年金に関するニュースは国民の大きな関心事の一つです。「消えた年金問題」「国会議員の未納」「100年安心神話の崩壊」……年金問題でさまざまな議論が世の中をにぎわせていたことは、その象徴といえます。近年は現実的な部分がよく取りざたされるようになりました。すなわち「年金だけで老後の生活は成り立つかどうか」ということです。
本稿は年金制度についての理解を深めて、より良い人生設計をしてもらうことを目的にしています。あわせて豊かな老後生活を目指して準備する方法についても解説しますので、将来のお金のことを考える際の参考にしてください。
公的年金ってこんな制度
2019年時点の年金制度について、厚生年金の給付額を中心に解説します。数十年後にどうなっているかは分かりませんが、すでに保険料を納付した部分について大きく変わる可能性は低いといえます。
現役時代の納付状況や給料によって給付額が変わる
年金制度は主に国民年金(老齢基礎年金)、厚生年金(老齢厚生年金)、私的年金(上乗せ年金)の3階建てです。国民年金は20歳以上60歳未満であれば、国民全員が加入しなければなりません。厚生年金は70歳未満の正社員や公務員、年収130万円以上のパートなど、一定額以上の給料、労働時間および期間の人に加入が義務付けられます。
私的年金(上乗せ年金)は企業年金や個人年金など、加入義務のないプラスアルファの年金です。2019年現在、サラリーマンや公務員のほとんどは「国民年金+厚生年金」の2階建ての年金に加入しています。ここでは主にこの2つにおける給付額の考え方について説明します。国民年金の計算方法はシンプルです。
上限額は毎年物価にあわせて見直され、1月ごろに発表されます。2019年度の老齢基礎年金の満額は78万100円でした。保険料の納付義務がある期間は20~60歳の480ヵ月であり、このうち納付した期間に見合った額が支給されます。例えば25歳まで国民年金保険料を納めておらず、26~60歳までの35年間、サラリーマンとして年金に加入していた人の給付額はどうなるでしょうか。
計算式は78万100円×420ヵ月÷480ヵ月=約68万2,587円です。1ヵ月あたり約5万6,900円が支給されるわけです。しかし厚生年金はかなり複雑です。まず納付する保険料について説明する必要があります。保険料は給料に応じてつけられる標準報酬月額によって決定されるのです。例えば毎月の給料が21万~23万円の間にあれば、標準報酬月額が22万円になります。
2019年度の東京都の場合、標準報酬月額が22万円だと保険料の個人負担分は2万130円です。賞与は別扱いされ、標準賞与額と呼ばれます。簡単に書くと給付額は一生涯に受け取る給料の平均によって決まります。標準報酬月額と標準賞与額の平均に一定率(生年月日によって異なります)を掛け、加入期間をかけ合わせた額です。
2003年以降に加入していた部分は計算方法が少し異なります。厚生年金の給付額の算定について詳細に説明すると、ページがいくらあっても足りません。ここでは「簡単には計算できない」ということを理解しておけば十分です。
受給を繰り下げて70歳まで働く方法も
上記の通り、厚生年金は現役時代の給料によって決まります。60歳以降に年金を増やす方法は主に2つあります。1つ目は繰り下げ受給です。2019年時点で原則的に年金の支給開始時期は65歳ですが、1ヵ月ごと受給を遅らせることもできます。1ヵ月遅らせるごとに0.7%増額し最大70歳まで繰り下げることが可能です。最大繰り下げ受給をした場合、額面で48%増えます。
2つ目は働き続けることです。厚生年金は70歳まで加入できるため、定年のない企業で働いたり再雇用されたりして保険料を納めていれば、その分給付額が上がります。ただし働きながら同時に年金も受け取る場合、給付額が減らされる在職老齢年金に該当するかは注意が必要です。2019年6月時点で在職老齢年金については廃止の議論もありますが、今後どのようになるかは分かりません。
給付額を増やす方法で取り組みやすく効果が高いのは、「70歳まで支給を繰り下げ、それまで働く」ということです。ただしこの方法は最後の手段と考えておいたほうが良いかもしれません。なぜなら健康で元気に働けるかどうかは誰にも分からないからです。仮に自分が健康でも親やパートナーの介護が必要となり、仕事が継続できない可能性もあります。そのためできるかぎり若いうちから備えておくことが賢明です。
インフレには条件つきで対応している
年金額を決める要素はもう1つあります。物価と賃金の上昇です。基本的な考え方として、年金の給付額は現役世代の暮らしぶりに合わせて決まると考えてください。景気が良くなって平均的な賃金や物価が上がれば、年金も上がります。しかし給付額の上昇率は、平均余命や現役世代の人口動向から計算された調整率を差し引くことになっています。
