『丸亀製麺』で学んだ 超実直!史上最高の自分のつくりかた
小野正誉(おの・まさとも)
株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書・IR 担当。神戸大学経済学部卒業後、大手企業に就職するも1 年で退社。 その後、外食企業で店舗マネージャー、広報・PR 担当、経営企画室長、取締役などを歴任。2011 年より「丸亀製麺」を展開する株式会社トリドールホールディングスに勤務。 転職してわずか3 年で社長秘書に抜擢。 入社後8 年の間、国内外に1,700 店舗以上を展開する グローバルカンパニーに至るまでの成長の軌跡を間近に体験する。近著『丸亀製麺はなぜNo.1 になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(祥伝社)は、各メディアで取り上げられてベストセラーとなり、海外版も出版されている。他、著書に『メモで未来を変える技術』(サンライズパブリッシング)がある。1972 年奈良市生まれ。和歌山市育ち。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

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新オフィス 新たな可能性

人間を成長させるのは、三つ間。「仲間」、「時間」、そして「空間」です。どんな空間で、どんな時間をどんな仲間と過ごすか。良質であればあるほど、成長は加速します。

また、言うまでもありませんが、企業は、人で成り立っています。トリドールも新時代のビジネスパーソンを輩出する人材開発企業へと進化するため、従来の外食産業のワークスタイルやオフィスのあり方を革新したいと考えていました。

また、二〇一五年に東京本部ができ、神戸本社からいくつもの部署が移転しました。事業拡大で増員もしてきたので、大崎にある東京本部には入りきらず、オフィスが四か所に分散されました。ですので、東京の拠点を一か所に集約して、生産性の高い、強固で機動力の高い組織体をつくる必要もありました。

そこで、二〇一九年九月オフィスを渋谷に移転します。あわせて、本店も神戸市から渋谷区に移転します。パース段階で、家族にみせると「えぇ! こんなおしゃれなオフィスになるの? パパいいねぇ」と驚かれるくらいかなり斬新なオフィスです。

新オフィスは、職場とはこうあるべきだという常識にとらわれていません。社内外の人が出会い、交流し、コラボレーションできるような空間に設計されていて、バリエーション豊かなインテリアだけでなく、音楽や芸術、緑に溢れる創造的空間で社員の感性を刺激できるものになっています。

非常に自由度の高いグループアドレス(ABW)を採用する上に、レイアウトやオフィス家具も既成概念に捉われないものです。今は、部署ごとに固定の席が割り当てられていますから、そこからの移行という点ではさまざまな反応が生まれると思います。

単に増床した拠点に引っ越すという意図ではなく、ゼロベースであるべき姿を描くことができる絶好のタイミングです。組織を生まれ変わらせるための一大プロジェクトですから、組織編成と育成、評価の考え方をも改良・進化させる必要性があります。もちろんそれを活かすための個々のマインドセットも必要ですね。

トリドールは、究極的には「会社に来なくても働ける、評価される」という評価軸を構築していきますが、それを踏まえても、「オフィスに来ることが楽しい、わざわざ行きたくなるオフィス」であることを目指しています。空間が変わることで、個の意識も変わり、新たなものが交わることで思いもかけない化学反応が起こるかもしれません。

本書が世に出るころには、私も渋谷で仕事をしているはずです。どんな変化があるか、今から楽しみです。

プチ感動を広げていく

なぜ人は、ドラマや映画、演劇を観たりするのでしょうか。また、なぜ、スポーツでもW杯やオリンピックのときは盛り上がるのでしょうか。きっと、人は、どこかで感動をしたいと思って、生きているからだと思います。

ただ、日常では、感動するような出来事ばかり起こるわけではありません。どちらかというと、平穏で、昨日とあまり変わらない今日がきて、その繰り返しのような日常が続いているのはないでしょうか。逆に、毎日誰かと抱き合って喜び合うようなことが起こっても疲れてしまうかもしれませんね。でも、心を動かしていたいという欲求がどこかにあるので、少し非日常なドラマや映画、スポーツなどを観て、プチ感動を体験しているのかもしれません。

