうが良いです。

なぜなら、お客様側は自分の声掛けに対し「少々お待ちください」と言われた場合、拒否された印象を受けます。

ですので、「かしこまりました。すぐに伺いますので、恐れ入りますが、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」といったん受け止めてから、クッション言葉も活用して、お待ちいただくよう了解をとります。すると、お客様の中で、自分を受け止めてくれた印象と配慮を感じ、イライラやがっかりが軽減されます。

また、何か確認や準備などで応対中にお待ちいただく際も、「少々お待ちください」とお伝えすると、お客様の心に「待つ」という印象が強くインプットされます。それよりは、時間を要さない場合は「すぐに確認いたします」「ただ今ご用意いたします」と伝えます。

少しお時間をいただく場合には「すぐに確認をいたしますので、恐れ入りますが、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」とお待たせする理由とクッション言葉、そして、お待ちいただくことの了承を得たうえで、さらに、あれば着席スペースをご案内するほうが、配慮があり、好印象です。

また、少しでもお客様の前を離れた場合には、戻った後「失礼いたしました」「お待たせいたしました」とお断りをしましょう。もしも、お時間を要した場合には「お待たせして申し訳ございませんでした」と謝罪もするとよいですね。

お互いに気持ちよく明るくなれるようなコミュニケーションをとっていただくと、お客様の気分が良くなります。

気分が良くなると運気も上がります。

こちらのモチベーションも上がり、売り上げも高まりますし、仕事への充実感も味わえます。お互いに上昇のスパイラルに乗ることができるわけです。

ぜひ、笑顔とポジティブトーク、そのお客様に合う、そしてそのお客様が素敵と思ってくださる言葉選びで、前向きなコミュニケーションを図りましょう!

自分も相手も幸せになる最高の気遣い
中川奈美(なかがわ・なみ)
接遇コンサルタント、AIQOL代表。「人が好き、食が好き」の性格から接客業に就く。その傍ら食を学び携わる。7年半務めた国際線客室乗務員時代は、接客サービスに関する社内賞を複数受賞。マナー協会プロフェッショナル講師認定資格複数、GCS認定プロフェッショナルコーチ、栄養士、日本ソムリエ協会ソムリエ呼称資格、利き酒師、食生活アドバイザー2級、フードアナリスト2級、フードアナリスト協会認定講師、アルマック認定リスクマネジメントコンサルタント等。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます