すごい会計思考
金川 顕教(かながわ・あきのり)
公認会計士、経営コンサルタント、ビジネスプロデューサー、投資家、事業家、作家。三重県生まれ、立命館大学産業社会学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、世界一の規模を誇る会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツグループである有限責任監査法人トーマツ勤務を経て独立。数多くの成功者から学んだ事実と経験を活かして経営コンサルタントとして独立し、不動産、保険代理店、出版社、広告代理店など様々なビジネスのプロデュースに携わる。『これで金持ちになれなければ、一生貧乏でいるしかない』『すごい勉強法』『すごい副業』『公認会計士で起業家だから教えられる「すごい会計思考」』(すべてポプラ社)など著書多数。

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リスクの少ないネットビジネス

僕が、会社員時代に起業を見すえたうえで、まず始めたのはネットビジネスでした。ネットビジネスは、PCとネットにつながる環境さえあれば、誰でもすぐに始められるビジネスと言えるかもしれません。

この章ではネットビジネスの会計について考えてみたいと思います。

ネットビジネスは、PCさえあれば、自宅でもできるビジネスです。人件費や、家賃、電気、ガス、水道といった固定費といわれる経費がほとんど追加でかかりません。

事業において、利益が出ていても出ていなくても、かかってくる経費がこの固定費といわれる経費です。

この固定費は時に会社の経営を圧迫します。

そして、利益が出ていないのに、固定費ばかりが必要になってしまって倒産する企業は意外と多いものです。

逆に言うと、ネットビジネスは、固定費が抑えられるので、起業をしても倒産する心配が少ないビジネスともいえます。

ビジネスの成功ポイントは変動費化に

固定費とは逆に、変動費といわれる費目もあります。

こちらはその名の通り、変動する経費のことを指します。具体的には、売上などの増減に比例して変化する原価などのことです。

例えば、物販やメーカーなどの場合、物が売れると、もっと売ろうと思い、その売れている商品の量をさらに増やして生産したり、商品そのものを仕入れたりします。

そのときにかかる経費が変動費と言われるものです。

商品を生産するために必要な原料の費用=原価はもちろんのこと、商品を生産するために、従業員が残業をしたら、その残業代もこの変動費に入ります。

また、会計思考の1つの考え方として、損益分岐点という概念を知っておくことは重要です。損益分岐点とは、売上と費用の額がちょうど同じになる金額のことを指します。この損益分岐点の位置を左右するのが、固定費と変動費です。特に変動費の変化に応じて、この損益分岐点が変わっていきます。

そして、この損益分岐点が0だと、売上は0円です。

0円だと、税金がかからないというメリットはありますが、利益が出ないビジネスは、僕は失敗だと思っています。

損益分岐点の0の地点から、いかに利益を上げていくか?

もちろんきちんと節税できるところはしながら、利益が出たらさらに事業投資をして、利益を上げていくことを考えるのが、ビジネスの醍醐味でもあると思っています。

ネットビジネスの場合は、そもそもほとんど固定費がかからないビジネスです。重要なのは、事業拡大により、例えばオフィスを借りるとか、人を雇うことになったときに、いかにその費用を変動費にできるかがポイントです。

例えば、オフィスはシェアをする、外注できるところはアウトソーシングをする、会社は共同経営にする、といったことで工夫をする必要があります。

そうすることでより固定費を抑えることが可能になります。

最初はPL思考で攻めの経営を!

ネットビジネスと言ってもいろいろなジャンルがありますが、個人の能力によってその収益に差が出るのがYouTuber やアフィリエイトです。

アフィリエイトは、時代の流れもあって、今はあまりおすすめできませんが、個人の高い能力や知名度、面白さがあれば、YouTuber として稼ぐのは悪くないと思います。

逆にそういった話す力やパフォーマンス力、知名度がなくてもできるのがネットビジネスの中の物販です。

僕の場合は、最初はアフィリエイトを副業として始め、3カ月で会社を起業し、本業の会社を退職しました。

そこで、どういった方向性で事業をしてきたかというと、最初の5年は、PL重視の思考、つまり利益を最大化する経営を行い、会社が落ち着いてきてからはBS思考で、安定性を重視した経営をしてきました

