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近年、社会保障費を理由に増税が繰り返されています。税金の負担額は、富裕層だけでなく平均的な所得の人の生活にまで影響を与えるため、真剣に節税対策を行っている人も多いことでしょう。節税方法にはさまざまな種類がありますが、税金の控除となるものの一つが生命保険です。本稿では年末調整と生命保険の関係および控除の方法について解説します。
1.年末調整とは
会社員などの給与所得者は、給与が支払われる際、所得税や復興特別所得税などを前もって天引き(源泉徴収)されます。しかし給与額に変動があったり、扶養家族の人数に変更があったりすると年間の給与総額とあらかじめ定められた源泉徴収税額とに差が生じてしまうのです。この差額を一致させることを年末調整と呼びます。
年末調整額の算出をするにあたっては、事前に各種控除を行うことで還付金が生じてくる可能性も少なくありません。年末調整で可能な控除は、配偶者控除や扶養控除・地震保険料控除など多岐にわたりますが、多くの人が対象となる控除の一つに生命保険料控除が挙げられます。
2.生命保険料控除とはどんな制度?
生命保険料控除とは、1年間支払った生命保険料に応じて、一定額を給与所得などから控除し、課税所得金額を算出する制度です。
所得税や住民税は生命保険料控除によって低くなった課税所得金額に一定の税率をかけて算出されるため、節税対策になります。
2-1.生命保険料控除の対象
生命保険に加入してさえいれば必ず控除対象となるわけではありません。生命保険料は保険契約者(所得者本人)が掛け金を支払い、受取人が保険契約者(所得者本人)か保険契約者の配偶者、親族であることが必要です。なお以下の保険や掛け金は控除の対象とならないため、注意しておきましょう。
- 保険期間が5年未満の貯蓄型保険
- 外国の生命保険会社と国外で締結した生命保険
- いわゆる「財形貯蓄」に基づく生命保険料および生命共済の掛け金
- 傷害保険契約および信用保険契約の保険料
2-2.生命保険料控除には旧制度と新制度の2種類がある
生命保険料控除制度は2012年に実施された税制改正に伴い、控除区分や上限額が変更となりました。
2012年1月1日以降に契約した生命保険には新制度、2011年12月31日以前に契約した生命保険には旧制度が適用されます。
旧制度では、一般生命保険料控除と個人年金保険料控除の2つの項目がありましたが、新制度にはこの2つに加えて介護医療保険料控除が追加され、合計の控除額が増額しました。
生命保険料の控除は上述の3つそれぞれに上限が定められていますが、さらに契約時期によってその上限も変わります。2011年12月31日までに締結した保険料は旧契約として扱われ、旧生命保険料控除および旧個人年金保険料としてそれぞれに上限が5万円です。2012年1月1日以降に締結した保険料は新契約となり、それぞれが4万円の上限となっています。
また旧・新のすべてを含み、控除額は最大で12万円までが上限です。
2-3.生命保険料控除の種類と限度額
生命保険料控除で控除される保険料の種類と保障内容、対象となる保険商品例は下記の通りです。
控除される保険料の種類 | 保障内容 | 対象となる保険商品例 |
---|---|---|
一般生命保険料控除 | 死亡または生存に起因して保険金等が支払われる保険商品 | 定期保険、収入保障保険、終身保険、学資保険等 |
介護医療保険料控除 | 疾病や身体の障害により給付金等が支払われる保険商品 | 医療保険、がん保険、就業不能保険、介護保険等 |
個人年金保険料控除 | 「個人年金保険料税制適格特約」が付加された個人年金保険等 | 個人年金保険等 |
旧制度と新制度では控除の限度額に違いがあります。
それぞれの控除額は下記の通りです。
【新制度での生命保険料控除額】
所得税 | 住民税 | |||
---|---|---|---|---|
区分 | 年間払込保険料額 | 控除額 | 年間払込年間払込保険料額 | 控除額 |
一般生命保険料 ・ 介護医療保険料 ・ 個人年金保険料 | 20,000円以下 | 払込保険料全額 | 12,000円以下 | 払込保険料全額 |
20,000円超 40,000円以下 | (払込保険料×1/2+10,000円) | 12,000円超 32,000円以下 | (払込保険料×1/2+6,000円) | |
40,000円超 80,000円以下 | (払込保険料×1/4+20,000円) | 32,000円超 56,000円以下 | (払込保険料×1/4+14,000円) | |
