老後に夫婦で生活するためには、「年金以外に2,000万円の資金が必要だ、いや3,000万円だ」などと、さまざまな試算が金融庁や経済産業省といった専門機関によってされている。ただ老後に必要となる金額については、希望する老後のライフスタイルによって違ってくるため、個人差が大きいといえるだろう。

専門機関がいう数字は一つの指標として捉え、各々が自分にあった人生設計を考え備えなければならないのが実情だ。

夫婦で老後に生活するために必要な資金をシミュレーション

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(画像=Rawpixel.com/Shutterstock.com)

平均的な暮らしとゆとりある暮らしとで老後の夫婦の生活に必要な資金をシミュレーションした。

平均的な暮らしの場合……最大約1,500万円が必要

総務省統計局が発表した2018年の「家計調査報告」によると、公的年金で生活する平均的な高齢無職夫婦世帯1ヵ月の生活費(消費支出)の平均は23万5,615円となっている。また公的年金の収入から税金や社会保険料などの非消費支出を差し引いた可処分所得は19万3,743円だ。これを計算すると差し引き毎月4万1,872円不足することになる。

仮に老後期間を65~85歳までの20年間とし、この金額を貯蓄で補うとすると、以下のような計算となる。

・老後期間を20年とした場合(65~85歳)
4万1,872円×12ヵ月×20年=1,004万9,280円

・老後期間を30年とした場合(65~95歳)
4万1,872円×12ヵ月×30年=1,507万3,920円

老後期間が20年間の場合は約1,000万円、30年間だと約1,500万円が必要だ。

ゆとりある暮らしの場合……最大約6,100万円必要

旅行やレジャーといったちょっとしたぜいたくを楽しみながら暮らしていくには、通常の生活費以外にお金が必要だ。生命保険文化センターの2016年度「生活保障に関する調査」よると、経済的にゆとりのある老後生活を送るために、生活費以外に必要と考えられている金額の平均は月額12万8,000円になる。

平均的な暮らしで不足する4万1,872円とあわせると毎月の不足額は約17万円だ。老後、夫婦に必要な資金は以下のような計算で求められる。

・老後期間を20年とした場合(65~85歳)
(4万1,872円+12万8,000円)×12ヵ月×20年=4,076万9,280円

・老後期間を30年とした場合(65~95歳)
(4万1,872円+12万8,000円)×12ヵ月×30年=6,115万3,920円

ゆとりある暮らしを20年続けるには約4,080万円、30年続けようと思うと約6,100万円もの資金が必要となる計算だ。

自分たちの必要額をシミュレーションする際の3つのポイント

実際に必要な老後資金は、それぞれが受け取れる年金や退職金から老後に必要な費用を差し引いて、個別に計算する必要がある。現時点で試算した結果にしても時間の経過に伴い税金、物価などが変わる可能性があるため、自分たちの環境と時代の変化に応じて適宜見直しが必要だ。

1. 自分が将来受け取れる年金の額を確認する

将来受け取れる年金額は日本年金機構のねんきんネットから見込額を試算できる。毎年自分の誕生月に日本年金機構から届く「ねんきん定期便」という書類にも受け取れる年金の見込額が記載されている。ただし50歳未満の人はそれまでの加入実績のみに基づいて計算された支給金額が記載されており、今後の見込み額は含まれていないため、注意しておこう。

参考までに2019年度の公的年金支給額は国民年金(老齢基礎年金)を満額受給できる人で1人あたり月額6万5,008円。厚生年金を受給できる標準的な夫婦2人世帯では月額22万1,504円となっている。2019年8月厚生労働省が発表した「2019(令和元)年財政検証結果」によると、現役世代の所得における年金支給額の割合を示す所得代替率は61.7%だ。

所得代替率とは、年金を受給する65歳時点における年金額が現役世代の手取りの収入(ボーナス込)と比較し、どの程度の割合かを示す指標である。また同年8月、厚生労働省発表した「財政検証」では、経済成長などが進む最も良いシナリオでシミュレーションしても2046年度の所得代替率は51.9%にまで低下すると想定されている。

