最近の不動産市場は、大都市を中心に高騰・高止まりの傾向です。割安な物件がなかなか見つからないため「競売を利用できないか?」と考える投資家もいるでしょう。
しかし、競売物件はリスクが高いため、十分注意する必要があります。メリット・デメリット、競売物件で不動産投資を行う際の注意点などを理解したうえで検討すべきでしょう。
目次
競売物件とは、裁判所に強制処分される不動産のこと
競売物件とは、債務不履行(ローンの返済不能など)によって裁判所に強制処分される不動産のことです。競売は、金融機関などの債権者が担保にしている土地や建物の売却を裁判所に申し立てることで行われます。
競売の対象となる不動産は、住居用の戸建住宅や区分マンションのほか不動産投資用のアパート、マンション、商業ビルなどさまざまです。また、住居用として使われていた物件を競売で手に入れ投資に転用するケースも考えられます。
競売物件で不動産投資を行う際、住宅ローンは使える?使えない?
一般的な不動産投資では、ローンを利用して物件を購入するケースが多い傾向です。では、競売物件で不動産投資をする際にローンを組むことはできるのでしょうか。これについては「できるが現実的にハードルが高い」と考えられます。なぜなら、多くの金融機関が競売物件への融資に消極的な姿勢だからです。
さらに、住居目的の競売物件であればローンが利用できても不動産投資目的の競売物件になるとローンが使えないケースもあります。例えば、競売物件に使える「楽天銀行 フラット35」なども投資用物件や事業用物件には、利用できません。
こういった背景を考えると不動産投資用の競売物件は、余裕資金(現金)で購入するのが無難といえるでしょう。
競売情報の収集から権利取得までの7ステップ
最近では、競売物件検索サイトを使えば、誰でも簡単に全国の競売情報を入手できます。代表的な競売物件検索サイトには、「BIT」や「981.jp」などがあります。これらはスマホでも手軽に閲覧でき、エリアの絞り込みなども比較的スムーズにできます。
競売の情報収集から権利取得までの流れは、以下の7ステップです。それぞれの項目について詳しく見て行きましょう。
1. 3点セットのチェック
2. 入札(保証金を預ける)
3. 開札(買受申出人の決定)
4. 買受人の決定
5. 代金支払い(残額の支払い)
6. 所有権移転登記・抹消登記
7. 引渡(明渡)執行の申し立て
ステップ1:3点セットのチェック
入札を検討する人は、以下の3点セットで物件の概要や権利関係をチェックしましょう。また対象の不動産を手に入れたい場合は、ステップ2の入札を行います。
書類の種類 | 内容 |
---|---|
現況調査報告書 | ・土地や建物の所在地、面積、種類などの基本情報をまとめたもの ・文書に加えて外観、内観、敷地などの写真も確認できる |
評価書 | ・物件の評価金額、その根拠となった情報を解説したもの |
物件明細書 | ・物件取得後に引き継ぐ権利関係(例:法定地上権、貸借権など)、前の持ち主などの専有状況などを確認できる |
ステップ2:入札(保証金を預ける)
入札をする場合、保証金を裁判所の預金口座に振り込まなくてはなりません。なお保証金は、売却基準価格の10分の2以上の金額です。入札に必要な書類は、以下の通りです。
・入札書
・暴力団員等に該当しない旨の陳述書
・住民票(入札人が個人の場合)又は資格証明書(入札人が法人の場合)
・宅地建物取引業の免許証の写し(入札人が宅地建物取引業者の場合)
・入札保証金振込証明書など
ステップ3:開札(最高価買受申出人の決定)
指定された期日になると裁判所の執行官が開札を行い、その結果、最高価格で入札した最高価買受申出人が決定します。
ステップ4:買受人の決定
何らかの事情で最高価買受申出人が代金を支払えなかった場合、次の順位の入札価格者が買受人として申し出ることが可能です。このような流れを経て最終的な買受人が決定します。
ステップ5:代金支払い(残額の支払い)
買受人は、物件を取得するための金額(入札価格から入札時に支払った保証金を控除したもの)を指定日までに支払わなければなりません。なお支払いは、一括納付がルールです。期日までに代金が支払われない場合、保証金は返却されません。
ステップ6:所有権移転登記・抹消登記
代金支払い後には、裁判所の書記官から管轄の法務局に対して下記の手続きが行われます。
・買受人への所有権移転登記
・物件に設定された登記の抹消登記(差押登記や抵当権など)
ステップ7:引渡(明渡)執行の申し立て
取得した不動産が下記の状態の場合、買受人に不動産を引き渡す命令が下されます。
・前の所有者などが不動産を占有し続けている
・家具などが放置されている
