崔真淑
崔真淑
エコノミスト(一橋大学大学院博士後期課程在籍・株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役) 2008年に神戸大を卒業し、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)に入社。当時最年少の女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。12年に独立、経済学を軸に、経済ニュース解説、マクロ経済・資本市場分析を得意とするエコノミスト・コンサルタントとして活動。若年層の経済・金融リテラシー向上のため、東京証券取引所のPRコンサルティングなども手がける。13年からは日経CNBCで女性として史上最年少で就任。16年一橋大学大学院(MBA in Finance)修了。17年4月からは一橋大学大学院イノベーション研究センターに所属し、組織のインセンティブ設計と資本市場の関連性についての研究を行う。 2018年からは同大学院の博士後期課程に在籍。

11月18日、Yahoo!JAPANなどを運営する情報・通信事業のヤフーなどを傘下に持つZホールディングスと、インターネット関連事業を手掛けるLINEは、2020年10月に経営統合することで基本合意したと発表しました。

公正取引委員会の判断を待つことになりますが、実現すれば、国内最大のネット企業が誕生することになります。

11月18日に発表された「経営統合に関する基本合意書の締結について」によると、Zホールディングスと傘下のヤフー株式会社の顧客基盤は、平均月間利用者数6743万人、アプリ合算MAU(Monthly Active Users)1億4000万人。LINEの顧客基盤は、国内月間アクティブユーザー数8200万人、海外月間アクティブユーザー数1億400万人です。

これによってまず期待できるのは、8200万人のLINEユーザーと、Zホールディングス傘下のサービスであるヤフーショッピング、PayPayモール、PayPayフリマ、ヤフオク!、ZOZOTOWN、ヤフートラベル、一休.comなどが連携することでの集客効果や、LINE公式アカウントを使っての、ほかのサービスのユーザー増などです。

両社は、サービスをシームレスに連携させ、相互送客によるユーザー基盤の最大化を図ると述べています。また近年、両社ともペイメントや金融事業に積極的に進出しています。共同のシステム開発やフィンテック事業の強化、AI基盤開発のさらなる強化、加速も見込んでいます。

新会社が行うM&Aがカギ?

StreetVJ/shutterstock.com, ZUU online
(画像=StreetVJ/shutterstock.com, ZUU online)

両社は「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーとなることを目指す」としています。Google、Apple、Facebook、Amazonのいわゆる「GAFA(ガーファ)に勝てるのか、という視点での報道も多いようです。

GAFAのみならず、中国のBaidu、Alibaba、Tencentの「BAT(バット)」、日本の楽天も、目指しているのは「経済圏」です。それも、プラットフォーム、Eコマース、キャッシュレスなど、「なんでもできる経済圏」であるほうが望ましいと言えます。

例えば、企業がネット広告を出したいとき、ユーザーの属性がよりはっきりしているプラットフォームのほうが魅力的で、ユーザーの年齢、性別、嗜好、さらには金融データまでが紐づけばデータとして完璧です。ですから各社は金融やペイメントに進出し、ユーザーをできるだけ多く獲得したい、ということになります。

それぞれの「経済圏」は、統合しながら大きくなっていくしかありません。私たちがGAFAのサービスを使うのが当たり前になっていることからも分かるように、もはや国を超えた「仮想的な経済圏」での戦いとなっているのです。

19年11月21日現在のZホールディングスの時価総額は約1兆8300億円、LINEが約1兆2400億円。合計して3兆円を超えますが、米国株ランキングによれば、時価総額1位のApple、2位のMicrosoftはともに100兆円を超え、3位のAmazonが100兆円の手前、4位のAlibaba、5位のFacebookが50兆円前後。このように、規模でかなりの差があありますが、打つ手はあります。

それは、Zホールディングスの親会社のソフトバンクが行ってきているように、株式交換によってM&A(合併・買収)を行い、規模を拡大していく方法です。「経済圏」は統合しながら大きくなっていくしかないことを考えても、新会社の今後の戦略の中に、M&Aは欠かせないはずです。

ただそれが迅速に行えるかについては、私には少し疑問もあります。それが、今回の「対等な経営統合」です。

「50:50」で意思決定が遅くなる?