8月には外的ショックから相場が波乱に見舞われることが多い。古くはイラクのクエート侵攻、2000年代になってからもリーマン危機の先駆けとなったパリバ・ショック、イラク内のISへの空爆、チャイナショック、北朝鮮のミサイル発射などが起きて市場を揺らしてきた。また「8月の円高」というアノマリーもよく知られている。外国人投資家は昨年まで9年連続で8月に日本株を売り越している。
こうしたことから8月は株式相場にとって鬼門の月とされてきた。今年もその歴史のひとつに加えられるような急落が起きている。
我々はどう対処するべきか。結論から言えば、この突っ込んだところは絶好の拾い場である。いつも買いを推奨するように思われるかもしれないが、そんなことはない。買うべき理由が明確だから「買い」だと述べている。単純に、この相場は下に突っ込み過ぎていると判断できるからだ。
昨晩のシカゴCMEでは日経平均先物は2万円を割れた。仮に東京時間で日経平均も2万円割れとなる場合、わずか数日で2000円近くも暴落することになる。それもすべて「米中対立」という、特段新しくもない要因で、である。
端的に言って、米国株が大幅安になったのに連れ安しているだけだ。米国株の上昇に追随できず、下げだけに連動するのは今に始まったことではないが、こうした値動きは日本株のバリュエーション無視であり、すなわちミスプライスである。だから、買いで対処すべきであるという結論だ。
われわれは同じことを昨年のクリスマスに経験している。その記事には僕もコメントを寄せたが、日経新聞「スクランブル」で証券部次長・川崎健氏(肩書きは当時)は、日経平均のPBRが1倍を割ったことに言及し、<投資指標から見ればいささか行きすぎで、経験則では市場心理が総悲観に振れた局面になる。大納会が目前に迫る中、「陰の極」は着実に近づいている>と指摘した。振り返れば、果たして、そこが陰の極だった。
日経平均がPBR1倍割れの水準でしばらく滞留するのは、リーマンショックや東日本大震災の直後など超ド級のショックのあとだけである。2016年のBREXITを決めた英国国民投票時は1.03倍まで低下、昨年クリスマスには1倍を割れたがいずれも瞬間的に大底を形成し、その後反発している。後から見れば絶好の買い場であった。
個別銘柄でPBR1倍割れは珍しくもない。東証1部上場の半数が1倍未満だ。しかし、日本の優良企業のパッケージである日経平均がPBR1倍割れとなるのは極めて異常である。
さきほどから参照しているのは加重平均ベースのPBRである。みなし額面方式の単純平均で算出される日経平均という指数に加重平均ベースのPERやPBRの議論は当てはまらないという声もよく聞く。だが、指数ではなく、「日経平均株式会社」という架空の持ち株会社を想定したらどうだろう。その傘下に225社の日本を代表する企業を収めた親会社の時価総額は、225社の時価総額合計で、そのバリュエーションはやはり225社の純資産なり利益を時価ウェイトで加重したものをベースとするべきだろう。
もうひとつ重要な点は、日経平均のBPS(1株当たり純資産)は2万円に達しているということだ(昨日は計算上、2万円を下回っているが、ニアリーイコール、2万円である)。昨年のクリスマスにPBRが1倍を割った時点ではBPSは1万9300円だった。PBR1倍を大底とすれば、着実にダウンサイド・リスクは低減している。それは日本企業が利益を積み上げてきたこと、すなわち企業価値を向上させてきたことの成果であろう。
現在佳境を迎えている4-6月期の決算発表でも業績の底入れ~下期回復を期待させる銘柄が少なくなかった。
アナリストの下方修正も一巡感が出ている。リビジョン・インデックスはまだマイナス領域だが、マイナスが縮小方向にあるということは、下方修正も一山越えたということだ。
企業業績に関しては、今後はますます底入れ期待が出やすいだろう。日本企業の業績は昨年下期から悪化したので今後の決算発表では前年同期比のハードルが低くなるからだ。電子部品の在庫調整進展にみられるように景気の自律回復と相まって、意外に力強い反発を見せる可能性は低くないと考える。
普段は高くて手を出せない銘柄を安値で拾うチャンスだ。リクルート(6098)、アンリツ(6754)、オリエンタルランド(4661)、NEC(6701)、日本電産(6594)、村田製作所(6981)などが有望だ。しかし、アンリツにしろオリエンタルランドにしろ、あまり下がらない。下がらないどころかオービック(4684)などは逆行高である。いい銘柄は暴落相場でも堅調だ。疾風に勁草を知るとはこのことだろう。一方、日立(6501)、SBG(9984)などはだいぶ下げた感があるのでいい買い場ではないか。
そうこう言ううちに日経平均は下げ渋ってきた。やはりBPS=2万円が相当意識されているということだろう。
広木 隆
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト
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