この引渡命令は、買受人の申し立てによって行われます。しかし申立期間は、代金納付日から6ヵ月以内(明渡猶予が適用される場合は9ヵ月内)です。相手方が引き渡しに応じてくれない場合、強制執行の申し立てに移行します。
競売不動産を購入するメリット
市場取引価格がかなり割安(なこともある)
デメリットの部分で詳しく説明しますが、競売物件にはさまざまなリスクがあります。そのため、市場価格と比べて評価額が割安になっているケースが多いです。
ただし、すべての競売物件が割安なわけではありません。例えば、流動性のほとんどない過疎地域の物件は、競売物件の基準をもとに評価されたものの、誰も入札しないケースもあります。なお、期間入札で落札されなかった競売物件は、先着順で買い受けることができます(開札期日の翌開庁日から5開庁日の間)。
潜在価値のある物件が紛れている
競売で扱っている物件は、住居用の住宅や土地以外にも不動産投資用の賃貸物件や商業ビル、戸建て住宅など多種多様です。なかには、一般の仲介会社が取り扱うのを敬遠するような制約があったり条件がついていたりする物件(権利)も見られます。
・共有持ち分
・極端な地形の物件
・好立地の築古物件 など
こういった物件は、トラブルリスクがある半面、ひと手間加えると価値が高まるような物件が紛れていることも少なくありません。例えば、築数百年の古民家などを競売で購入し、改装してカフェにしたというケーススタディーもあります。
手続きは意外に簡便
競売の手続きは、難しいイメージを持っている人もいるかもしれません。しかし、専門用語と基本的な流れさえ把握しておけば、入札から物件取得までの手続きは意外に簡便です。
さらに、物件取得後の所有権移転登記や抹消登記など難易度の高い手続きは、裁判所の担当者が行ってくれます。また、前の所有者などが不動産を占有し続けている場合でも引渡(明渡)執行などの制度が用意されているので安心です。
競売不動産を購入するデメリット
もとの持ち主が住んでいることもある
競売物件には、一般的な不動産の常識が通用しません。例えば、所有権を手に入れた段階でも、もとの持ち主(占有者)が住んでいるケースもよくあります。占有者が物件を速やかに引き渡してくれない場合、「競売の流れ・ステップ7」で紹介したように引渡執行の申し立てをすることが必要です。
ただし申し立てをしても一定期間は、猶予期間が設けられているため、すぐに物件を使えるわけではありません。また強制執行に移行した場合は、申立者が家具の運送費用などを負担する可能性もあります。
内見や設備確認ができない
一般の不動産の売買では、現地調査などで現物を確認してから購入検討や契約を行う人が多いでしょう。しかし競売物件の場合は、内見をしないまま物件を取得しなくてはなりません。入札時に競売物件の内部を見ることはできませんが、入札開始時に提供される「3点セット(※)」と呼ばれる資料で、物件の概要や内部の様子はある程度分かります。
しかし、細かい部分は所有権を移転した後、実際に訪問するまで分かりません。そのため、「実物を見てみたらイメージと違う」ということが起こりやすいのです。
※3点セット:物件明細書、現況調査報告書、評価書
競売物件には内見できない特性があるため、物件情報を読み込んだだけで「どのようなリスクがあるか」「リスク回避のためにどんな対策が必要か」をイメージできる経験と知識が必要です。
法律の知識がないと取り扱えない
競売物件には、一般に流通する不動産とはかけ離れた条件のものもあります。よくあるのが、共有名義の不動産が競売にかけられているケースです。落札して一部の持ち分を入手しても、他の名義人の同意がなければ物件を自由にできません。この場合、調整には相当の手間と時間がかかるケースが多いです。
物件情報の閲覧や入札の期間が短い
競売では、物件情報の一般公開(2週間)、入札期間(8日間)を経て開札に至ります。比較的短い期間で物件取得の判断や保証金の用意が必要な点は、競売のデメリットです。
特にまとまった額の保証金となる場合は、短期間で資金を用意するのは容易ではありません。条件に合う競売物件が出てきた際、すぐに保証金が用意できるよう事前準備しておくのが必須です。
契約不適合責任が使えない
一般の不動産の売買では、契約不適合責任がありますが競売物件にはこれがないこともデメリットの一つです。契約不適合責任とは、契約で規定された品質・性能・数量などが適合していないときの売主の責任を指します。
売買した不動産に契約不適合がある場合、買主は売主に対して欠陥箇所の補修や代金の減額、契約解除などを求めることが可能です。
契約書適合責任があるおかげで買主は 不動産を安心して購入しやすくなります。しかし競売では、この制度が使えないため、取得後に問題が起きても買主が費用を負担しなくてはなりません。
競売物件で不動産投資を行う際の注意点