今後の年金支給額は現役世代の所得額に比べてさらに減ると考えられ、若い世代ほど年金減少への備えが重要だ。

2. 介護費用、子どもへの援助など予想外の出費への備えも必要

夫婦2人の生活費に加え、介護費用や家のリフォーム費用(持ち家の場合)、子どもへの援助などへの備えも必要だろう。これらの費用は一度にまとまった金額が必要となるケースが多く、すぐに現金化できる状態で準備しておくのが望ましい。年金受給開始前に退職する場合には、年金が支給されない期間の生活費についても備えておくことが必要だ。

3. 老後に働くという選択肢も

年金以外の収入源があれば、用意しておくべき老後資金は減らせる。効率よく収入を得るためには、老後までに自ら稼ぐ力やスキルを高めておくことが必要だ。政府は社会保障制度改革の一環として「生涯現役社会」を掲げており、意欲があれば年齢にかかわらず働ける社会を目指している。働き方改革の一環として副業や兼業を推進する動きもある。

働くことはやりがいや生きがいにもつながっていくものだ。働くことで老後がより充実し、経済的なゆとりも得られるなら理想的といえよう。

老後のために今からできる3つの対策方法

老後の不安を解消するには自助努力による備えが大切だ。なるべく早いうちに行動すれば時間を味方にでき、効率よく老後資金を準備することができるだろう。

家・車・保険は本当に必要か検討する

家や車、保険といった大きな買い物は、本当に必要なのかをよく考えてから購入したり加入したりしよう。「みんなが持っている」「入っている)「それが当たり前だから」など無理をして購入してしまうと、後々家計の大きな重荷となってしまう。交通の利便性のよいところに住んでいるのなら、カーシェアリングやレンタカーなど必要なときだけ利用するサービスの活用も有効だ。大きな買い物については夫婦間でよく話し合い、購入計画を立てることが必要だろう。

資産運用を行う

資産運用により、お金に働いてもらうことも老後資金を蓄えておくためには大切だ。40代であれば65歳まではまだ約15~25年はある。ある程度のリスクは覚悟し株式投資を行ってもいいだろう。またインデックス型の投資信託・ETF(上場投資信託)などへ投資し、プロに運用を任せるのも一つの手だ。仮に年3%で運用しながら毎月3万円ずつ積立投資した場合、10年後に約418万円、20年後に約981万円、30年後には約1,736万円となる。(積立元本1,080万円)

老後資金の運用ではNISA(ニーサ/少額投資非課税制度)や、つみたてNISAといった運用で得た利益が非課税になる制度を有効に活用しよう。投資初心者でも取り組みやすいことから注目を浴びているNISAだが、気をつけたいのが税金だ。NISAやつみたてNISAは非課税投資枠が決まっている。NISAは年間120万円、つみたてNISAは40万円だ。そこで課税されないよう夫婦でNISA口座を1つずつ、開設することも検討しよう。そうすれば資産運用できる限度額は2倍になる。

iDeCoや個人年金保険で老後資金を準備する

iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)や個人年金保険なども老後資金を準備するための選択肢となる。iDeCoは毎月一定の金額を自分で選んだ金融商品で運用し、60歳以降に運用した額を受け取れる制度だ。掛け金は全額所得控除となるため、住民税や所得税が安くなったり、運用益が非課税となったりする点がメリットだろう。一方、「60歳までは引き出せない」「控除を受けるためには確定申告が必要」といったことがデメリットになる。

個人年金保険は、保険会社の商品の一種で保険料の払込期間に支払った金額が、契約時に定めた支給年齢から一定期間、または生涯にわたって受け取れるという保険だ。保険料や保険金の受取期間は商品によってさまざまだが、共通するメリットは「個人年金保険料控除」が受けられたり運用利回りが預金より良かったりする点になる。デメリットは途中で早期解約した場合は、元本割れになる可能性があることだ。

夫婦で充実した老後を送るには早いうちから行動することが大切

希望する老後の生活によって必要な資金は数千万円単位で違ってくる。40代の現役世代の夫婦で老後にいくら資金が必要となるかは、正確な金額まではわからないだろう。過度に不安になる必要はないが、「年金だけでは生活するのは難しい」という認識を持っておかなければならない。なるべく早いうちから自分の老後について考え、行動することは大切だ。準備を始めるのは、早ければ早いほど老後の選択肢は広がるだろう。

文・竹国 弘城(ファイナンシャル・プランナー)/MONEY TIMES

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