●人手不足対策

宅配便の取扱個数が急増する中、不在のために持ち帰る「再配達」が、宅配便事業者の更なる負担増を招いている。国土交通省は、「総合物流施策推進プログラム」(2018年1月)において、宅配便の再配達率を、16%程度(2017年度)から13%程度(2020年度)まで削減することを目標としている。また、国土交通省HP上では「再配達削減のために活用をお願いしたい3つの方法」が掲載されている。具体的には、1) 「時間帯指定の活用」、2)「各事業者の提供しているコミュニケーション・ツール等(メール・アプリ等)の活用」、3)「コンビニ受取や駅の宅配ロッカーなど、自宅以外での受取方法の活用」を掲げている。

大手宅配便事業者も再配達削減の取組みを開始している。ヤマト運輸は、宅配ロッカーサービスを展開するフランス企業のネオポストグループと、複数の事業者が共同で利用できるオープン型宅配ロッカーネットワークを構築し、運用するための合弁会社「Packcity Japan株式会社」を2016年5月に設立し、宅配ロッカー事業を開始している。

しかし、内閣府政府広報室が2017年12月に実施した「再配達に関する世論調査」によれば、回答者の7割弱が、宅配ボックスやコンビニでの受取等、いずれも利用したことがないと回答しており、インターネット通販利用者の認知度はまだ低い状況にある(図表16)。

国土交通省「宅配便再配達率」によれば、2018年10月期の宅配便再配達率は、前年調査(2017年10月期)からほぼ変わらず15%と高い水準にある。特に、単身世帯が多い都市部で高い傾向がみられる(図表17)。

インターネット通販市場,物流施設利用
(画像=ニッセイ基礎研究所)

ラストワンマイルの人手不足を解消する新技術として、無人飛行機(ドローン)を使った宅配サービスが期待されている。千葉市では2016年1月にドローンの活用に進める国家戦略特区の指定を受け、幕張地区でドローンを使った宅配便配送の実証実験をスタートさせており、2019年度までに実用化したいとしている。具体的には、ドローンで東京湾岸部の物流施設から幕張新都心内の集積所へ輸送し、その上で高層マンションの各住戸へ宅配するサービスを想定している。

幕張新都心の立地優位性
1) (比較的距離が近い)東京湾岸臨海部に物流施設が多く立地している。
2) 配送ルートの大半が海上と一級河川(花見川)の上空である。
3) 幕張ベイタウンと隣接する若葉住宅地区(今後開発予定)と合わせて、約3万6千人の居住人口。若葉住宅地区では、設計段階から、ドローン宅配を視野にいれた検討も可能。
4) 電線が地中化されている

インターネット通販市場,物流施設利用
(画像=ニッセイ基礎研究所)

実証実験が行われた幕張新都心は、上記のドローンによる配送ビジネスが成立しうる環境が整っている 。一方、「配送ルートの大半が海上と河川」や「電線が地中化している」地域は限られている。全国でドローンを使った宅配サービスを本格的に実用化するためには、まだ課題が多いと思われる。

このように、再配達削減の取組みやトラック輸送に代わる新技術の開発が行われているものの、ラストワンマイルにおける人手不足が早期に解決することは難しいと考えられる。

●シェアリングエコノミーの拡大

新たな経済活動の動きとして、シェアリングエコノミー(7)が注目されている。インターネット通販に関連するシェアリングエコノミーとして、ネットオークションとフリマアプリ(8)を挙げられる。ジャストシステム「Eコマース&アプリコマース月次定点調査」(2019年3月度)によれば、「個人間商取引(CtoCサービス)を利用したことがある」との回答が約3割を占めており、CtoCサービスの利用が一定程度進んでいる状況が窺える。(図表19)。また、現在利用しているCtoCサービスとしては、「メルカリ」(フリマアプリ)と「ヤフオク!」(ネットオークション)が上位となっている(図表20)。

インターネット通販市場,物流施設利用
(画像=ニッセイ基礎研究所)

経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によれば、2018年のネットオークションの推定市場規模(9)は約10,133億円(前年比0.9%増)、フリマアプリの推定市場規模は約6,392億円(前年比32.2%増)と拡大が続いている。