前述のように競売には「物件が割安なこともある」というメリットがありますが「内見や設備確認ができない」「契約不適合責任が使えない」などのデメリットもあります。
これらのメリット・デメリットを踏まえると「競売で不動産投資用の物件を安く仕入れたつもりなのに予想外のリフォーム費用がかかり低利回りになった」ということも考えられるでしょう。
こういった結果にならないためには、競売物件の価格だけに目を奪われるのではなく建物の傷みや設備の老朽化をしっかり検証する必要があります。特に築古物件の場合は注意が必要となるため、リフォーム費用を多めに見積もって利回りを計算することが必要です。
競売物件のよくある失敗例と効果的な対策
競売物件は、トラブルが頻出しやすいといわれます。参考までによくある「占有者が居座り続けて使えなかった」「予想以上に修繕費用がかかった」という失敗例を紹介します。
よくある失敗例:物件に占有者が居座り続けて使えない
競売物件を取得したものの、前の持ち主などの占有者が居座って物件がなかなか使えないケースはよくあります。また賃貸物件の場合、賃借人(借主)がすぐに引っ越しできず占有状態が続くことも少なくありません。
いずれのケースも買受人に物件を速やかに引き渡すべきです。しかし、現実的にこれが難しいのであれば引き渡し(明け渡し)や強制執行など申し立てを行います。
ただし申し立てをしてもすぐに退去が実現するわけではありません。そのため、取得者が物件をすぐに利用しようと思っていた場合、不都合が起きる可能性もあります。
【対策】
競売物件の取得後、占有者が居座るトラブルへの効果的な対策は、占有者がいることが分かった段階ですぐに引き渡し(明け渡し)の申し立てを行うことです。
これにより占有期間(物件を使えない期間)を最短に抑えることができます。なお引き渡し(明け渡し)の申し立ては、物件代金を納付したその日からできます。
よくある失敗事例:予想以上に修繕費用がかかった
競売物件は、3点セットと呼ばれる書面だけを確認して入札を行います。内見をしないまま物件を取得するため、実際に使ってみたら想像以上に床材や壁材が傷んでいたり住宅設備が古くなっていたりすることが少なくありません。このケースでは、結果的に多額の修繕費用がかかってしまった失敗例もあります。
余裕資金で修繕費用をカバーできれば問題ありません。しかしそれが難しい場合は、不具合のある物件で不動産投資を継続することになります。当然入居者付けにおいては、不利となり空室リスクが高まってしまうでしょう。
【対策】
競売物件の取得後、予想以上に修繕費用がかかるトラブルへの一番の対策は、3点セットの内容をしっかりと読み込むことです。自身だけで3点セットに記載されている内容が理解できない場合は、不動産に詳しい知人などにサポートを依頼することも選択肢の一つです。
このほかの競売物件のよくある失敗例としては、前の居住者や占有者が家財を放置したまま連絡がつかなくなるケースもあります。放置された家財でも他人の所有物を勝手に処分することはできないため、保管の手間や費用が発生する可能性があります。
安い価格には理由がある
本稿では、競売物件のメリット・デメリット、競売物件で不動産投資を行う際の注意点などをテーマに解説してきました。その内容を踏まえて本稿のタイトルの「(競売物件の)割安は本当か?」という問いにお答えすると「割安な競売物件はたくさんあるが修繕費などを加味すると割高になるリスクもある」という結論になるでしょう。
あわせて不動産投資用の競売物件は「ローンが使いにくい」というデメリットもあります。こういった事情を勘案すると、競売物件での不動産投資は豊富なキャッシュを持っている中上級者向けといえるでしょう。逆にいえば、不動産投資の初心者が安易に手を出すことはハイリスクです。
初心者が競売物件を取得する場合、この分野に詳しい不動産会社や専門機関、弁護士などのサポートを受けて入札するのが賢明といえます。
競売物件に関するよくある質問
Q.どんな物件が競売になるの?
土地や建物を担保にした住宅ローンが返済できずに金融機関などの債権者に売却処分を申し立てられた物件などです。物件の種類はさまざまで戸建住宅や、集合住宅、土地、商業ビルなどがあります。
Q.競売物件はローンで購入できる?
住居用の競売物件をローンで購入することは可能です。ただし、競売物件の融資に消極的な金融機関も多いため注意しましょう。また、不動産投資用の競売物件をローンで購入するのはハードルが高い傾向があります。
Q. 競売物件で不動産投資を行う際の注意点は?
競売で物件を安く購入できても予想外の修繕費がかかり想定よりも低利回りになることも考えられます。特に築古物件を競売で取得するときは、要注意です。
(提供:YANUSY)
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