米国では、不動産取引の透明性や信頼性を高めるための環境整備が進んでいます。全米リアルター協会(通称NAR)やMLS(Multiple Listing Service)といった業界団体やデータ共有サービスも、こうした取り組みの一環です。
また、例えばニューヨークにおいてはニューヨーク不動産協会(REBNY)が管理・統率をリードするなど、地域ごとに異なる不動産事情を考慮したエコシステムも構築されています。
米国の不動産業は営業・取引ともに資格が必須
日本と米国の不動産取引事情には、多数の相違点があります。
日本の不動産会社は、宅地建物取引業免許を取得した不動産業者で、国家資格を取得した宅地建物取引士のみが取引を行えます。しかし、法律上は「全従業員の5人に1人以上の割合で、宅地建物取引士が在籍している」ことが宅地建物取引業の免許取得の条件であるため、資格を取得していない従業員にも営業活動が許可されています。
一方、米国では、資格を持たない従業員の営業活動が各州の法律で禁じられています。不動産が非常に高額な商品であることを考慮すると、「知識と経験の豊富な専門家のみが、営業から取引までのプロセスを担当する」という考え方は、理にかなっています。
資格には、不動産営業・販売者用のリアル・エステート・セールスパーソン(Real Estate Salesperson License)と、取引士用のリアル・エステート・ブローカー(Real Estate Broker License)があります。ただし、各州がそれぞれ独自の不動産ライセンス(免許)プロセスを規制しており、規則は若干異なります。
全米最大規模の業界団体NARと不動産データベースMLS
不動産業の統率や情報公開システムの整備も、米国における不動産取引の透明化・信頼性向上に向けた取り組みの一つです。
1908年にシカゴで設立されたNARは、会員数130万人を誇る全米最大規模の業界団体として、不動産業の秩序の維持や発展に取り組んでいます。会員は、住宅・商業ブローカー、営業担当者、不動産管理者、鑑定士、カウンセラー、その他不動産業界の従事者で構成されています。
同団体はMLSという不動産情報データベースを管理・運営しており、会員組織が取り扱った物件の概要から過去の取引価格、固定資産税評価額まで、あらゆる情報が、ほぼリアルタイムで記録・更新されています。
情報を共有し、販売ネットワークを広げることで、売り手と買い手だけではなく、仲介業者にも利益を生みだす効率的なエコシステムを構築しているのです。「競争が激しい不動産市場において、取引を成功させるためには競合他社も互いに協力し合う必要がある」という発想です。
REBNY 不動産業の保護・推進から未来のブローカーの育成まで
米国における各州の取り組み例として、ニューヨークを見てみましょう。ニューヨークでは、1896年に設立されたREBNY(The Real Estate Board of New York)が、同市を代表する不動産取引協会として、不動産事業の保護、改善、および推進に努めています。
具体的には、公共および産業政策を推進することで、所属会員共通の関心に基づいた活動を行っています。その活動範囲は、商業用および住宅用不動産の開発・改修の奨励から投資家・居住者の誘致、不動産管理システムの改善など、広範囲にわたります。
それと同時に、税金政策、都市計画、土地利用政策、建築基準、賃貸条件、その他の都市、州、および連邦法を含む、さまざまな民事事項に関する調査も実施し、ニューヨークの経済拡大に貢献しています。
また、『Annual Diary & Manual(年次日記&マニュアル)』を含む、不動産業にとって重要な定期刊行物や市場データ、政策報告書、ブローカー調査などを定期的に発行しています。
会員はREBNYのデータベースから情報や技術、技術資源を得られるほか、免許取得に必要な州認定資格および継続教育コース、職業教育プログラムおよびセミナーなど、不動産業でキャリアを積むために必要な教育を受けることも可能です。
NARやREBNYの取り組みは、売り手、買い手が安心して取引を行える環境づくり、そして不動産業の発展促進に、多大なる恩恵をもたらしています。日本にも宅建協会や全日本不動産協会といった団体が存在し、不動産流通標準情報システム(REINS)のようなデータ共有システムが導入されているものの、米国の高度な不動産業エコシステムから学ぶことは多いのではないでしょうか。(提供:YANUSY)
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