憧れのマイホームを目前にして、住宅ローンの審査に落ちてしまい、夢をあきらめざるを得ない人がいる。「自分は大丈夫だろうか」と不安な人はいないだろうか。思いもかけない悲劇が起きないよう、住宅ローンの本審査に落ちてしまう理由や、落ちないための対策について解説しよう。

住宅ローンの本審査は難しい?

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(画像=PIXTA)

購入する物件の目星が付いた時点で行う「事前審査」はクリアできたのに、肝心の契約を結ぶ際の「本審査」で落ちてしまうケースがある。これは、あなたが何千万という多額のお金を借りるのにふさわしい人物かどうか、事前審査よりも多くの項目で細かくチェックされるためだ。

その多くのチェック項目の中で、金融機関に「これは大丈夫か?」と不安にさせるような点があると、 審査期間が長引いたり、当初の希望より融資を受けられる金額が少なくなってしまったり、審査に落ちてローンを組めなかったり、という事態に陥ってしまう。

本審査を通過することは全員にとって難しいわけではないが、なかなか通過できない人も中にはいる。この違いはどこにあるのだろうか。

住宅ローンの審査基準

住宅ローンの審査基準はその金融機関によって違い、しかも公表されていないので、どういう人が審査に通過しやすいのか、どういう人が審査に落ちてしまうのか、一概には言えない。

ただ、国土交通省が全国の銀行や信用金庫、農協など住宅ローンを提供する金融機関を対象に行った「民間住宅ローンの実態に関する調査(2018年)」では長期・固定金利ローンにおいて、「融資を行う際に考慮する項目」として以下のものが挙げられている。(構成比とは、回答した金融機関のうち、審査項目に加えていると答えた金融機関の割合)

審査項目 構成比 具体的な内容
健康状態 98.6% 団体信用生命保険(団信)への加入が必須となっている金融機関が多数を占める。ローン返済額をカバーできるくらいの保険金が出る生命保険に加入できる健康状態かどうかチェックされている。
借入時年齢 98.3% 「20歳から65歳まで」など一定の利用条件が設定されている。この項目は各金融機関のホームページなどで確認できることが多い。
完済時年齢 97.7% 現年齢にローン期間を加えた「完済時年齢」が高すぎると、全額返済できないリスクがあると判断されやすい。70歳以上になるなら要注意だ。
担保評価 97.2% 万が一、ローン返済ができない場合、銀行は担保である住宅を売却することで未返済分をまかなう。審査時の住宅の評価額が低いと、未返済分を十分まかなえないリスクがあると判断され、審査に通りにくくなる。
勤続年数 95.7% 2016年には76.3%だったが急上昇し、ここ数年で重視されるようになった項目だ。最低1~3年以上が目安になるため、転職直後は要注意だ。
年収 95.6% 最低100~250万円以上は必要だと答えた金融機関が多かった。
連帯保証 94.9% 保証会社の保証が付くかどうかが重視される。保証会社は、ローンの返済ができなくなった場合に、代わりに返済する役目を負うため金融機関よりもさらに審査が厳しいと言われている。
返済負担率 90.7% 年収に占める年間のローン(住宅ローンだけでなく車やクレジットカードなどのローンも含む)返済額が「返済負担率」だ。高すぎると「借りすぎ」だと判断されやすい。
金融機関の営業エリア 90.3% 住所地もしくは勤務地がエリア内にあることを条件としている金融機関も多い。
融資可能額(融資率)①購入の場合 79.6% 「融資率」とは物件の建築費や購入費に占める借入額の割合のことだ。物件価格の80%までしか貸せないという金融機関もあれば150%までという金融機関もある。
雇用形態 75.7% 「安定した収入」があるかどうかが分かれ目だ。派遣社員、契約社員、フリーターなどは対象外という金融機関も多く、自営業者も正社員や公務員に比べると厳しくなりやすい。
融資可能額(融資率)②借換えの場合 73.1% 物件の建築費や購入費より借入額のほうが大きいようだと、審査に通りにくい。
国籍 68.9% 日本人、もしくは永住権取得者のみを対象としているケースが多い。
カードローン等の他の債務の状況や返済履歴 63.1% ほかの借り入れ状況や、延滞の有無も確認される。
申込人との取引状況 47.2% 他の取引で「お得意様」の場合、審査が通りやすくなることがある。
業種 29.1% 雇用形態同様、「安定した収入」が得られる仕事かどうかが重視される。年収が高くても、歩合制や出来高制で月収にばらつきがある業種だと毎月継続して返済していけるかどうか不安視されることもある。
家族構成 21.7% このあたりの情報を参照する金融機関は現状少ないが、まったく関係ないとも言えない。
雇用先の規模 20.0%
所有資産 18.9%
性別 15.1%
その他 3.9%