このような調整が行われる理由は、年金制度を維持するためです。給付される年金は、現役世代が支払う保険料からまかなわれます。そのため少子高齢化の世の中で年金額が平均賃金と同じように増えていくと、財源がなくなってしまいかねません。この調整方式をマクロ経済スライドといいます。将来の物価はどうなるか分かりません。もし少しずつ物価が上がるとすれば、実質的な給付額はかなり目減りしている可能性があります。現役世代の収入に対する受給者一人あたりの給付額割合の所得代替率は低下傾向です。かつての年金生活者に比べて老後の暮らしが厳しくなりつつあることが分かります。
老後の生活は公的年金だけで足りるのか
上記の通り年金給付額の計算にはさまざまな要素がからんでいます。「理屈はいいから、具体的に老後の生活がどうなるのか教えてほしい」という人もいるでしょう。平均的には以下の通りです。
統計的には明らかに足りない
2017年度における厚生年金の平均的な支給額は約14万7,000円です。(基礎年金含む)妻が専業主婦であれば、基礎年金の約6万5,000円を加えて、世帯年収は約21万2,000円となります。公益財団法人生命保険文化センターが2016年度に実施した「生活保障に関する調査」によると、夫婦2人が必要と考える生活費の平均は約22万円という結果でした。
データだけを比較すると年金収入だけでもなんとかなりそうですが、これはあくまでも必要最低限の金額です。ゆとりある暮らしの場合、必要とされる生活費の平均は約34万9,000円でした。年金収入が約21万2,000円だとすると、毎月の赤字は13万7,000円です。30年間この状態だとしたら、4,932万円必要になります。
2019年6月に金融庁が発表した報告書では、総務省統計による平均値として実収入は約20万9,198円、実支出が約26万3,718円で算出。この場合、毎月の赤字が約5万4,520円となり、30年間で必要な老後資金は約1,962万円でおおむね2,000万円となります。国会でも取り上げられニュースになったので、ご存じの人も多いでしょう。
これらを踏まえると年金だけで豊かな生活を送ることはできないのは明らかです。よくイメージされる「退職後の悠々自適な暮らし」は誰にでも訪れるとはかぎりません。
介護費用にリフォーム、孫への支援。お金は豊かな生活を生む
金融庁の報告書における老後資金の「2,000万円」には、非経常的な支出は入っていません。具体的には介護費用やリフォーム代、子供や孫への援助などです。公益社団法人生命保険文化センターの2018年度「生命保険に関する全国実態調査」によると、介護サービスなど月額費用の平均は約7万8,000円、平均介護期間は54.5ヵ月でした。またバリアフリー設備の導入などの一時費用が約69万円です。
これらの合計をすると、494万1,000円になります。あくまでも平均なので、介護の状態によってはさらにかかる可能性もあるでしょう。そのため介護費用は500万円ほど用意しておくと安心です。持ち家の人は、リフォーム代も老後の人生設計に入れておくことが賢明でしょう。住宅の設備は水回りなどの内装設備で20年、屋根や外壁などの外装で30年周期の交換が必要だといわれています。
かかる費用は瓦屋根の交換で70万~120万円、システムキッチンの交換で40万~80万円などです。また国土交通省2016年度「住宅市場動向調査」によると、リフォーム全体にかかる費用の平均は約231万円程度になります。その他にもケガや病気で入院・通院することもあるかもしれません。旅行や趣味で人生を謳歌したい人も多いのではないでしょうか。
日常的な赤字になると予測されている約2,000万円に突発的な支出を加えると、介護費用の約500万円、リフォーム代の約231万円の合計2,731万円です。さらに葬儀費用を約200万円とすると、最低限必要な老後資金は約2,931万円にも膨らみます。もし趣味や旅行などで年間30万円使うとすると、さらに900万円程度は必要です。
豊かな老後を送るために必要な資金は、各種統計から積み上げて計算すると約3,831万円になります。公益財団法人生命保険文化センターによる調査の「ゆとりある暮らし」に必要と考えられる額から計算すると4,932万円でした。平均寿命の伸びや少し余裕をもっておくことを考えると5,000万円ほど欲しいところです。
今の100円と30年後の100円の価値は違う
豊かな老後を送りたいのであれば、年金以外に約5,000万円を確保する必要がある……このように記載すると途方もない金額に思えるかもしれません。たしかに給与収入と節約だけで貯めようとすると大変です。しかし決して不可能ではありません。60歳代の平均貯金額は約2,000万円です。普通にがんばれば、最低限必要な額には届くのです。さらに努力した分だけ、老後の生活は豊かになります。
退職金がもらえるのであれば、老後資金の計算に入れても良いでしょう。支給額を職場の規定で確認してみてください。平均は1,700万~2,000万円ですが、低下傾向にあることを考えると、1,500万円と見てみいたほうが良いかもしれません。豊かな老後を送るのに必要な資金はあと3,000万円です。1,500万~3,000万円をわずかな期間で貯めようとしたら大変です。
