現代のビジネスはITの活用なくして成立しません。ITエンジニアはますます引く手あまた。優秀なエンジニアの採用は、IT人材の採用に不慣れな中小企業の大きな課題になっています。

自社に合ったエンジニアを見分けるためには、どんな点に注意すべきなのか。現役のフリーランスITエンジニアにして『小さな会社がITエンジニアの採用で成功する本』の著者、大和賢一郎氏に解説してもらいました。

※本稿は『小さな会社がITエンジニアの採用で成功する本』第1章の一部を転載するものです。

本物のエンジニアを見分ける方法
(画像=日本実業出版社)

小さな会社は大企業と違って、新卒を採用してゼロから教育する余裕がありません。そのため、初めてのエンジニア採用は、派遣やフリーランスを使うのが現実的です。解雇が難しくなるリスクを回避するため、いきなり正社員として雇うのは避けましょう。

ですが、エンジニアの技能はピンキリで、見分けるのは困難です。それなりの実績がある紹介業者を使うなら最低限のフィルタリングはされますが、やはり経営者・採用担当者自身が「使えるエンジニアかどうかを見抜く視力」を鍛えていくことが大切です。次のような観点で最低ラインを引きましょう。

1.自分で手を動かせるか(指示するだけではなく実際にプログラムを書けるか)

IT企業で3年以上の実務経験があるエンジニアの場合、そのタイプは大きく2つに分かれます。1つは、プログラミング言語の種類を問わず、自分でソースコードを書き続けてきた経験がある人材。もう1つは、ITプロジェクトのマネジメント(企画や仕様検討、進捗管理、顧客との折衝など)をメインで担当していた人材です。

開発フェーズとして、前者を「下流工程」、後者を「上流工程」と呼びます。小さなIT企業における上流工程は、社長自身が担当するケースが大半なので、必要なエンジニアは必然的に下流工程、つまり「実際にプログラミングができる人」となります。

2.プログラミングにおいて、アマチュアとプロの違いを理解しているか

プログラム(コンピュータに処理させる命令の手順)が書かれたテキストファイルを「ソースコード」といいます。プログラミングとは、すなわち「ソースコードを書く仕事」です。そして「ただ書くだけ」なら、初心者でもそれほど難しくはありません。コピペするだけで動くプログラムもネットにたくさん落ちています。適当に書いても運が良ければ、プロっぽく見せることは可能なのです。

しかしビジネスなら話は違います。趣味の延長でアマチュアレベルの自称プログラマと、実際に利益を上げているIT企業で鍛えられた本物のプログラマ。その違いは「動くかどうか」ではなく「性能、可読性、メンテナンス性」に出ます。

素人は「動けばいい」と考えます。プロは「動くのは当たり前」と考えて、そのうえで、いかに「高速に動かすか」「読みやすく書くか」「あとで変更が容易か」を追求します。プログラムは生き物であり、リリースしたあとも、常に変化し続けます。ランニングコストがかかりますから、利益を生むためには「高速で使いやすい」ことも求められます。

我流の文法で好き勝手に書かれた「汚いソースコード」は、あとから参画するエンジニアにストレスを与え、開発効率を下げます。

また、仕様変更への柔軟な対応を想定してプログラムが書かれているかも重要です。「わずかな機能追加でも、大量のソースコードを修正しなければならない」ようなプログラムでは、時間もお金もすぐに足りなくなります。その大変さを理解しているエンジニアが本物なのです。

3.柔軟な仕様変更に対応できるか

誰だって、自分が作ったものを否定されるのは気分が悪いものです。エンジニアでも、プライドが高いタイプは、経営者が「ここ、変えてくれない?」と頼んでも、「いや、それは技術的に難しい」とか「今さら変更するのは不可能だ」などと拒否しがちです。しかし「変更が不可能なプログラム」など、この世には存在しません。なんだかんだ理屈をつけて言い訳をするのは「変更できない」のではなく「変更したくない」だけなのです。

エンジニア自身も、ユーザの目線で見れば「確かに今のままでは使いづらいから変更したほうがいい」ことは理解していることもあります。それでも、いざ自分がやるとなれば、面倒くささや失敗の恐怖から拒否反応を示すエンジニアがいるのです。なんでも言われた通りに対応するのがよいわけではありませんが、経営者の仕様変更要求に対してムッとしない、大人の対応ができるメンタリティがあることは重要です。

現実には、これら3つすべてを備えたエンジニアはまれであり高額になることが多いです。優先度を付けるとしたら1が必須となります。2は多少ソースコードが汚くても目をつぶる(儲かって余裕ができたらリニューアルすればいい)。3はつど、経営者の話術でなんとか切り抜ける。そのように考えて、いきなり完璧なエンジニアを高望みし過ぎない割り切りも必要です。

著者プロフィール

大和賢一郎(やまと けんいちろう)
フリーランスITエンジニア。1977年生まれ。国立八代工業高等専門学校・情報電子工学科卒。日立製作所に14年勤務後、2012年に独立して「東京ウェブ制作」を設立し、代表を務める。2013年より常駐案件に参画。取得資格は、テクニカルエンジニア(ネットワーク)、第二種情報処理技術者、MCP認定技術者。
近著は『エンジニアがフリーランスで年収1000万円になるための稼ぎ方』(技術評論社)、『ハイペース仕事術』(すばる舎)など。

(提供:日本実業出版社)

【オススメ記事 日本実業出版社より】
『「納品」をなくせばうまくいく』が「ITエンジニア本大賞」を受賞できた理由
エンジニアのキャリアに必要なMOT(技術経営)の考え方
起業を成功させるカギは「Web技術」にあり!
会社員をやめて地獄に落ちたフリーランスの本音