一部の国・地域でオンラインショッピングの需要が実店舗を上回った近年、アマゾン・エフェクト(Amazon Effect)はリテール産業だけではなく、広範囲な領域に影響を与えている。その一つが、意外にも不動産業界だ。

最も強い影響を受けている米国の不動産市場事情と共に、その驚異的な革新力の行方を探ってみよう。

eコマースの隆盛と共に拡大するアマゾン・エフェクト

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(画像=shutterstock.com, ZUU online)

米国国勢調査2019年2月のデータによると、米国のリテール総売上高5506億ドル(約58兆8654億円)の11.812%をオンライン販売が占め、デパートやチェーン店を含む実店舗の総売上高を0.006ポイント上回った。

その差はわずかではあるものの、同国でオンライン販売が実店舗を超えたのは史上初の現象であったこと、またオンライン販売市場が過去20年で2倍以上の規模に急成長を遂げた事実を考慮すると、その影響力の巨大さに圧倒されるばかりだ。

特に、世界のオンライン市場で猛威をふるう巨大eコマースAmazonの隆盛が、リテール産業だけではなく経済そのものに与える影響は、時と共に着実に増している。同社の2018年の純売上高は米国のオンライン市場の40% に達していたが(eコマース・デジタルマガジンInternet Retailer調査)、食糧事業やAI、インターネット・ビデオ・オン・デマンドなど、事業の多角化に積極的なことから、今後、広範囲な領域における同社の影響力はさらに拡大するものと予想される。

アマゾン・エフェクト(効果)の定義は様々だが、本質的にはAmazonの事業・規模の拡大がビジネスや経済、社会に与える影響を指す。

アマゾン・エフェクトが住宅価格の高騰を引き起こす?

アマゾン・エフェクトというと、価格やサービスで不利な立場にある小売店への影響が取り上げられることが多いが、意外なことに不動産業界にもその影響が表れている。

例えば、2018年11月、Amazonが第2の本社(HQ2)を北バージニア州アーリントン郡に設立すると発表した。これを受け、北バージニア州では、2019年4月の住宅販売数が過去14年間で最高水準に、販売価格の平均価格は過去最高に達した。調査を行った北バージニア州全米不動産協会は、「販売価格が前年比でおよそ6%上昇し、平均価格は62万1000ドル(約6638万円)を超えた」と述べている。住宅は通常よりも約35%早いサイクルで取引されているという。

また、HQ2設立に向けスタッフの配属が始まっているアーリントン郡においても、住宅の平均販売価格が前年比11.6%増の74万2000ドル(約7932万円)を超えた。

住宅購入者の中には、将来的にAmazonの従業員に貸し出す目的で、安いコンドミニアムやタウンハウスを購入した投資家もいる。

現在Amazonの本社があるワシントン州の他の多くの地域同様に、近年、バージニア北部でも販売用の住宅不足が続いている。Amazonは2019~20年にかけて1200人、今後10年間で合計2万5000人の新規雇用を同地域で実施する計画だ。大量の労働者とその家族の流入が、住宅難をさらに加速させることは容易に想像できる。既に4月の売り出し住宅数は、前年から26%も減少している。同じ傾向は賃貸住宅市場にも見られる。

Amazonの労働者の平均年間賃金は推定15万ドル(約1603万円)と、米国の労働賃金の中央値年間4万7060ドル(約503万円)よりはるかに高い(米労働統計局2019年第1四半期データ)。

これらの労働者は購買力が高く、地域経済の活性化や発展、雇用創出に大きく貢献するものと予想される。しかしその一方で、住宅価格の高騰により、他のより低価格な地域への移転を余儀なくされる、あるいはマイホームの購入を諦めざるを得ない住民も出てくるだろう。

シリコンバレーの住宅価格を高騰させた「フェイスブック・エフェクト」

大手企業の本社設立が不動産市場に影響を与える例では、他にも「フェイスブック・エフェクト(Facebook Effect)」と呼ばれるものがある。