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活気をつくるのは、おっちゃん、おばちゃん
ハートに火をつける、という話をしましたが、その火がすぐに消えてしまうようでは困ります。お店には、活気を絶やさない工夫が必要なのです。
では、活気を絶やさないためには、どうすればいいのでしょうか。演劇など舞台は、演者と観客が一緒になってつくると言われますが、演者(お店)とお客様が一体となって、活気を生み出し、それを維持していかなければいけません。1+1=2ではなく、人と人がかかわるなかで、たがいのエネルギーがぶつかり合って創られるもの。
丸亀製麺の現場の様子、そしてどのような仕掛けをしているのかご紹介します。以前、テレビ番組「カンブリア宮殿」に取り上げていただいたとき、パートナースタッフとお客様とのこんなシーンが放送されました。
常連のお客様が体調を崩して、かけうどんしか頼まないことに気づき、心配して「どうしたの?」と一声。後日、そのお客様がほかのメニューを食べられるようになったことにもいち早く気づき、「元気になったの? よかったね」と声をかけているというもの。
こういう声かけは、マニュアル化してもできるものではありません。ほかにも、「野菜かき揚げ 揚げたて取っていってよ!」とできたてをおすすめしたり、常連のお客様とは「いつもの」「はーい! いつものね」という自然なやり取りがなされたり。
丸亀製麺のオープンキッチンで働くのは、つい「おっちゃん」「おばちゃん」と呼びたくなるような中高年の親しみやすいパートナーさん。どの飲食店もパート、アルバイトが多いという点では同じですが、四〇代以上の方がたくさん活躍されていて、しかも圧倒的に女性が多いという点が特徴です。そんな方々にお店は守られ、活気はつくられているのです。
とくにうどんや天ぷらは料理経験の豊富な人がつくったほうが、おいしくできます。そもそも、目じりにしわがあり白髪交じりのいぶし銀の男性がうどんをつくっている姿をみると、それだけでおいしそうだと感じますよね。割烹着の似合う中高年のパートナーさんだからこそ、おいしさやぬくもりを感じるという効果があるのです。
通常、チェーン店は本社の社員が店長になり、現場のスタッフを差配するという構成になっています。丸亀製麺も、社員が現場で一から経験を積んで店長を務めるというケースもありますが、社員店長を置いていないお店も結構あります。
二〇代・三〇代の、いつ異動するかわからない若手社員がお店を守るより、その地域で生活しているパートナーさんに任せたほうがいいだろう、という考えなのです。実際、社員店長がいなくても店はキチンと運営されています。
熟練のパートナーさんは、「来週あの学校の運動会があるからお客さん増えるで」とか、「今日はお祭りあるから、たぶん暇やで」など、地域情報を熟知して、それに合わせて動いてくれます。最近は、AI(人工知能)を使って売上予測を立てるサービスの開発が進んでいます。前年度の売上や、天気や曜日のデータを入力し、そこから今日の売上を予測して商品のロスが出ないようにする。確かに、それは確度の高い予測ができるし、効率的かもしれません。しかし、AIにはぬくもりを感じることはできませんし、人を感動させることはできません。
したがって、これからも丸亀製麺ではAIが出すデータより、おっちゃん・おばちゃんの経験や勘を重視していきます。
私自身も、研修で店に配属されたときに熟練のパートナーさんに調理を指導していただきました。おばさんに天ぷらの揚げ方やおにぎりの握り方を教えてもらい、おじさんには製麺のやり方を教えてもらったのです。「みてみ、この麺。光ってるやろ」と誇らしげに言うおじさんは、まさに職人。「私が握るおむすびだからおいしいの」「俺がつくるうどんやから、特別にうまいんや」といった言葉を聞くたびに、この仕事を愛し誇りをもっているのだな、と感じました。
中高年のパートナーさんは、それまでにさまざまな人生経験をされています。そういう方はビジネスマナーを一から教える必要はなく、自分が求められている役割を瞬時に理解するので、とても頼りになる存在なのです。
効率化を考えるのなら、オートフライヤーや券売機で券を買うシステムを導入するほうが、コスト的にも時間的にも断然メリットがあります。それでも、丸亀製麺では人がレジを打つというスタイルを変えるつもりはありません。目の前のお客様の様子から体調を気遣うようなことはAIにはできないでしょう。
人とのちょっとしたやりとりからあたたかみは生まれるものなのです。なにもかも自動化、機械化されている現代だからこそ、パートナーさんとのなに気ないやりとりがお客様の心に響くのではないでしょうか。
活気を絶やさない さまざまな仕掛け
二〇一九年五月に「SUPER FRIDAY」というイベントを実施しました。これはゴールデンウィーク以降の四回の金曜日にソフトバンクユーザーの方を対象にかけうどん、ぶっかけうどんを無料で提供するというもの。一杯二九〇円の定番商品のうどんが無料とあって、実施日は、通常の平日の二倍に相当するお客様が来店されました。
これも損を覚悟で実施したものではありません。当然、実施日の客単価は下がりますので、利益にまったく影響がないということはありませんが、構造的にしっかり利益を確保できる仕組みなのです。
また、最近は、「ごはんですよ!」でお馴染みの桃屋さんとコラボした「トッピング祭」を開催したり、ガンダム×ハローキティ、漫画ONE PIECEとのコラボイベントなど、これまでには例をみないような施策を頻繁に実施しています。
また、数年前から実施していますのでご存知の方も多いかもしれませんが、毎月一日には、「釜揚げの日」と銘打って看板商品の釜揚げうどんを半額で提供しています。この日を楽しみにして毎月来てくださる方もいらっしゃるくらいで、大好評です。
そのときをめがけて、情報誌「うまいもん便り」を店頭で配布しています。それには、クーポン券もついていますので、再来店の動機になればと、あえてたくさんお客様が来られる「釜揚げの日」に配布しているのです。ほかにも丸亀製麺専用アプリもあり、登録された方には、フェアメニューの案内やクーポン情報など、タイムリーに配信される仕組みもあります。
ここにあげたのは、すべて仕掛けです。なにかに興味を持っていただかないと「よし、行ってみよう!」とは思っていただけません。待っているだけでは、お客様は来てくれませんので、動機づけが必要なのです。
また、実際にお店に来ていただいて、体験いただかないと丸亀製麺のよさは、わかっていただけません。しつこく案内を送るとか、値引き幅を大きくしてそれで誘導をするというのはよくありませんが、なにかしら丸亀製麺に関する情報を配信して、つねに意識にとめておいていただこう、日常のなかに溶け込んでいこう、という戦略なのです。
また、一度来てくださったお客様を引き留め、リピーターになっていただくのは、クーポンなど値引きだけではいけません。最近は、わかめうどん、昆布うどん、鮭とろろぶっかけうどんなど、三五〇円から四三〇円くらいで手軽に楽しめるメニューも充実しています。ラインナップが豊富だと、「今日はこれを食べたけど、次はこれも食べてみないな」と思っていただけます。
これも仕掛けの一つです。人の集まるところに活気は生まれます。活気のある所には、流れができ、人が集まってきます。そんな相乗効果を絶やさないために、あの手この手で、仕掛けをつくっているのです。