はじめに

日経平均株価は2万円~2万2,000円での一進一退が続いたが、10月上旬からの値上がりで約1年ぶりに2万3,000円を回復した。米中貿易摩擦が「部分合意」に至るとの期待に加えて、世界的な景気底入れという楽観的な見方も広まったことが主な背景だ。

しかし、今回の株価上昇は「期待先行」で買われただけで、上昇は続かないとみている。そもそも米中関係は産業補助金や知的財産など重要事項を棚上げした「部分合意」に過ぎない。しかも署名の日程や場所が未だ決まらず、先行き不透明感は根強い。

銘柄選びのヒント
(画像=ニッセイ基礎研究所)

仮に市場の期待どおり世界景気が回復に向かったとしても、回復力は限定的で賞味期限も短いだろう。というのも、来年11月の米大統領選挙までは米中関係が落ち着いた状態を維持するかもしれないが、大統領選が終われば(誰が当選しても)米国と中国のバトル再開となる可能性が高いからだ。

このような状況では、(5G関連など貿易摩擦とは別次元で成長が期待される分野は別として)国内外の企業が設備投資や雇用を積極的に増やすなど前向きの状況にはなりにくい。消費者マインドも大きく改善するとは考えにくく、景気や企業業績のV字回復などはなかなか望めないのではないだろうか。期待先行で世界中の株が買い上げられたが、市場が現実を意識して来春までに日経平均が2万2,000円程度まで下落する可能性は十分にあると見ている。

日本企業は慎重姿勢を堅持

主要な3月期決算企業の中間決算を集計すると、2019年4~9月の経常利益は前年同期比11.4%減、純利益(親会社に帰属する当期純利益)は同9.9%減で、市場の想定どおり厳しい内容となった。一方、2020年3月期の通期見通しは、経常利益が前年同期比8.3%減、純利益が同8.5%減で、上期実績からは若干改善するものの、大幅減益は避けられない情勢だ。

銘柄選びのヒント
(画像=ニッセイ基礎研究所)

業種別の純利益予想(2020年3月期)は、貿易摩擦の影響を受けやすい鉄鋼・非鉄、機械、電機・精密など輸出関連が軒並み2桁減益予想と厳しい内容となっている。一方、食品、運輸・物流、小売といった内需関連は、消費増税の影響を少なからず受けるものの業績見通しは好調を維持している。

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ところで、日本企業は年度初めの時点では通期の業績見通しを保守的に発表しておき、中間決算のときに上方修正するのが恒例行事だ。しかし今年度は様子が異なる。

中間決算時点における通期の経常利益予想の変化を過去10年平均(例年)と比較すると、上方修正した企業が少ないのが特徴だ。例年は36%あった上方修正が今年度は僅か13%と極端に少なく、その分、見通しを据え置いた企業が例年の約1.4倍にあたる53%で過半を占めている。また、下方修正が例年より多いのも貿易摩擦の影響だろう。

市場で先行して広がった米中対立の緩和期待や景気底入れ期待が本物かどうかはいずれ明らかになるが、少なくとも現時点では企業は慎重姿勢を崩していない。肝心なのは2021年3月期(来期)だろう。市場では2020年3月期の業績が冴えないことは織り込み済みだ。最近の株価上昇は来年度以降の業績改善を先取りしたものと考えられるだけに、もし来期の業績改善幅が市場の期待に届かず限定的となれば、株価は一時的に調整を余儀なくされるだろう。

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銘柄選びの拠り所、利益の「進捗率」

企業業績の見通しが厳しいなか株式投資においては銘柄選びが重要になる。そのヒントを探るため、中間決算における「利益の進捗率」に注目した。

利益の進捗率とは「1年間の予想利益に対して上半期の実績が何%に相当するか」を表すので、50%が目安になる。ここでは業績が好調な銘柄を選ぶことが目的なので少しハードルを上げて「上半期の経常利益進捗率が60%以上」であることを第一条件とした。

そのうえで、近年は業績に勢い(業績モメンタム)がある銘柄が買われやすいこと、さらに企業によってはビジネスに季節性があることを考慮するため、「進捗率の前年同期比」で細分化した。

2016~2018年度の3年平均では、「今期の進捗率が60%以上、かつ進捗率が前年より10%以上改善した企業」は翌年1月末までの株式リターン(配当込み投資収益率)が東証株価指数(配当込みTOPIX)を平均で2.3%上回った。

逆に、「経常利益進捗率が60%以上であっても、進捗率が前年より10%以上悪化した企業」の株式リターンはTOPIXを平均で2.7%下回った。また、経常利益進捗率が60%以上でも、進捗率が前年並み(±10%以内)の企業は、年明け以降のリターンがTOPIXを下回る結果となった。

新年に入ると市場が来期業績を意識し始めることも多い。今期利益の進捗率が高くかつ前年からの改善度も高い企業は、来期への期待も高まると考えられる。逆に、今期の進捗率が60%を超えていても前年より低下した企業は、業績のピークアウトが意識されやすいのかもしれない。

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「進捗率が高く前年度比改善幅の大きい企業」

2020年3月期の中間決算から「経常利益進捗率60%以上、かつ前年同期比10%以上改善した企業」を機械的に抽出した18社を図表6に示した。やはり内需関連の企業が目立つ。米中貿易摩擦や景気減速懸念を反映しているのだろう。

実際に投資する際には、これらの企業が業績モメンタムを維持できそうか、また業界や個別企業の事情も確認したうえでの判断が必要であるため、単純にこれら銘柄に投資すればTOPIXを上回るリターンが得られるとは限らない。今後、株価動向に注目し、実際のリターンがどうなるかを検証してみたい。

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井出真吾(いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

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