すごい会計思考
金川 顕教(かながわ・あきのり)
公認会計士、経営コンサルタント、ビジネスプロデューサー、投資家、事業家、作家。三重県生まれ、立命館大学産業社会学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、世界一の規模を誇る会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツグループである有限責任監査法人トーマツ勤務を経て独立。数多くの成功者から学んだ事実と経験を活かして経営コンサルタントとして独立し、不動産、保険代理店、出版社、広告代理店など様々なビジネスのプロデュースに携わる。『これで金持ちになれなければ、一生貧乏でいるしかない』『すごい勉強法』『すごい副業』『公認会計士で起業家だから教えられる「すごい会計思考」』(すべてポプラ社)など著書多数。

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全損の保険は本当に節税になる?

国家が国を動かしていくために必要な費用を、国民が負担しましょうという考え方の下で、国民が支払うものが税金です。

税金は払わなければならないもの、国民の3大義務のうちの1つ、ということは頭では分かっていても、せっかく自分や自分の会社が稼いだお金から、直接税金を払わなければならないとなると、それは「身を切るような思い」だというのは、僕もよく理解できます。

いくら国のためだとは分かっていても、払う税金はちょっとでも少ない方がいいと誰もが考えるわけです。

そこで、さまざまな節税方法が世の中には存在していますが、その中でも、よく話題になる方法の1つが、生命保険を使った方法です。

これは、払った保険料が全額損金扱い(=経費として計上できる)になる保険に加入することで、売上金額を減額するという節税方法です。

ただ、国の制度の改正によって、全額損金扱いの保険は、2019年の春からほぼ販売停止になりました。とはいえ、それでもまだ保険料を損金として扱える保険は存在しています。

こういった全額損金扱いの保険に、例えば毎年100万円ずつ払ったとすると、100万円をまるまる経費に計上することができます。

そうすると利益の100万円分が減るので、法人税等が仮に40%だとしたら(実際は約33%ですが)、40万円節税できるということになります。

そして、この保険を6年目の頭で解約したとしましょう。そうすると5年間で払い込んだ500万円のうちの80%くらいが返ってきます。つまり、400万円の解約返戻金、つまり収入が発生します。この返ってきた400万円には課税されますので、結局ここには、税金を払わなくてはなりません。税率が40%なら160万円です。

全体で見たら、500万円を払って、200万円分節税できています。戻ってくるのは400万円ですが、200万円は節税ができているから、そこから戻ってこない100万円を引いても、100万円は節税できています、という話です。

ただ、戻ってきた400万円には、そのままだと160万円の税金がかかってしまいます。

これをどう考えるのか。この400万円をまるまる利益として計上するのか、それとも何か事業拡大のために投資するのか、それによってこの160万円の税金を払うことになるのかならないのかが決まってきます。

まずは、そもそも返戻率が80%という時点で損をしており、5年後の時点では本来払わねばならなかった税金をそのままだと払わねばなりません。僕から見たら、これは、税金の支払いを先送りしているだけ。会計的に言えば税の繰り延べです。

この方法は、確かに払う税金の額は少なくなりますが、高い保険料を支払う時点で、経営に必要なキャッシュが減ってしまうということになります。

経営をどうしていきたいかにもよりますが、事業を拡大した場合には、ある程度のキャッシュがあることも必要です。

また、保険料を払うことで手元のキャッシュがなくなってしまったことで、税金が払えなくなる場合もあります。

本来、僕が事業でしたいことは何かといえば、法人税を減らしながらも売上を上げて、キャッシュをより増やすということです。その時点では経費が増えて節税になったとしても、長い目で見て自分の事業の発展にならない節税方法はどうかとも思います。

中古車の購入は節税になるか

会社の経費で車を購入する、というのもおなじみの節税方法です。

車を買えば、それはその年に払わなければならない税金の金額が下がります。車の購入費用が減価償却費に入るからです。

車は、減価償却といって、購入した費用を、数年間に分けて費用として計上できる会計上の仕組みの対象になっている品物です。ちなみに飲食店の設備費用などもこの減価償却の対象です。

例えば、1200万円の高級車を新車で購入したとします。

第2章でもご説明したように減価償却の考え方には定率法と定額法がありますが、ここでは定額法で考えてみます。

定額法だと、車の減価償却は6年です。車が1200万円だったとすると、毎年200万円を経費に計上できます。つまり1年間で200万円の利益があった場合の法人税等(=実際は約33%ですが、仮に40%とします)80万円を節税できると考えます。

では、次に4年落ちの高級車を1200万円で買ったとします。この場合、減価償却できるのはあと2年です。そうすると1200万円÷2年、つまり1年あたり600万円を経費に計上することができます。1年あたり600万円にかかる法人税=240万円を節税できるということになります。

つまり単年度ごとでは、どちらが節税をできているかというと、後者になります。

では、どちらの車も、購入して3年目に1000万円で売れたとしたらどうなるでしょうか。

前者の新車の場合は、3年目はまだ減価償却期間中です。あと4年残っていますから、1年あたり200万円×4年で、800万円を経費に計上できる価値が残っていると考えます。つまり会計上の資産は800万円あるというわけです。

それが1000万円で売れたというわけですから、会計上の資産としては800万円あるものが1000万円で売れたということになるので利益(=営業外収益)は200万円となります。そこに法人税が80万円かかってきます。

税金の面からみると、最初の2年間で節税できた分が160万円。3年目に売れたときにかかってくる法人税が80万円。

つまり160万円-80万円=80万円は節税できているわけです。

後者の場合、3年目ということは、減価償却された車を売るということです。その場合、この車の価値が、いくらになるかというと会計上の資産額は0円です。

そして購入してから現時点までの2年間で節税できたのは240万円×2年分の480万円です。

ところが1000万円で売れた利益(=営業外収益)に法人税400万円がかかってくるため、購入してから2年間の間に節税できた480万円-400万円=80万円の節税となります。

それぞれの単年度で見たら、圧倒的に中古車の方が節税の効率はいいと言えます。

ただ、出口の部分、つまり売ったときにどうなっているのかということを考えるのも重要です。

同じ車なら4年落ちの方が安くは買える話ですが、結局は帳簿価格がゼロになって、節税のための車の購入だとすると、また買わなくてはなりません。

つまり、この中古車購入による節税作戦も、結局は先の保険の話と同様に、税金の支払いを繰り延べしているだけということになります。

一番いいのは、車を買うことが売上に貢献して、手元のキャッシュが増えることです。

起業した人がやるべきことは、国に払う税金を抑えることではなくて、国に払う税金を抑えつつも、事業投資をしていくこと

例えば、もし車を買うなら、その車を営業車にして、営業を強化する。車があれば遠方にも営業に行くことができるようになります。それによって翌年度の売上が上がって、利益が上がるのだったら、車を購入することで節税もでき、さらに売上も上がって、キャッシュも増えるから、理想的という話です。

気をつけたいのは、いくら保険や車で節税をしても、翌期の売上が上がっていなければ、税額が下がっても、手元のキャッシュが減っているということなのです。