「ソフトウェアテストのアウトソーシングの市場は拡大する」
ゲームのデバッグなどを手がける東証一部上場企業・〔株〕デジタルハーツホールディングスが、今年8月、米国シリコンバレーのソフトウェアテスト会社・LogiGearを子会社化した。2019年3月期の売上高は過去最高と好業績の中、いったいなぜ、この海外企業を子会社化したのか? 社長の玉塚元一氏に聞いた。
エンタープライズ事業での第2創業を一気に加速
――19年3月期は15期連続増収で、過去最高の売上高となりました。ゲームの不具合を見つけるデバッグなど、主力のエンターテインメント事業が好調な中で、ゲーム以外のソフトウェアのチェックを行なうエンタープライズ事業に注力しているのはなぜですか?
玉塚 ゲーム領域は、これからもベースとなる事業として成長していくと思います。クラウドゲーミングによってゲームの参加人口が増えますし、PlayStation4やSwitch、PC、スマートTVなど、ゲームをプレイするハードウェアの種類も増え、ゲームのソフトウェア自体も複雑性を増していますから。
ただ、ここ数年、アプリやウェブサイトから始まり、IoT機器のソフトウェアなど、ゲーム以外の領域でのテストのニーズがものすごく増えていて、第三者検証の時代が来ることを強く感じています。
私が社長に就任した2年前から、第2創業と位置づけ、エンタープライズ事業の急拡大に注力しており、これまで当社が培ってきたものを土台にしながらも、まったく新しい会社を作る覚悟で色々なことをしてきました。おかげ様で、エンタープライズ事業は年率170%と急成長をして、お客様も増えてきています。
ソフトウェアのテストサービスは、人材×技術で成り立っています。当社は、1,000種類くらいのスマホの検証を同時に行なったり、一部のテストを自動で行なったりする技術を磨いていきました。今では、年間7,000本ほどのプロジェクトを、毎日、全国15拠点にいる約4,000人のテスターが手がけています。登録しているテスターは約8,000人います。スマホゲームやパチスロ機などの、ユーザーの満足度や売上げに直結するバグを見つける、優秀なテスターです。ゲームは、ユーザーの動きが読めないので、バグを見つけるのが難しいんです。この人材と技術を土台にして、エンタープライズ事業、すなわち非ゲーム領域の第三者検証の事業を一気に大きく広げたいと考えています。
そして、ゲームのテストサービス、エンタープライズ向けのテストサービスの延長線上には、最終的に、サイバーセキュリティサービスがあります。脆弱性のテストやペネトレーションテストは、究極の第三者検証ですから。これらを全体的に提供できる総合テスト・ソリューションカンパニーになることが、当社のビジョンです。
――LogiGearの子会社化は、そのビジョンを達成するために必要だった?
玉塚 エンタープライズ事業を一気に加速するために、すごく重要なピースです。
LogiGearは、ハン(・Q・グエン)さんという、ソフトウェアテストの世界的権威が経営していて、ソフトウェアテストのプロフェッショナルが多く在籍しています。また、独自に開発した、ユーザーフレンドリーなソフトウェアテストの自動化ツールを持っています。さらに、その自動化ツールを熟知し、テストスクリプトを書ける優秀なテストエンジニアが、ベトナムに約500人もいます。
ベトナムの人材を活用しているため、LogiGearの自動化ツールは、コストの面でも優位です。ただ、当社は自動化ツールを販売するのではなく、自動化ツールの活用も含めたソリューションを提供していきます。
――子会社化に至る経緯を教えてください。
玉塚 当社CTOの石黒(邦宏)がハンさんのことを知っていたので、1年半ほど前から、何度か食事を一緒にしました。その際、彼らのテスト自動化ツールやベトナムのテストエンジニアに非常に可能性を感じていた私は、最初からストレートに「一緒にやりましょう」という話をしたのですが、「まだまだ自分たちで頑張りますよ」となかなかいい返事はもらえませんでした。
しかし、その後、自分たちだけでやるには限界があると考えるようになったのか、今年5月に日本に来たときに「以前の話を真剣に検討したい」という話があったので、一気にクロージングしました。
――LogiGearが、他社ではなく、御社を選んだ理由は?
玉塚 それはわかりませんが、多分、当社はゲーム領域が中心で、エンタープライズ事業ではそれほど大きなプレゼンスがなかったのに対して、LogiGearはゲーム領域で事業をしておらず、エンタープライズ事業でプレゼンスがあるという、組み合わせでしょう。うまく住み分けをしながら、シナジーが期待できるということだと思います。