シェアリングエコノミーが更に進展するためには、消費者の不安解消および法規制の再整備が必要との指摘がある(10)。これに対しては、「シェアリングエコノミー推進プログラム(11)」の開始や「シェアリングエコノミー促進室」の設置(2017年1月)等、シェアエコノミーの認知度向上等に寄与する取組みが始まっている。

上記の取組み等に後押しされ、今後もシェアリングエコノミー市場の拡大は継続すると見込まれる。

総務省「平成30年版 情報通信白書」では、「シェアリングエコノミーの進展による新市場の創出に伴い、既存市場への負の影響も生じる可能性がある。シェアリングエコノミーが拡大すると新品の購入が減る可能性がある」と指摘されている。インターネットショッピング等に与える影響を懸念される一方で、フリマアプリ等を通じた商品の二次流通が新品の購入意欲を刺激するとの見方もある。現時点では、シェアリングエコノミーの拡大が、インターネット通販市場成長の推進もしくは阻害要因とは断言できない。

ただし、個人から個人へ商品を送るシェアリングエコノミーでは、インターネット通販と同様に荷物の配送が重要となる。上記のメルカリは、ヤマト運輸と提携した出品した荷物の発送サービス「らくらくメルカリ便」を、2018年5月から全国のセブンイレブンの店舗での受付を開始している。シェアリングエコノミーの拡大が宅配便取扱個数をさらに押し上げ、前項に示したラストワンマイルにおける人手不足に拍車をかけることは懸念される。

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(7)場所・乗り物・モノ・人・お金等の遊休資産をインターネット上のプラットフォームを介して個人間で賃借や売買、交換することでシェアしていく新しい経済の動き。
(8)インターネット上の仮想のフリーマーケット内で個人同士が衣料品や雑貨等を自由に売買可能なスマートフォン専用のアプリ(もしくは、仮想のフリーマーケット取引市場の総称)
(9)BtoB、BtoCの取引を含む
(10)中美尋『シェアリングエコノミーが日本産業に与える影響』みずほ銀行産業調査部、Mizuho Industry Focus、2018年6月21日
(11)(1)自主的ルールによる安全性・信頼性の確保、(2)グレーゾーン解消に向けた取組等、(3)シェアリングシティー構想の推進、(4)シェアリングエコノミーの普及・啓発を行う。

インターネット通販の成長分野と物流施設利用

前述のとおり、インターネット通販市場の拡大は、ネットショッピングの利用率上昇と、支出の多いミドル・シニア層の拡大に支えられ、継続すると思われる。ただし、ラストワンマイルを支える宅配便における深刻な人手不足等が阻害要因となり、市場の成長スピードが鈍化することも懸念される。

そこで、本章では、インターネット通販市場において、成長余地の大きい分野に着目し、物流施設利用の方向性を考察する。

●成長余地が大きい分野

(1) 食料品を取り扱うネットスーパーの成長可能性

今後、インターネット通販の市場において、どの分野の成長余地が大きいだろうか。図表21は、市場規模とEC化率(12)の関係を示したものである。図表1から「食品・飲料・酒類」(市場規模;約64兆円、EC化率;2.6%)は、市場規模が大きく、かつインターネット通販による購入が浸透していないことが分かる。また、消費期限の短い「食品・飲料・酒類」は、そもそもあまりシェアしないので、シェアリングエコノミー拡大の影響は受けないと思われる。こうした観点から、「食品・飲料・酒類」は、インターネット通販の成長余地が大きいと考えられる。

「食品・飲料・酒類」を取り扱うインターネット通販の事業主体の1つに、ネットスーパーがある。一般的に、ネットスーパーの特徴は、1) サービスの範囲が実店舗近辺に限定されていること、2) 取扱商品は「食品・飲料・酒類」のほか日用品などの生活必需品が中心であること、3) 注文された商品の配達は即日・翌日が大半であること、4) 主な利用者は、共働き世帯や子育て中の主婦層であるといった特徴が指摘される(13)。

インターネット通販市場,物流施設利用
(画像=ニッセイ基礎研究所)

現在、主なネットスーパーとして、イトーヨーカ堂が運営する「イトーヨーカドーのネットスーパー」(サービス展開地域;24都道府県)、イオンの「おうちでイオン イオンネットスーパー」(45都府県)、等が挙げられる。