しかし長期にわたって少しずつ積み立ていけば無理なくできます。そのときに大事なのは時間を味方につけ、捻出したお金を増やして行くことです。ただ貯金しているだけでは、増やしていくことは難しいでしょう。現代のように銀行の定期預金利息が0.01%程度の時代では、1%増えるのに100年かかります。そのため若いうちから老後資金の原資を意識して、運用で増やしていくこと一番の近道です。
もう一つの対策として、老後の収入を年金以外にも持つことが考えられます。どちらかといえばこのほうが安心で確実です。なぜなら先ほど述べたような物価上昇のリスクを回避できるからです。3,000万円を目標に貯めても、それが20年後に現在と同じ価値のままとはかぎりません。しかし物価に合わせて変わるような収入があれば、その心配は不要です。
足りない分は私的年金で補う
公的年金の不足を補う方法は「定年までに長期で積み立てる」「年金以外の収入を増やすこと」といった2つです。具体的な手段を4つ挙げます。この中のいくつかを組み合わせて行うのが効果的です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
年金という名前がついているだけあって、国民年金や厚生年金と似ている性質があります。年間に積み立てた金額を払い込んだ年度の所得から控除できる点は同じです。しかしそれ以外の多くの部分に違いがあります。iDeCoの大きな特徴の一つは、運用先を自分で決めることです。株式投資信託や定期預金、債券など、さまざまな商品から運用先を選ばなければなりません。
もう1つの厚生年金との大きな違いは、受け取れる金額は運用した結果によって変わるということです。一生涯もらえる厚生年金と違い、積み立てたお金を自分自身で増やさなければなりません。増やそうとした結果、減ってしまう可能性もあります。まさに「自己責任」という言葉がぴったりの運用方法です。
個人年金保険(積立型)
保険料を少しずつ払い、老後に一定の利率が加算された保険金として受け取ります。実質的に増える割合は年1%にも満たないくらいですが、経済状況によって変わることもあります。iDeCoや公的年金同様、節税効果もありますが、所得控除の最大は年間5万円までと多くはありません。受取方法はさまざまで、一括タイプや年金タイプのもの、さらに年金タイプで生涯受け取れる、トンチン型年金というものもあります。
ただインフレーションに弱い点には注意が必要です。物価が大きく上がっても、受取金額は変わらないので、実質的な受取額はかなり減ってしまう可能性があります。
つみたてNISA
老後資金の形成のために作られた制度ですが、年金とは少し意味合いが違います。金融商品に投資して利益が出ると、通常はそこに税金がかかるのですが、一定の条件のもと運用することで免除されます。これを制度化したのが「NISA」と「つみたてNISA」です。税金が免除される期間はNISAが5年、つみたてNISAは20年です。
つみたてNISAが対象とする金融商品は、「長期の運用に適している」と金融庁が認めたもののみとなっています。老後の資金作りに適さない商品を選んでしまうことをある程度防ぐことが可能です。しかしiDeCoと同様に運用の責任は自分にあります。家計に余裕がある人が、他の方法と合わせて行うのに良いでしょう。
マンション経営
金融商品でも保険でもなく、実物資産である区分所有マンションを購入します。買った部屋は賃貸に出し、家賃収入を得るという手法です。減価償却費や購入時の諸費用は所得控除できるので、iDeCoや公的年金と同じように節税効果があり家賃は老後の収入源になります。一般的な流れは、まずローンを組んで購入し退職するまでに完済することです。
理想通りとなれば家賃収入のほとんどが収入として残るようになります。そのまま受け取り続けるのも良いですし、売却して新しいマンションを買うのも良いでしょう。物価上昇に強いことも特徴の一つです。一般的に不動産価格や家賃収入は物価と連動します。経済状況の変化にも対応できる、長期の資産運用に適した方法といえるでしょう。
豊かな老後を送るためには公的年金だけに頼らないこと
公的年金の中でもサラリーマンが加入する厚生年金は、「現役時代にどれくらいの収入だったか」「年金をもらうときにおける若い人たちの収入」などによって変わります。また必要な老後資金はどれくらい余裕をもった暮らしをしたいかによって大きく異なり、一概にはいえません。突発的な支出が発生するリスクも考えると、公的年金だけでは明らかに不足しています。
足りない分は自助努力によって補うしかありません。そのため若いうちから長期で積み立てていくことが必要です。iDeCoや個人年金保険、マンション経営などのうち、いくつかを組み合わせて行うと良いでしょう。(提供:Dear Reicious Online)
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