『丸亀製麺』で学んだ 超実直!史上最高の自分のつくりかた
小野正誉(おの・まさとも)
株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書・IR 担当。神戸大学経済学部卒業後、大手企業に就職するも1 年で退社。 その後、外食企業で店舗マネージャー、広報・PR 担当、経営企画室長、取締役などを歴任。2011 年より「丸亀製麺」を展開する株式会社トリドールホールディングスに勤務。 転職してわずか3 年で社長秘書に抜擢。 入社後8 年の間、国内外に1,700 店舗以上を展開する グローバルカンパニーに至るまでの成長の軌跡を間近に体験する。近著『丸亀製麺はなぜNo.1 になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(祥伝社)は、各メディアで取り上げられてベストセラーとなり、海外版も出版されている。他、著書に『メモで未来を変える技術』(サンライズパブリッシング)がある。1972 年奈良市生まれ。和歌山市育ち。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

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「外食あるある」 お客様が求めているもの

クレームは、「自分が想定していたもの」に対し、提供された商品やサービスのレベルがはるかに低いとき、生じるものです。思っていた以上にまずかった、お店が汚かった、サービスが悪かった……、割引きをしてもらえると思っていたが拒否された……。

「想定」と違うから「どうして?」と思い、クレームに発展するのです。いっぽうで、期待していた以上のものを受け取るというケースもあります。たとえば、一〇〇〇円支払ってもそれ以上の満足、価値を感じることができれば、「コスパいいよね」となります。

お客様の嗜好も異なります。さらに美味しいものはどこでも食べられます。だから期待以上のものを提供するのは、とてもたいへんです。そのために我々は日々汗を流していかなければいけないのですが、お客様の求めているものを先取りして把握できれば、少しは容易になるのかもしれません。

ここでは、そんなお客様のニーズを探るというお話をしたいと思います。

外食産業には横のつながりもあって、同業の人たちと交流することがあるのですが、そのときかならずと言っていいほど出るのが、「外食あるある」の話。それは、お客様のご意見・ご要望(アンケートなど)をもとにつくったメニューは売れない、というもの。どの企業もお客様がなにを望んでいるのかをリサーチし、ヒットとまではいかないまでも、しっかりと支持される商品をつくり世に出したいと思っています。

そこで有効なのは、アンケート。もちろん丸亀製麺でも、積極的にお客様の声を拾うようにしています。でも、それを反映させたものをつくっても売れない。どういうことなのでしょうか⁉

たとえば、ヘルシー志向の野菜たっぷり系のものやボリュームの少ないもの。健康に気を配ったり、体型を気にする人にとって、そういうものはよさそうですよね。現にご意見や要望も多いので、これはウケるに違いないと思って開発したら売れない、という現実が待っています。なぜ、売れないのでしょうか。

それは、頭のなかで顕在的にいいと思っていたり欲しいと思っているものと、深層心理で欲しいと思っているものは違うということです。

豚カツ店で、お客様のご要望を反映してボリュームの少ない商品をメニューに増やしたら、売れなかった。豚カツ店に行く動機として、「今日はがっつり食べたい!」という心理があるということなのでしょうね。日ごろ食事制限やダイエットしているかもしれませんし、今日こそは、ハンバーガーを食べたい! 豚カツを食べたい! という風に。

実際、丸亀製麺の期間限定のフェア商品でも、野菜たっぷり系のものはヒットせず、むしろ肉系のハイカロリーなものが受けます。ダイエットをしていても、お酒を飲んだ後にラーメンを食べたくなるのも同じですね。それがたまらなく美味しいのです。少なからずそのときは満たされるのです。(翌朝は後悔することが多いのですが……)それは、深層心理を満たしているからなんですね。

私もこの間、飲んだ後、こってりのナポリタンスパゲティを食べてしまいました(笑)。そのときは、心から満たされるんですよね。

時代の流れやお客様の嗜好の変化にも敏感に対応していかなければいけませんが、奥底に沈んでいるお客様の「欲しい」を掘り当てないといけませんお客様は、心の奥底にあることはなかなか話してくれませんから。

ハートに火をつける

売っている商品は同じでも、ネーミングやパッケージ、売り方を変えたらヒットしたという話を聞いたことはありませんか。なにかの拍子にお客様のハートに火がつけば、購買につながるという不思議な現象です。

粟田社長は、商品には「置き場所」や「売り方」によって急に売れだす着火点があると言っていました。お客様のハートに火をつける、ということですね。

創業当初は、十分な資金もなかったため、潰れたお店の居抜きに焼き鳥とりどーるを開店したそうです。ある店はカウンター内に焼き場を造れず、入口のドアを開けてすぐのところに置いたのだとか。炭焼きなので入口は熱気に包まれ、煙と匂いも充満……、これは失敗した! と思ったのですが、改修する予算もなくそのままオープンしたら、予想を大きく裏切り焼き鳥が圧倒的に売れたそうです。

それ以降、入口すぐのスペースに厨房を配置し、調理シーンがお客様の目に飛ぶこむ設計にしました。一度着火点にはまると、その商品は飛ぶように売れます。焼鳥だけでなく、唐揚げや釜めしも着火点(売り方)をみつけることで売れに売れたそうです。お客様の五感を刺激し、ハートに火がついたからでしょう。

いまでこそ我が社では、オープンキッチン、臨場感という言葉が当たり前のように使われ、丸亀製麺をはじめとする多くのブランドの持ち味となっています。「どうすれば焼き鳥が売れるか?」という命題に、コンピュータは答えを導けるでしょうか。

コストパフォーマンスを上げる、お得感を打ち出す、おすすめするなど、答えはいくつかあるかもしれません。でも、お客様のハートをつかむ着火点をfinding(発見する)ことは人にしかできないように思います。それは、合理的に、論理的に物事を考えた先に導かれるものではなく、数ある経験や遠回りした先にみつけるものだからです。最適解で固められた無機質なお店より、少し煙でもくもくしていても、心を揺さぶるものがあれば人は寄ってくるのです。