住宅ローンの審査の流れと必要な事前準備

物件購入時の住宅ローン借り入れの一般的な流れは、以下のとおりだ。

1.購入したい物件を決める

まず、マイホームを手に入れるためには、費用がどの程度必要なのかを把握しておかなければならない。いろいろな物件を見て回って「これだ」と思う物件が見つかったら、購入の申し込みをする前に、その物件を買った場合にかかる住宅ローン以外の費用(各種税金や手数料などの購入コスト、火災保険の保険料や将来の修繕のために積み立てておくお金などの維持コスト)も把握しておこう。

自分の家計の状況を確認して、住居関係費があまりに重い負担になりすぎないか考えることが大切だ。ローンを返済し終わる数十年先まで見据えて、子どもが成長してお金がかかるようになってもローン地獄にならずに済む毎月の返済額はいくらくらいなのか見当を付けておく。

2.住宅ローンを選ぶ

家選びと並行して、住宅ローン選びも重要だ。各社で審査基準も利率も違うし、固定金利か変動金利か、夫婦どちらかで申し込むか2人共同で申し込むかなど、考えるべき点は多い。この時点で1社に絞る必要はないが、特に夫婦などの場合はあとからもめることを防ぐためにも、2人で相談してある程度の方針は固めておきたい。

3.事前審査(仮審査)

家が決まり、住宅ローンも目星をつけたらいよいよ仮審査を申し込む。来店等は不要で、インターネットから必要事項を入力して申し込めば、3日程度で返答がある金融機関が多い。

4.本審査

事前審査で自己申告した内容の裏付けのため、さらに多くの証明書類が必要になる。これも金融機関により多少の差があるが、審査途中で提出を求められる可能性がある書類は以下のとおりだ。

本人を証明する書類 運転免許証
パスポート
住民基本台帳カード
健康保険証や住民票、会社の名刺などを求められることもある。
健康診断結果証明書 団信の申し込みのため
返済予定表、残高証明書、
返済中の口座の入出金明細
他の金融機関などから借り入れがある場合
収入を証明する書類 (会社員の場合)源泉徴収票 給与明細書と賞与明細書で代用できることもある。
住民税決定通知書または課税証明書 内容は似ているが、住民税決定通知書は勤務先を通じて交付され、課税証明書は市区町村役場に請求すればもらえる。
確定申告書の控え 確定申告をした人のみ
納税証明書 確定申告をした人のみ
法人の決算書 法人の代表者のみ
購入する物件を証明する書類 売買契約書 物件に関する資料は、ほとんど不動産業者のほうで手配してくれることが多い。
工事請負契約書
重要事項説明書
登記事項証明書(登記簿謄本)
土地の図面(公図、明細地図等)
建築確認通知書
物件案内やパンフレット、価格表

こういった証明書類に加え、ローン借入申込書や団体信用生命保険申込書、個人情報に関する同意書などを金融機関の求めに応じて提出し、あとは金融機関の判断を待つことになる。

5.本審査の結果発表

本審査を申し込んでから1~2週間で結果がわかる。仮審査より審査項目が多いうえに、住宅ローンを提供する金融機関のほか、団体信用生命保険を提供する保険会社、保証を提供する保証会社でもそれぞれ必要な項目を確認するため、審査期間も長くなる。

無事に審査を通過できれば、「金銭消費貸借契約兼抵当権設定契約(=住宅ローンを借りる契約)」を結ぶことができる。

マイホームでの生活と住宅ローンの返済がスタート

その契約を結んだあとは、借りたお金で物件購入代金を支払い、いよいよマイホームの引き渡しとなる。契約が済んだ物件の資料や住宅ローンに関する書類は確定申告で「住宅ローン控除」を申請するときに必要になるので、マイホームで暮らし始めてからも大切に保管しておこう。

住宅ローンの本審査に落ちる5つの理由

もし本審査に落ちてしまったとして、銀行の担当者に「なぜ自分は落ちたのか」と聞いても、ほとんどの場合、はっきりとは教えてくれない。焦ってやみくもに別の金融機関をあたる前に、まずは自分で心当たりがないか考え、原因があるようならできる限りつぶしておきたい。特に次の5点には要注意だ。

1.信用情報に傷が付いている

俗に「ブラックリストに載っている」状態とも言われる。ローンやクレジットカードなどの申し込みまたは返済の履歴は、すべての金融機関で情報共有される。そのため、過去に返済の滞納があったり任意整理や自己破産をしていたりすると、金融機関から「貸したお金が返ってこないリスクがある人だ」と判断され、審査に落ちてしまう。

案外見落としがちなのが、携帯電話料金の滞納だ。スマホ本体を分割払いにして、毎月機種代を支払っているというのは実はローンと同じなので、もし残高不足や口座変更などで期日に遅れたことがある場合は要注意だ。

そのほか、消費者金融からの借り入れがある場合や短期間にいくつものクレジットカードを申し込んでいる場合なども「お金に困っているのでは」と判断されやすい。自分が知らなくても配偶者が載ってしまっているケースもある。個人信用情報機関に開示請求をすると、自分の履歴が確認できる。