80,000円超 | 一律40,000円 | 56,000円超 | 一律28,000円 |
【旧制度での生命保険料控除額】
所得税 | 住民税 | |||
---|---|---|---|---|
区分 | 年間払込保険料額 | 控除額 | 年間払込保険料額 | 控除額 |
一般生命保険料 ・ 介護医療保険料 ・ 個人年金保険料 | 25,000円以下 | 払込保険料全額 | 15,000円以下 | 払込保険料全額 |
25,000円超 50,000円以下 | (払込保険料×1/2+12,500円) | 15,000円超 40,000円以下 | (払込保険料×1/2+7,500円) | |
50,000円超 100,000円以下 | (払込保険料×1/4+25,000円) | 40,000円超 70,000円以下 | (払込保険料×1/4+17,500円) | |
100,000円超 | 一律50,000円 | 70,000円超 | 一律35,000円 |
3.生命保険料控除の計算方法とシミュレーション
給与所得者が年末調整で生命保険料の控除を受けるには、生命保険料の支払金額などが記入された控除の証明書類を用意するとともに「給与所得者の保険料控除申告書」を勤め先からもらう必要があります。ただし記入に失敗したり、何らかの理由で申告書が手に入らなかったりした場合には国税庁のウェブサイトからもダウンロードが可能です。
実際に旧制度と新制度では控除額はいくらになるのか、シミュレーションで確認してみましょう。
パターン①新制度のみ適用される保険契約のケース
<契約状況>
下記3つの保険に2015年に加入
一般生命保険料控除の対象となる年間払込保険料:200,000円
介護医療保険料控除の対象となる年間払込保険料:30,000円
個人年金保険料控除の対象となる年間払込保険料:70,000円
所得税 | 住民税 | |
---|---|---|
新制度 | 新制度 | |
一般生命保険料控除 | 40,000円 | 28,000円 |
介護医療保険料控除 | 25,000円 | 11,000円 |
個人年金保険料控除 | 37,500円 | 31,500円 |
控除額合計 | 102,500円 | 70,000円 (※合計は70,500円だが、上限は70,000円のため) |
パターン②新制度と旧制度の両方が適用される保険契約のケース
<契約状況>
個人年金保険料のみ2009年に加入、一般生命保険料と介護医療保険料は2014年に加入
一般生命保険料控除の対象となる年間払込保険料:200,000円(新制度)
介護医療保険料控除の対象となる年間払込保険料:30,000円(新制度)
個人年金保険料控除の対象となる年間払込保険料:70,000円(旧制度)
所得税 | 住民税 | |
---|---|---|
新制度 | 新制度 | |
一般生命保険料控除 | 40,000円 | 28,000円 |
介護医療保険料控除 | 25,000円 | 11,000円 |
個人年金保険料控除 | 425,00円 | 35,000円 |
控除額合計 | 107,500円 | 70,000円 (※合計は74,000円だが、上限は70,000円のため) |
控除の対象となる生命保険に加入している人は、対象となる保険が旧制度と新制度のどちらに当てはまるのか、加入時期を事前に確認し、控除額のシミュレーションを行うようにしましょう。
4.年末調整で生命保険料控除を受ける際の注意点
生命保険料控除を受けるには、所得者本人が保険契約者として掛け金を支払い、受取人が所得者本人か保険契約者の配偶者、親族である必要があります。なお以下の保険や掛け金は控除の対象とならないため、注意しておきましょう。
- 保険期間が5年未満の貯蓄型保険
- 外国の生命保険会社と国外で締結した生命保険
- いわゆる「財形貯蓄」に基づく生命保険料および生命共済の掛け金
- 傷害保険契約および信用保険契約の保険料
また、年末調整の書類の提出期限も確認するようにしましょう。
勤務先への年末調整の書類提出期限を過ぎてしまった場合は、翌年の2月16日〜3月15日の間に確定申告をすれば、控除を受けることは可能です。
年末調整で生命保険料控除を受けることで所得税と住民税の節税につながるため、すでに生命保険に加入している人は自分の加入状況を確認し、控除を受けられるようにしておきましょう。
(提供:Dear Reicious Online)
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