『丸亀製麺』で学んだ 超実直!史上最高の自分のつくりかた
小野正誉(おの・まさとも)
株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書・IR 担当。神戸大学経済学部卒業後、大手企業に就職するも1 年で退社。 その後、外食企業で店舗マネージャー、広報・PR 担当、経営企画室長、取締役などを歴任。2011 年より「丸亀製麺」を展開する株式会社トリドールホールディングスに勤務。 転職してわずか3 年で社長秘書に抜擢。 入社後8 年の間、国内外に1,700 店舗以上を展開する グローバルカンパニーに至るまでの成長の軌跡を間近に体験する。近著『丸亀製麺はなぜNo.1 になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(祥伝社)は、各メディアで取り上げられてベストセラーとなり、海外版も出版されている。他、著書に『メモで未来を変える技術』(サンライズパブリッシング)がある。1972 年奈良市生まれ。和歌山市育ち。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

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Finding New Value

「なにげない風景や、よくある出来事がいつもと違って見えることはありませんか?

実際にいつもと違うのかもしれないし、今の気分がそうさせているのかもしれません。でも、その発見こそが想像もつかないほど大きな何かに繋がる大切な瞬間だと私たちは考えています。歴史上の偉大な発明も、人の常識や文化、そして流行も、最初は身近にある、ささやかな発見から始まったものだったに違いありません。

しかし、それを見逃さなかったからこそ、小さな湧き水だったものが大きな川へ、つながっていったのです。私たちは、まだ誰にも見えていないけれど、ちゃんとそこに存在している新しい価値に気づき、目の前にいる人の喜ぶ笑顔をひとつひとつ増やしていきたい。

ちょっとしたひらめきや、偶然気がついたこと。もし、それがささいなことであっても、人から人へ、今いる場所から世界中へ広がることだってあるのですから。人びとの暮らし、そして人生に、まだ見たことのない新しい喜びを行き渡らせるために。

これからも新しい価値を探し続けていきたい。そう、考えています。」

これは、トリドールのサイトに掲載されたメッセージ。

これまで企業理念は、

Simply For Your Pleasure.(「すべてはお客様のよろこびのために。」)

でしたが、二〇一九年に、

Finding New Value.

が新たに加わり、それと同時にこのメッセージが生まれました。時代がどんどん変化していくなかで、お客様へ新たな価値を創造し、提供していかなければ生き残ってはいけません。生き残ると言うと少し語弊があるかもしれませんね。

限られたパイを奪い合って勝ち残るのではなく、新たな価値を創造して、もっと明るい世の中をつくっていきたいという願いが込められています。

おそらく一〇数年後には、AI(人工知能)の発達によりロボットに大半の仕事を奪われ、逆に人手が余り一つの仕事を二人で分けて働くワークシェアが増えてくると言われています。これは、想像の話ではありません。近い将来かならずやってくる現実です。そうなると一人当たりの収入は激減し、真っ先に削られるのは外食費になるのは目にみえています。

「モノ」を売る時代から「コト」を売る時代に変わったと言われて久しいですが、この言葉こそが飲食業の未来を指し示しているように思えるのです。「食べ物を売り空腹を満たすビジネス」から、「食べるという喜びの体験を売るビジネス」に変化していく。

このチェンジができるかどうかに成長のカギがあります。人手不足、それによる人件費の高騰など、環境が厳しいなかで、利便性から付加価値に重きをおいたものに移行していかなければいけない。大きな課題ですが、それを超えた先には、限りない可能性が広がっているはずです。

旅芸人? 二〇〇〇校への訪問

前半では、「価値」についてお話しました。

宝は、目にはみえず、「価値」のあるものほど地中に埋まっています

それを掘り当てなければ手にすることはできません。0(ゼロ)から有を生み出すのと似ています。ですが、まったくなにもないところから生み出すのは、たいへんなことです。過去の事例もありませんし、先人もいない。冒険者のように道なき道を切り拓いていかなければ進む道もできません。それには、何度も壁にぶち当たり、それを超えていく勇気が必要です。ただ、ひたすらに実直に取り組む。でも、その先には、誰もみたことのない景色、得たことのないようなものを手にする瞬間が待っているかもしれません。

