株は上がるものだ、と常々述べてきた。地球が滅亡しない限り、未来永劫にわたって株は上がり続ける。今週、再び史上最高値を更新した米国株がそれを雄弁に物語っている。S&P500は取引時間中に初の3,000ポイント台をマークした。ダウ平均は終値で2万7000ドル台に乗せた。

ウォーレン・バフェットは、今後100年でダウ平均が100万ドルになると言ったが、僕はそんなにかからないと指摘した。株式と言う資産が持つ本源的リターンはざっくり均せば7%。7%複利で55年回せば40倍になるから、100年もかからない、55年でいいと述べたのだ。それが1年前だ。順調に来ている。2万7000ドルが37倍になれば100万ドルだ。7%複利であと54年である。人生100年時代、現在46歳以下のひとはダウ平均100万ドルを目にすることができる。残念ながら僕は無理だが。

と、いうのは長期的なトレンドの話。短期的には過熱感が台頭している。S&P500の予想PERは再び18倍台に上昇。昨年10月の大暴落の直前もまた18倍台に上昇していた。

S&P500の予想PER
(画像=マネックス証券)

グラフを見ると、S&P500の動きとPERの動きがまったく重なるのが分かる。つまり、この間の株価は予想EPSが横ばいのまま、バリュエーションの変化(=投資家のセンチメント)のみで動いてきたということだ。米国市場では来週からQ2の決算発表だが企業業績は下方修正気味だ。業績が伸び悩む中で株価が史上最高値を更新すれば割高感は否めない。

しかし、もう少し俯瞰してみれば、まだバリュエーションは昨年の最高値には届いていない。昨年2月の急落 ― いわゆるVIXショックだが、僕はこの呼び名は不適当だと思っている ― の直前にはもっとPERは高かった。

S&P500の予想PER
(画像=マネックス証券)

伸びが鈍化とは言え、増益は増益だからEPSも伸びており、株価は過去最高でもバリュエーションはまだ余裕がある。

さらに言えば、当時と今とでは長期金利の水準がまるで違う。(いやな呼び名だが)VIXショック直前は長期金利が3%を目指し上昇していく過程にあったが、いまは真逆である。長期金利はじゅうぶんに低い。その結果、イールドスプレッドは3.4%ある。昨年、2月と10月の急落前はイールドスプレッドが3%を割り込んでいた。金利も考慮したバリュエーションは割高とは言えない水準だ。

だから、反対に言えば、長期金利上昇が最たるリスクである。そのトリガーとなりそうなのは、1.FOMCで利下げが行われた後の材料出尽くし(Buy on rumor, sell on fact)、2.物価上昇、である。

1は分かるが、2はないだろう?と思われるだろうか。昨日発表された米国の6月CPIは食品とエネルギーを除くコア指数が市場予想を上回る伸びとなった。前月比0.3%上昇と、昨年1月以来の高い伸びとなった。誰もがインフレが起こるとは思っていないだけに、万が一、物価上昇に勢いがつくと大変なことになる。注意したいリスクだ。

7月の利下げは、確実視されているが、ISMが50を割らず、NFPが20万人以上増加し、CPIが1年半ぶりの高い伸びを記録したという状況で利下げするという、なんとも奇妙な事態になる。バブルになる蓋然性が高まっていると思う。

だが、しかし、これがアメリカという国だ。善し悪しは別にして、株式本位制、市場第一主義、それが米国の国策なのだ。だから米国株は上がるべくして上がる。今朝の日経新聞「オピニオン」欄でフィナンシャル・タイムズのチーフ・エコノミック・コメンテーターのマーティン・ウルフ氏が書いていたとおり、トランプ減税が経済に最も影響を与えたのは、当然のことながら企業の税引き後利益であり、潤ったのは企業の株主である(貧富の格差がますます拡大するという問題は、別の機会に議論する)。その減税効果がそろそろ剥落する頃に、今度は金融緩和である。株価を上げるべくして政策が取られるのだ。だから(くどいが)米国株は上がるべくして上がるのである。

ウルフ氏は「経済に既に刺激を与えているのに、トランプ氏が連邦準備理事会(FRB)にさらに利下げ圧力をかけていることを考えると、どこかで高インフレ、高金利時代が訪れ、財政と金融に対する信認が損なわれるという悲惨な事態に至るかもしれない」と警鐘を鳴らす。そして彼は最終段落でこう述べている。

「米国がどこに向かおうとしているのかに注意するのに早すぎることはない。」

米国はどこに向かおうとしているのか。1939年のミュージカル映画『オズの魔法使』の劇中歌 Over the Rainbow。ジュディ・ガーランドの歌い出しは、”Somewhere”である。”Somewhere Over the Rainbow~ どこか、虹の彼方の空高く“だ。そこは信じていた夢がすべて叶う場所である。

S&P500は今晩にも3,000ポイントの大台を超えてくるだろう。そして長期的には遙か彼方に行く。遙か彼方の虹をも越えるだろう。ジュディ・ガーランドはこう歌った。もしも幸せな青い小鳥が虹を越えていけるなら、きっと私だってできるはず、だと。

あなたにもできる。米国株に投資すれば、虹の彼方にだっていけるのだ。信じていた夢がすべて叶う場所に行けるのである。

広木 隆
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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