和牛の受精卵やいちごの苗といった日本の「食の知的財産」の流出が問題となっています。そもそも知的財産とはどんなものでしょうか。簡単にいうと人が考えた価値のあるアイデアで財産的価値のあるもののことです。知的財産は社会や生活をより豊かにし、経済や産業を発展させるのに欠かせないものです。

以前は和食といえば、スシ、テンプラ……といったところでしたが、訪日観光客の増加と相まって和牛のおいしさにも注目が集まっています。いまや「WAGYU」は日本が誇るブランドであり、貴重な財産なのです。2019年、その和牛の受精卵と精液が中国に持ち出されそうになる事件が起きました。

幸いにも未遂に終わりましたが、もし流出して現地の牛と交配されたらどうなるのでしょうか。似た肉質のものが大量に出回り、和牛ブランドを大きく失墜させることになりかねません。すでに米国やオーストラリアでは「外国産WAGYU」が生まれています。日本の和牛は1990年代から各国の富裕層に向けて輸出され人気となっていました。2010年の口蹄疫の流行、2011年の原発事故の発生から輸出ができなくなった間に取って代わられてしまいました。その肉質も和牛に勝るとも劣らないレベルに迫ってきているといわれます。

国外へ流出した「とちおとめ」と「シャインマスカット」

和牛,知的財産
(画像=SkyImages / Shutterstock.com)

果実の遺伝資源の流出問題も深刻です。栃木県が開発した「とちおとめ」など、いちごの人気品種が韓国にわたり、別の品種と交配されて韓国国内やアジア諸国に出回っています。

また約30年の歳月をかけて開発され大人気となっている「シャインマスカット」も、いつの間にか中国で栽培され、タイなどに輸出されているという事例が発覚しているのです。

取り締まる法律が存在しない

和牛は明治時代以降、日本の従来種の牛に外来種を交配し、試行錯誤を繰り返しながら苦労して築き上げてきたものです。しかし現状では遺伝資源の海外流出そのものを取り締まる法律がありません。そのため今回の事件では流出元とされた畜産農家と運搬役となった2人が逮捕されていますが、適用されたのは伝染病を防ぐための家畜伝染病予防法違反などでした。

当然輸出を直接禁止する法律の整備も求められていますが、自由貿易を原則とするWTO(世界貿易機構)との兼ね合いから一朝一夕というわけにはいきません。

農林水産省の動き

講じられる手段としては、まずは国内での体制を整備することです。一連の流れを受けて農林水産省はようやく遺伝資源の流通管理を徹底する案をまとめ、売買にかかわる施設に記録の作成と保管を義務付けました。万一流出した場合にも経緯をたどりやすくなるため、一定の抑止効果が期待できるのではないでしょうか。しかし売買した当事者同士だけではなく第三者を介して盗用された際に元の所有者の権利をどうやって守るかなど問題は山積しています。

日本の畜産物や農産物においては、せっかく開発した品種や技術でも、できるだけオープンにするというのがこれまでのスタンスでした。近年、先進国の企業が途上国の遺伝資源を使って利益を得た場合、その途上国へも分配することを強く求め始めるなど、食の知的財産をめぐる戦いが激化しています。和牛をはじめとする日本の食のブランドが世界中から狙われているという危機感を業界全体で共有し、国をあげて権利保護の取り組みを行うことが急務といえるでしょう。(提供:JPRIME


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