はじめに~東京における商店街の役割と、商店街が抱える課題

東京は地方に比べて多くの商店街や小売店舗が存在する。中小企業庁の「商店街実態調査」によると、商店街に属する店舗の数は全国で18.4万店あり、このうち東京都がトップで5.1万店(占率28%)と第2位の神奈川県(1.3万店)の約4倍となっている(図表-1)。面積1km2あたりの店舗数を見ても、東京都は22.6店と、他県を圧倒する数値となっている(図表-2)。その背景としては、東京都では鉄道網が発達して居住者が車を持たなくても近くの商店街などに日用品の買い物に行くことができる一方で、地方では郊外の大規模小売店により駅前の商店街が少なくなってしまっていることなどが考えられる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

また商店街は街づくりや賑わいの創出にも貢献している。例えば、毎年多くの人を集める表参道のイルミネーションは地元の商店振興会が開始し、現在も主導する冬の風物詩だ。他にも、都内各地のお祭りやイベント開催に商店街がかかわっているものは多く、各エリアを彩りながら、街づくりのソフトインフラ(1)としての役割を果たしている。

一方、同調査によると商店街の課題として、「経営者の高齢化による後継者問題(64.5%)」が指摘されている(図表-3)。後継者問題については「91.2%」が「対策を講じていない」とも回答しており、多くは廃業の可能性を考えていると思われる。実際に、東京都によると商店街の数は2001年度から2016年度までの15年間で1割強減少している。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)ソフトインフラ(ソフトインフラストラクチャー)は、制度・基準、技術・運用ノウハウ、人材育成等のソフト面でハードインフラを支える基盤のこと。対するハードインフラ(ハードインフラストラクチャー)は産業の機能に必要な物理ネットワークのことで、一般的には道路、学校、病院、発電所、浄水場などに代表される、公共の構造物のことを指す。

商店街は、なぜマンションに建て替わるのか

東京では人口流入が続いており、今後も一定のマンション需要が見込まれる。また近年マンションは立地の良さや駅への至近性が重視されており、駅前立地のマンションは高値で販売されている。現存する商店街は駅前が多いが、駅前は容積率が高く、共用部を効率的に利用してマンションを建設できることからマンション適地となることが多い。

「図表-3」では2番目の課題として「店舗等の老朽化(38.6%)」が上がっている。「後継者問題」と「店舗の老朽化」をあわせて考えると、いずれは商店街の店舗の建て替えが進行するのではないだろうか。現在活況に見える商店街でも、将来的には店舗がマンションに建て替わり、商業エリアとしての活気が失われてしまうことも十分にありうる。

さらにデベロッパーから見ると、商店街の店舗跡地に建てるマンションは高い収益性を見込むことができる。その理由の一つとして、エントランスホールやエレベーターホールを含む共用部は容積率に算入されないため、ほとんど全ての容積対象面積をマンションの各戸専用部分に使えるからである(図表-4)。商店街の賑わいを維持するためには、従来の店舗がマンションの1F部分に入居することが望ましい。しかし、1Fに店舗が入ると、店舗部分は容積対象面積へ算入されるため、最も高値で販売される高層階の一部が削られることとなる(図表-5)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

またエントランスを広くして、豪勢なデザインにするとマンション全体の価値も上がりやすい。そのため、1Fの店舗を計画するにはマンション収益を大きく上回る賃料負担力をもつテナントが必要になり、そのハードルは決して低くない。

商店街は連続した店舗の集合体であり、個々の店舗だけではなく、商店街全体として集客力を強化する必要がある。商店街の真ん中に空白地帯が生まれれば商店街全体の集客力は減少してしまう。また商店振興会の取り組みにみられるような地域一体での街づくりの活動は他の組織にはない機能である。この運営予算は、所属する商店などから会費や協賛金として集められることが多い。このため、商店街の賑わいや運営予算が減少してしまうと商店振興会の運営力が低下し、イベントや街づくりの取り組みが行われなくなる恐れもある。そうなる前に、商店街という街のソフトインフラを維持するには何が必要だろうか。

法的緩和と店舗の連続性の維持

店舗の連続性は、法的規制の緩和により維持できる可能性がある。容積率は都市計画により50~1300%の間であらかじめ定められているが、市町村はこれに加えて地区ごとに現況にあわせて緩和あるいは規制を設定できる。商業繁華性を維持したいエリアについて、1F店舗部分と同じだけの面積を上積みできるように緩和すれば、上記「図表-4」、「図表-5」で示した店舗とマンションの建設で生じる問題を解決することができる(図表-6)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

例えば7月に地区計画が告示される東京都中央区、日本橋・東京駅前地区(高度利用地区)では、誘導用途(物販店舗、飲食店、診療所等)を一定割合以上建築すると容積率が緩和される予定である(図表-7)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

高層階のマンション部分が削られることがなければ、収支上は収益を生まないエントランスではなく、店舗にした方がよいと判断するケースも増えるであろう。商店街の店舗がマンションに建て替わっても、1Fに店舗が入居することで空白地帯が無くなり、商店街の連続性は維持される。入居するテナントにより新たな顧客層が獲得できれば全体としての力もさらに高まるだろう。

おわりに

これまで商店街では、商店街の人々の街を良くしたいとの思いから自然とソフトインフラが作り上げられてきたのではないだろうか。しかし、商店振興会など街のソフトインフラの機能が弱まってしまうと、街の特色は徐々に失われてしまう。一方で、新たなマンション建設によるエリア人口の増加そのものは歓迎すべきことであり、培われてきた街づくりや賑わいの創出へと受け繋ぐことができれば街の活力はさらに高まると思われる。

そのためには、商店振興会をはじめとする旧来からの住人と、新しい住人となるマンション居住者との接点が増加し、お互いが協力して持続的な街づくりに参加することが望ましい。下町情緒ある商店街の活気が維持されることは新しい住人にとっても喜ばしいことであり、マンション価値の向上にもつながるであろう。

今後、建物の新陳代謝が進んでも商店街を含む街のソフトインフラが維持されることを切に願う

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渡邊布味子 (わたなべ ふみこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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