BS思考とは、資産を増やし、負債を減らすという会社の経営についての考え方です。会社の純資産額を増やす経営の思考といってもいいかもしれません。そして、起業をして7年が経っている現在も、BS思考で経営を行っています。

第2章でもお話ししましたが、簿記を勉強すると、PLとBSがつながっていることが分かります。PLの最終利益が純資産の利益剰余金にいきますので、PLをしっかりと高めていって、利益を上げていけば、最終的な利益=純利益が増え、預金が増えていきます。すると結果的にBSも良くなっていく。

つまりBSを良くするためには、結局利益をしっかりと上げるということが重要になるわけです。

「利益を上げたら投資」がBSの安定に

利益を上げる、売上を伸ばすことが、結局BSの安定につながるので、最初の1年目から5年目くらいは、しっかりとそのための粗利をたくさん出すことが大事になってきます。

粗利をしっかりと出して、その中から、新規事業への投資、人材への投資、さらには広告宣伝などに費用をかけて、売上、つまり年商を上げる、というのが、僕が行った方法です。

単に経費をどんどん使って行う節税ではなく、新規事業や人件費、広告宣伝費に利益を投資することで節税しながら投資する

この節税投資と僕が呼んでいる方法を行って、翌期の売上をどんどん増やしていきました。

最初の5年は年商、つまり利益をひたすら上げるためにPLを重視した経営を行ってきました。やはり儲けがないと、資産ができないので、しっかりと事業を伸ばすというところに投資をしました。

売上も、どこまでを目指すかによりますが、この節税投資をしたからといって、必ず売上が上がるか分からないというリスクはあります。

ただ、投資をするからにはリスクを負うのは当然のこと。このリスクを負うからこそリターンもあるわけなのです。

僕のように最初はPL思考で事業を進めるのであれば、粗利から広告宣伝費や事業拡大の費用にどんどん投資をして、税引き前の最終利益の金額を落として、翌期の成長性を重視するといいでしょう。

PL思考の会社に関しては、僕は融資を受けながら行うことをおすすめします。なぜなら、儲かったお金をどんどん投資していくということは、キャッシュ(=現金預金)が手元になくなることが多いので、危ない状況に陥る危険が高いからです。

例えばキャッシュがないと、ここぞというときに事業投資ができなかったり、広告宣伝費がかけられなかったり、法人・所得税の支払いができなくなる可能性があります。

特に短期目標で一気に売上だったり利益を出したい、年収の金額を上げたい、という目標がある人は、日本政策金融公庫とか、自分の会社のメインバンクに決算書を持っていくなどして融資を受けたり、助成金や補助金に応募してキャッシュを増やしておかないと、手元の資金が足りなくなる可能性が高くなります。

PL思考での経営だとこのようなリスクがありますが、それでも僕が当初、PL思考の道を選んだのは、早く目標を達成した方がいいと判断したからです。

PL思考で経営をするとハイリスクだと言われることもありますが、僕の場合は、幸いなことに、もともと公認会計士の資格を持っていて会計思考が身についていました。それで、固定費を変動費化していたので、ローリスクハイリターンな状況で経営ができていたのです。つまり、会計思考が身についていれば本来ハイリスクハイリターンなものも、ローリスクハイリターンにすることが可能なのです。

もう1点、リスクが低かった点を挙げるとすれば、それはそもそものネットビジネスが持つ特性です。

なぜならそもそもネットビジネスは、経費の面から見ると、固定費がほぼかかっていなかったからです。人件費も、業務委託や完全歩合制にしていましたし、事務所の家賃も安く、損益分岐点の売上高が低い状態でした。それもあって、攻めの経営をしても倒産までする危険性はないとは思っていました。

起業当時から、僕は、役員報酬を自分個人に払って個人資産を増やしてきましたし、新規事業を始める際には、僕個人が会社に貸し付ける、という方法も取ってきました。

結論としては、事業を拡大するにはこのPL思考でいくのが早道だと思います。

逆にBS思考と言われる、安全性、つぶれない会社を作ることが目的なのであれば、あまり投資はせず、会社に利益を残して安定性を求めながら会社を成長させていくべきです。