「平成30年スーパーマーケット年次統計調査報告書」によれば、ネットスーパーの開店率(14)は、全体で17.7%であるが、51店舗以上の店舗を展開している企業では54.3%に達しており、店舗数が増えるほど開店率が上昇する傾向にある(図表22)。今後の開店意向に関しても、51店舗以上の店舗を展開している企業の34.4%が「積極的」と回答しており、多店舗数運営の企業ほどネットスーパーの新規開店に積極的なようだ(図表23)。

インターネット通販市場,物流施設利用
(画像=ニッセイ基礎研究所)

ネットスーパーの主な利用者層として共働き・子育て世帯が挙げられる。総務省「国民生活基礎調査」によれば、18歳未満の子がいる世帯の母親のうち、「仕事あり」と回答した割合は増加傾向にあり、2017年は70.8%に達した(図表24)。仕事と家事を両立する母親が増える中で、インターネットで商品を注文し希望する時間帯に届けて欲しいというニーズは拡大していると考えられる。

また、日本政策金融公庫「平成28年度下半期消費者動向調査」によれば、「ネットスーパー・ショッピングサイト」を利用する理由として、「食料品を運んで貰える」との回答が最も多かった(図表25)。運転免許の自主返納等を行い、買物の負担が大きい高齢者が今後増える中で、食料品や日用品等の宅配ニーズはますます拡大すると思われる。

経済産業省「平成30年度電子商取引に関する市場調査」では、ネットスーパーは「消費者認知の高まりからネットスーパーを利用する会員数が全体的に伸びており、ミールキットの定期宅配といったトレンドも加わって、市場規模は拡大中である。共働き夫婦の増加による家事の簡素化や時短といった社会的背景もあり、今後も当面市場は拡大すると予測される」と、マーケットの拡大が見込まれている。

インターネット通販市場,物流施設利用
(画像=ニッセイ基礎研究所)

消費期限の短い生鮮食料品等を取り扱うネットスーパーにおいては、配送サービス(迅速性・利便性、等)が特に重視される。インターネット通販事業者と、主に実店舗で販売を行う小売業者とは顧客獲得の観点では競合関係にあるが、配送サービスの充実等を意図して、連携・協働の動きが広がっている。

楽天は、2018年1月にウォルマートと戦略的提携をし、2018年10月にウォルマートの子会社である西友と「楽天西友ネットスーパー」の運営を開始した。西友は「SEIYUドットコム」を、楽天はネットスーパー事業「楽天マート」を「楽天西友ネットスーパー」に統合した。統合にあたり、千葉県柏市にネットスーパー専用の配送センターを設置し、受注可能件数を拡大した。

ソフトバンクと同社傘下のヤフーもイオンと連携し、ネットスーパーを立ち上げる予定と報道されている。イオンの品揃えや物流網とヤフーのITノウハウを組み合わせて、食品や衣料品、日用品など幅広い品目を扱う予定としている。また、セブン&アイ・ホールディングスは、アスクルの通販サイト「ロハコ」に専用ページを設け、アスクルの配送網を活用する「IYフレッシュ」を2017年11月から東京都新宿区と文京区で開始した。セブン&アイ・ホールディングスの総合通販サイト「オムニ7(15)」と「ロハコ」で相互送客(16)を実施して、顧客の獲得を目指すとしている。宅配便の現場では人手不足が深刻な問題となる中、「IYフレッシュ」の配送は、宅配便事業者に委託せず、自前(アスクルの物流子会社)で行う。

このような小売業者とインターネット通販事業者の連携・協働によって、配送の効率化と消費者の利便性が向上し、ネットスーパー市場の拡大に寄与すると思われる。

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(12)すべての商取引額(商取引市場規模)に対する電子商取引額の割合。
(13)増田悦男『ネットスーパーの最近の動向と今後の展開』日本工業出版、流通ネットワーキング、2013年11月12日
(14)(ネットスーパーを開店しているスーパーマーケット事業者数)÷(スーパーマーケット事業者総数)
(15)「イトーヨーカドーのネットスーパー」、「セブンイレブンのセブンミール」、「SEIBU SOGO e.デパート」等が掲載。
(16)商品検索において、両サイトの商品情報が反映される仕組み。