ここでは、そんな冒険のような取り組み事例を紹介します。

二〇一九年四月、二一七名の新卒社員が入社しました。入社式をおこなったのはハワイ。台湾、マカオで開催したこともあり、海外での入社式は、これで四回目です。これだけの人数をハワイに連れて行き、式典、研修をするのはたいへんです。

と、こんな苦労話はおいといて……。

新卒と言えば、大学卒業の学生を対象にした企業が多いと思いますが、トリドールはその内七三名が高校卒業の学生なのです。おそらく、三分の一近くを高校卒業生が占める企業は少ないはず。高卒採用は、二〇一六年から始まり、その裏側には並々ならない苦労がありました。これまで、全四七都道府県に所在している二〇〇〇校近くの学校を訪問し、関係を構築してきました。

アクセスのいいとこばかりではありません。最寄りの駅まで行ってそこから徒歩で訪問したり、場合によっては、レンタカーでの訪問旅や、離島にある学校を探し出して訪問したりと、かなり地道。やっていることはほとんど旅芸人(笑)。丸亀製麺は聞いたことはあってもトリドールなんて企業は知らない、というところからスタートしたので、たいへんです。

高校生採用をはじめたのは、人材の確保と究極のプロパーをつくっていくということが目的。採用されたらまずは店舗に配属され、現場で仕事をしながらさまざまなことを学んでいただく。その後は四年制の大学を卒業した新卒者と同様の待遇で従事していただくというもの。地域によっては、学生の数に対して十分な就職先がないところもあります。

いっぽう、我々は若くていい人材はどんどん採用したい。そういうニーズをマッチさせようという取り組みなのです。ただ一般的に、高校生は地元企業など地域に密着した企業に推薦されることが多く、我々のような全国に店舗を有する企業が各地の高校に対して採用活動するのは稀なことです。大学生の場合は、学生時代にアルバイトをしたり、ある程度の社会経験を積みますので、判断基準も養われます。しかし、高校生の場合は、ほとんどの学生が社会で働いたことがありませんので、どんな仕事が向いているのか、どんな企業に就職すればいいのか、判断するのは難しいのです。

ですので、頼りになるのは、進路指導の先生や親御さんの助言。人生経験豊かな彼らと一緒に就職先を探っていくのが高校生なのです。しかし、学生本人や先生が興味をもってくれても、親御さんが反対するというケースもあります。周りでかかわる人への理解を深めるため、企業見学会には、学生だけでなく親御さんも招待するなどの工夫をしています。

あとは、できるだけ店舗に足を運んでいただこうと働きかけます。実際にお店をみていただければ、「オープンキッチンで従業員が働く姿をみることができ、安心した」というお声をいただくこともあります。企業としての評価は得るのは難しくても、店舗をご利用いただければ消費者目線での判断が加わり、理解を深めることができます。店舗の存在はありがたいですね。

担当者は、トリドールの魅力、将来性などはもちろん、どんな仕事に従事してもらうのか、いいところだけではなく、たいへんな部分もちゃんと話しています。大学の新卒採用や中途採用の場合よりも高校卒業の学生の採用に注力しています。人材は宝。まさに人財です。

それを掘り起こすことはとても大事なのですが、しっかりと説明すること、そして、未来を示すという責任が生じます。可能性を秘めた弱冠一八歳の若者をお預かりするのですから当然です。

この取り組みが始まったとき、「訪問活動はなにがあっても絶対に手を抜いてはいけない。直接会いに行くことで、関係が深まる」と人事部長が言い続けていたとのこと。それだけの意気込みで、はじめたんですね。気合が入っています。

丸亀製麺のお店で実践しているように、手間と暇をかけなければ、信頼関係も築けませんし、長続きしません