プチ感動なら日常的に体験できます。丸亀製麺では、つねにお客様に感動していただきたい、と思っていますが、涙が止まらなくなるような感動ではなく正に「プチ感動」です。

それを日常的に感じるには、「いつ行っても美味しい」「サービスがいい」というような安心感が不可欠です。そういう意味では、味やサービスの質のみならず、割烹着を着たおっちゃん、おばちゃんの存在やお店の雰囲気も大事なのです。

私も自宅で料理をすることはありますが、それは、お父さんの料理です。お父さんの料理は、日ごろ買わない高価な素材を買ってきて、バーッとつくって、食べさせて、「うまいだろ、どう? うまいだろっ?」と言って、あまり片づけもしないという感じのもの(もちろん時間をかけてじっくりつくって、後片づけもするお父さんはいると思いますが(笑))。

お母さんの料理というのは、ちょっとスーパーで食材を買い足して、冷蔵庫にあるもので、おいしくてはやくできて、健康にいいものを毎日毎日つくり続けるというもの。どちらかというと、お父さんの料理のほうが、希少価値もあって、アウトドアで食べるカレーが美味しいように、ちょっとした感動があるのかもしれませんが、所詮一過性のもの。

お母さんの料理のほうが家族の健康を支えてるし、なにより安心感がある。派手さはなくとも、日常に溶け込んでいて、いつの間にか小さな幸せが蓄積されているはずです。

丸亀製麺は、年に何回かしか行かないような高級な料理店ではありません。五〇〇円か六〇〇円ちょっとでお腹いっぱいになって、心も満たされる。そんなお母さんの料理に近い、日常に根づいたお店であれたらいいなと、と思います。

革命を起こした行列 熱気はここから生まれる

丸亀製麺の象徴ともいえる行列のシーン。人が並んでいる列に加わる。そこには、すべてがあると言っても過言ではありません。

うず高くつまれた小麦粉の袋、出汁や天ぷらのにおい、従業員の声や動き、すべてが五感を通じて訴えてきます。「今日はなにを食べようかな」というワクワク感をかき立ててくれます。並んでいるときから、飲食は始まっているのです。

丸亀製麺の創業のきっかけも讃岐本場でみた行列でした。丸亀製麺の原点と言ってもいいでしょう。そんな行列は、どうやって生まれたのでしょうか。そして、どんな影響を及ぼしたのでしょうか。

最後に、丸亀製麺の真骨頂「行列」についてお話しさせていただきます。一店舗を出店するのには数千万円の投資をしなければなりません。丸亀製麺を創業して間もないころは、十分な資金もなく、どんどん店舗を出店するという状況ではありませんでした。

そんなとき、チャンスをいただいて出店できたのがショッピングセンターのフードコート。そこでの出店は、投資がかからないという大きなメリットがありました。フードコートは、区画内に商品をつくり提供できる厨房さえつくれば、事足ります。路面店のようにテーブルと椅子を置くホールのスペースや駐車場もいりませんので、投資が軽いのです。フードコートへの出店はそういう意味でもうってつけの物件でした。

しかし、十数年前のフードコートと言えば、駅構内にあるお店と同じように、商品を安く、早く提供することが優先されていて、店頭で実演販売をしているところはありません。それでも、丸亀製麺の持ち味を発揮すべく、狭い区画に製麺機を持ち込み、実演販売をしました。

当時では、できたての商品を提供するところはなかったのか、瞬く間に行列ができました。行列ができるお店には、盛況感が漂い、人が群がり行列ができます。まさに相乗効果です。そんな丸亀製麺の成功が浸透していくなかで、フードコートの店づくりも徐々に変わっていったそうです。

今ではほとんどのお店が、店頭で実演販売するようになりました。丸亀製麺は、フードコート内で、革命を巻き起こしたのかもしれません。「いらっしゃいませ」「かしわ天揚げたてです!」「ありがとうございました~」などという声とともに、厨房内で汗を光らせ動く従業員。お客様との掛け合い。うどんが提供され、天ぷらなどが並ぶレーンから続く行列。ワクワクした気持ちで行列に加わるお客様。

人と人が創り上げていく、そんなシーンになにより活気を感じます。「できたての美味しいうどんを食べていただきたい」というどこまもピュアな思いと、それを形に変える実直な行動がその活気を生み出しているのです。

それが、いつまでも絶えないこと、そして、さまざまなシーンで同じような活気が生まれることを願っています。