2.仮審査時の情報と内容が変わっている

仮審査時に自己申告した内容と、本審査で詳しく調べられたときの内容があまりに大きく違っていると「嘘をついたのでは」と怪しまれてしまう。特に年収などは高めに書いてしまう人もいるが、本審査になれば源泉徴収票などで確実な金額を確認されるので、最初から正直に記載しておこう。

嘘や誇大な申告がなくても、仮審査が済んでから本審査までの間に転職したり新たに借り入れをしたり、審査項目上なんらかの変化があると審査に通りにくくなる。

3.団体信用生命保険に加入できない

団体信用生命保険(団信)に入れる健康状態であるかは98%以上の金融機関が気にかける重要な審査項目だ。返済者が亡くなった場合、保険で住宅ローンの残金が支払われるというのが団信の効用だが、あくまで生命保険なので持病があると入れないことがある。

過去に、がんの手術を受けた方や心筋梗塞など大きな病気になったことがある方、なんらかの障害や精神疾患を抱えている方は特に注意が必要だ。団信に入れなさそうな持病があることがすでにわかっている場合は、信用情報に無駄に審査落ちの履歴を重ねる前に団信不要の住宅ローンに申し込んでおいたほうが無難だろう。

4.返済負担率が高い

返済負担率が高いということは、つまり年収の割に借入額が大きい「借りすぎ」状態だということだ。 返済負担率は「住宅ローン、クレジットカード、奨学金などすべての借り入れの年間返済額÷年収×100」で計算できる。たとえば年収500万円で月10万円の返済がある場合、24%となる。

審査を通過するにはおおむね20~45%以下であることが目安だ。ちなみにフラット35では、年収300~400万円未満なら30%、400~700万円未満なら35%以下などのように審査基準が明記されている。

5.物件の評価が低すぎる

その物件の担保としての価値が足りないとみなされると、十分な融資を受けるのが難しくなる。中古物件(特に、現在の建築基準法の基準を満たさない古い物件)や、借地権付き、市街化調整区域内の土地などは評価が低くなりやすい。

住宅ローンの審査対策

複数の住宅ローンに申し込む

住宅ローンは、なにも1つ落ちたからといって「もう終わり」というわけではない。金融機関によって審査基準が異なるため、○○銀行がダメでも××銀行で、××銀行がダメでも△△信用金庫でOKが出るということも少なくない。いくつかの金融機関の住宅ローンを同時に申し込んでみるというのも一つの手だ。

自分が厳しければ配偶者名義で申し込んだり、審査に比較的通りやすいと言われる金利が高い住宅ローンに申し込んだりしてなんとか融資を得たという方もいる。ただ、配偶者名義で申し込む理由を勘繰られる可能性もあるし、金利が高いローンは返さなくてはいけない金額もそのぶん大きくなり、借りる側としてもリスクになることを忘れてはならない。

借りる金額を少なくする

年収に対してローン返済額が大きい場合や物件の評価額が低い場合でも、それまでにしっかり貯金して頭金(自己資金)を多く用意できるのであれば、物件価格の全額を借りるのは難しくても残りの部分で融資を受けることはできるかもしれない。金利の負担を減らす意味でも、自己資金は多いに越したことはない。

もしくは、審査に通らないようなら、その物件はあきらめて、当初の予定より安い価格で購入できる物件を見つけるかだ。融資が下りないということは、お金を返せない可能性が高いと判断されているということだと受け止め、無理な借り入れをしないという選択も必要だろう。

月々の支払いを延滞しない

これは当然といえば当然だが、延滞があると「返してくれない人だ」と思われてしまい、新たにお金を借りることが難しくなる。借りたお金は期日までにきちんと返すのが鉄則だ。どこかで延滞してしまうと、その信用情報が住宅ローンだけではなく、車のローンやクレジットカードの新規申し込みなどでも悪影響を及ぼしかねない。

信用情報は、通常5年、自己破産などの重大な履歴でも7~10年で消える。マイホームを購入したいならせめてその前の5年間は、延滞やそのほか信用情報に傷が付くような行為を細心の注意を払って避け、コツコツと良い履歴を積み重ねていきたい。さらに言えば、できる限り借りている金額を減らしておくのが理想的だ。

住宅ローンの利用は慎重に

住宅ローンは多くの場合、数十年間という長い期間、毎月数万円という金額を支出し続ける契約になる。いくら理想のマイホームを手に入れるためとはいえ、自分の身の丈に合わないローンを組むのは危険だ。

最初のうちは良くても、のちのち返済に行き詰まってしまい、結局どこかの時点で、必死に手に入れたマイホームを手放さなくてはならないというケースも残念ながらある。「借りられる上限額」と「返せる上限額」は違うし、マイホームのためには住宅ローン以外にも各種税金や手数料、管理費、修繕積立金など多くの出費が必要だ。

借りる前に、そうしたことをきちんと考えて、現在、そして未来の自分にとっても許容範囲なのかそうではないのか、入念にシミュレーションをしておきたい。自他ともに「返せる」と認めた状態で住宅ローンを利用することが、憧れのマイホームで末永く幸せに暮らしていくためのリスクヘッジになる。

文・馬場愛梨(ばばえりFP事務所 代表)