首都圏では、マグニチュード7クラスの直下型地震が2050年ごろまでに70%の確率で発生すると予測されています。その場合の死者数や倒壊する建物の数は、東日本大震災を上回るでしょう。少しでも被害を食い止めるために耐震性が低いビルには対策が必要です。

耐震基準の違いで大破の割合が3倍に

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(写真=Andrey VP/Shutterstock.com)

1995年に発生した阪神・淡路大震災では、多くの人命と建築物が失われました。破損した住宅約64万棟のうち、全壊したのは約10万棟です。犠牲者の88%が圧迫死ということからも、建物の倒壊がいかに大きな被害を生んだかわかります。興味深いのは、建築年によって破損の度合いが異なることです。大破した割合は、1982年以降に建てられた建築物が10%未満だったのに対し、1981年以前は約20%強でした。

約3倍ちかく差をつけた理由は、建築基準法の改正です。1982年以降の新耐震基準は、震度6強~7クラスの大地震でも倒壊しない強さを要求するものです。旧耐震基準では、一定の地域において数百年に一度しか発生しないような大規模の地震は想定されていませんでした。義務付けられる耐震性は大きく変わったといえます。

ただ旧耐震基準で建てられた場合でも改修を施すことで耐震性を高めることは可能です。2013年における国土交通省の推計は、公に利用される建築物の約14.3%を「耐震性なし」としています。不特定多数の人が出入りする約6万棟もの商業ビルや店舗などが、耐震化を待っているのです。

所有物件の耐震性を調べる方法

新耐震基準が適用され始めたのは1981年6月1日です。以降に建築確認を受けた建築物は、大地震で倒壊する可能性は低いでしょう。一方、旧耐震基準のもとで建てられていながらも高い耐震性を持つケースもあります。古いビルは、耐震診断をしてみなければ改修の必要性があるかどうかわかりません。耐震診断は建築事務所や不動産会社などに依頼します。

基本的に設計図面に書かれた構造から耐震性を計算しますが、現地調査も必要です。壁面にひび割れやゆがみがないかなどを調査したり、コンクリートの壁をくり抜いて強度を測定したりします。耐震診断にかかる1平方メートルあたりの費用は、小規模ビル(床面積1,000平方メートル以下)の場合、鉄筋コンクリート造で2,000円前後、鉄骨造で2,500円前後です。

また見た目から簡単に推測するという自己診断方法があります。耐震性は構造(材料)や地盤などによって変わりますが、特に大きく影響するのが建築物の形状です。立方体の形をしているものが最も強く、L字型や上下階で床面積が異なるもの、1階が柱のみで壁がないピロティ構造などは、揺れに弱いとされています。

もしこのような形状で1981年以前に建てられた物件を持っていたら、早めに耐震診断をしたほうがよいでしょう。

耐震性アップの種類と費用

建物の地震対策には、大きく分けて「耐震」「免震」「制震」の3つがあります。耐震は揺れても壁や柱が破損しないように強度を高めるもので、壁の補強や柱の増し打ちなど方法はさまざまです。小規模の商業ビルは多くの場合、耐震補強工事を行います。免震と制震は地震の力を逃したり抑えたりして建物自体が揺れないようにします。

建築物自体が貴重な文化財や揺れると甚大な被害がある博物館などに使われることが多い方法です。耐震と比べて高いコストと長い工期がかかります。耐震補強工事の費用は、延べ面積3,000平方メートル以下のビルの場合、1平方メートルあたり平均約4万円です。(東京都による2009年のアンケート調査)仮に延べ面積500平方メートルの鉄筋コンクリート造ビルであれば、耐震診断で100万円、補強工事で2,000万円ほどかかることになります。

国や自治体は、耐震診断や工事を税制優遇や助成金などで後押ししています。例えば東京都中央区は、特定緊急輸送道路に指定された道路に接する一部の建築物の所有者に耐震診断を義務付けており、診断費用の全額や補強工事の3分の1などを助成しているのが特徴です。

まずは耐震診断を

阪神・淡路大震災のような直下型の大地震が発生したとき、建物が現行の耐震基準をクリアしているかどうかで被害状況は大きく変わるでしょう。そのため1981年5月31日以前に建築確認を受けたビルで耐震性が明らかになっていないものは、耐震診断を受けることをおすすめします。診断や補強工事には費用がかかりますが、人命には代えがたいものです。自治体の助成金なども確認のうえ検討してみてください。(提供:ビルオーナーズアイ