世界トップレベルの人材を育成するために

――エンタープライズ向けのテストサービスの需要が増えているということですが、それはこれからも続くと見ていますか?

玉塚 日本企業は、基本的に、ソフトウェアの開発をITベンダーに丸投げしてきました。テストも、大手ITベンダーの下請け会社が行なうのが一般的でした。

けれどもこれからは、すべてがソフトウェア化していき、「こんなアプリを作りたい」といったニーズもどんどん増えて、ソフトウェア開発のアジャイル化が進みます。すると、ITベンダーに丸投げしていては対応できなくなります。5Gになれば、この流れがさらに加速するでしょう。

すると、事業企業が自社でソフトウェアを開発したり改良したりしなければならなくなります。SNSやECなどを展開するIT企業はすでに自社で開発を行なっていますが、今後、IT企業以外の事業会社もそうなっていきます。

ところが、日本ではIT人材が不足しています。そのため、ソフトウェアの開発にかかる工数のうち3~4割を占めるテストをアウトソーシングするニーズが増えてくるでしょう。そこで、当社がテストのソリューションを提供したいと考えています。

また、事業会社だけではなくITベンダーも人手不足ですから、テストをアウトソーシングするようになると思います。テストを第三者の視点で行なうという意味でも、アウトソーシングは重要になります。

――サイバーセキュリティ事業については、現在、どのような展開をしているのでしょうか?

玉塚 四つあって、一つ目はSOC(Security Operating Center)サービスです。色々なデバイスを使って、お客様に対してどのようなアタックがあるのかをモニタリングするものです。

二つ目は、旧来型の脆弱性診断、つまり、バグを見つけるサービスです。

三つ目は、米国のSynackのサービスの、日本で唯一の販売です。SynackはNSA(国家安全保障局)で働いていたジェイ・カプランというホワイトハッカーが作った会社で、世界中の1,000人のトップレベルのホワイトハッカーをクラウドでつなげて、ものすごくハイレベルなペネトレーションテストを行なっています。

四つ目は、当社のテスターを「デジタルハーツサイバーセキュリティブートキャンプ」で教育することです。すでに60人ほどが卒業しています。卒業した人には、SOCや旧来型の脆弱性診断のサービスを担当してもらっています。また、Synackのチームに加われるレベルの人材を、まずは3~5人、育てることを目標にしています。

――他のサイバーセキュリティ会社と競争するうえでの戦略は?

玉塚 当社も行なっていますが、ファイヤーウォールやUTMといった技術の販売は、どの会社もやっています。より重要なのは、第三者の視点から脆弱性を見つけることであり、しかも、それを継続的に行なうことです。その点で、Synackのサービスは非常に競争力があると思います。

Synackのホワイトハッカーたちのコミュニティに入るハードルは非常に高く、また、Synackは世界中のハッキングや脆弱性の情報を詰め込んだHydraというものを持っています。

ある会社のシステムをSynackが診断するときは、まずHydraでクローリングをして、脆弱性がありそうな領域を見つけます。そして、その情報を共有したホワイトハッカーたちが、その領域を一気にアタックして、シリアスな脆弱性なのか、無視してよい脆弱性なのか、ランキングして、リアルタイムでレポートします。

お客様からは固定の料金を継続的にいただき、ホワイトハッカーには、見つけた脆弱性のレベルに応じて報酬が支払われます。

当社はSynackのサービスを日本で提供しているわけですが、これが当社にとっても非常に勉強になります。世界のトップレベルのハッカーたちが、どうやって脆弱性を見つけているのか、リアルに見ることができますから。それが、当社のテスターの育成にも役立っています。

――LogiGearの子会社化も、御社の人材育成に影響しますか?

玉塚 LogiGearは教育プログラムがものすごく充実しています。自動化ツールについてベトナムのエンジニアに行なっている教育のレベルも高い。それを当社のテスターの教育にも活用したいと思っています。

――LogiGearの子会社化をきっかけに、海外市場へ進出する考えは?

玉塚 LogiGearのお客様の多くは北米の企業で、北米のエンタープライズ事業の市場はまだまだポテンシャルがあると思っていますから、北米での営業体制やマーケティング戦略の強化も考えています。

LogiGearはシリコンバレーで25年間も生き残ってきた企業で、手堅く、ファミリービジネス的な経営をしてきました。これからは、当社の資本を入れて、成長戦略を定め、一気に北米市場で成長することを目指します。

――北米でのエンターテインメント事業は考えていますか?

玉塚 当社は日本で最大のゲームのデバッグ会社ですから、当然のこととして、それも考えています。

玉塚元一(たまつか・げんいち)
〔株〕デジタルハーツホールディングス代表取締役社長CEO
1962年、東京都生まれ。85年、慶應義塾大学卒業後、旭硝子〔株〕(現・AGC〔株〕)に入社。ケース・ウェスタン・リザーブ大学大学院でMBAを、サンダーバード国際経営大学院で国際経営学修士号を取得。98年7月、日本アイ・ビー・エム〔株〕入社。同年12月、〔株〕ファーストリテイリング入社。2002年、同社代表取締役社長兼COO。05年、〔株〕リヴァンプを設立し、代表取締役に就任。11年、〔株〕ローソン副社長執行役員COO。その後、同社社長、会長を歴任。17年、〔株〕ハーツユナイテッドグループ(現・〔株〕デジタルハーツホールディングス)代表取締役社長 CEO。(『THE21オンライン』2019年09月23日 公開)

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