不動産投資のリスクを、実際に現場で起きている問題から学ぶ!

不動産投資のトラブルは、ミクロで見るとさまざまな事情や状況で多岐にわたりますが、法的な結論はシンプルで、いくつかのポイントを抑えておけば、トラブル回避は充分に可能です。そこで、私たち弁護士が実際に相談を受けた案件から、よくあるトラブルをご紹介。なぜ問題が生じたのか、そしてどのように解決したのかをわかりやすく解説します。

不動産投資トラブル❸「原状回復ってこんなにかかるの・・・」
(画像=ヴェリタス・インベストメント)

原状回復ってこんなにかかるの・・・

埼玉県在住 鈴木さん(62歳、男性)からのご相談

先日、不動産投資をしてみようと決意し、いろいろ探して、築年数は古いのですが、格安の物件があったので、購入することにしました。築50年の古い木造アパートなので、賃料は安いのですが、既に入居者がいて、すぐに毎月の家賃収入が入ってきて、よかったと思っていました。

しかし、先日、10年間住んでいた入居者が退去することになりました。退去するにあたり、不動産管理会社が室内を確認したのですが、とても古い物件だったこともあり、床がいまにも抜けそうな状態で、新たに賃貸に出すためには原状回復代が200万円も必要だと言われました。これでは、取得してからの賃料が全て原状回復代に消えてしまいます。しかも、預かっていた敷金は、全額を返さないといけないと管理会社から言われました。

原状回復代を退去した借主に請求できないのでしょうか。せめて敷金を原状回復代に充当したいのですが、敷金を返金しなければならないのでしょうか。

よくあるトラブル❸「敷金の返還」

これで解決!

賃貸経営には、賃料が入ってくるだけでなく、経年劣化による修繕の費用などの支出も覚悟しなければなりません。その点で、よく問題になるのが、ご質問にあるような原状回復と敷金返金の問題です。

この点、基準として参考にすべきなのは、国土交通省が出している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。裁判所も、このガイドラインを参考に判断をしていますので、このガイドラインに従って、原状回復代をどちらが負担するか、敷金から原状回復代を差し引けるかを検討するのがよいと思います。

このガイドラインのポイントは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、原状回復の費用は賃借人負担とし、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は賃料に含まれるものとして、賃貸人負担としました。つまり、建物が自然に古くなったり、借主が普通に生活して汚れたりしたものの原状回復代は賃貸人負担で、借主がわざと壊してしまったりした場合だけ賃借人負担ということです。

そうすると、特に、古い建物だと、自然に古くなる度合いが新しい建物よりも早くひどいので、古い建物ほど、経年劣化や通常の使用による修繕費用は増大します。新築でRC造のワンルームマンション等では今回の例のように床が抜けそうで原状回復費が200万円もかかることはありませんが、初期費用が安い物件ほど建物が古く、ランニングコストが高くつく場合もあります。結局、原状回復代のせいで赤字になったり、原状回復代が払えなくて、新たに貸し出せず、家賃収入が得られなかったりすることがないように、取得後の収支に注意しなければなりません。その意味で、長期的に損か得かを的確にアドバイスしてくれて、親身に相談にのってくれる不動産会社をパートナーにして、投資を進めていくことが大切だと思います。

なお、原状回復代についても、あえて高い請求をしてくる管理会社や工事会社もあるようですので、原状回復代が適正かどうかについても注意が必要です。(提供:ヴェリタス・インベストメント

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弁護士 種⽥ 和敏(たねだ かずとし) 弁護士(第二東京弁護士会)。池袋の城北法律事務所に所属。1982年に滋賀県大津市に生まれ、神奈川県藤沢市で育つ。2005年に東京大学法学部を卒業後、東京都港区役所に5年間勤務、成蹊大学法科大学院(夜間コース)を修了、2011年に弁護士登録。借地借家の問題を中心に不動産関係の法律問題に取り組む。著書に『だけじゃない憲法』(猿江商會)。