(本記事は、本田直之・松尾大の著書『人生を変えるサウナ術』KADOKAWAの中から一部を抜粋・編集しています)

フィジカル的効用① 運動後の爽快感、リフレッシュ効果

(画像=PIXTA)

サウナの効果で最も代表的なのは、運動後に得られるのと同じ爽快感、リフレッシュ効果だ。

2019年に医学雑誌に掲載されたドイツの研究によると、25分間のサウナ浴と30分間の休憩によって心臓にかかる負荷は、中程度の強度のエアロバイクを漕いだ人々にかかる負荷に相当し、サウナには軽いトレーニングと同程度の心臓や血管を鍛える効果があるという。「運動したいけどなかなかまとまった時間が取れなくて......」「運動があまり好きではない」という読者の方には、かなり期待と可能性を感じて頂けるニュースではないだろうか。

さて、まずは「サウナ→水風呂→外気浴」というサイクルの中で身体にどのような変化が起きているかについて、簡単にご説明しよう。

サウナ室に入ると、身体は熱い空気に包まれてじわじわと汗が出てくる(汗が出るまでの時間には個人差があるが、サウナに入って汗をかくのに慣れれば慣れるほど発汗までの時間は短くなり、サウナ室内に足を踏み入れるとほとんど同時に、クリスタルのようなきめ細かい汗が全身の毛穴から噴き出してくる)。体内の老廃物が汗とともに排出され、身体の物質交換が進んで疲労回復に繋がる。

そうしてしばらくサウナにいると、だんだん熱くなってきて、40°C近くまで上昇した体温を冷まそうと皮膚の表面の血流量が増加し、脈拍も平常時の2倍ほどの速さになる。

「サウナ=気持ちいい」というわけではなく、むしろ不快感が増して交感神経が活発になる。80〜90°Cもあるサウナ室に何時間も居たら死んでしまうので、身体が危険信号を出すために交感神経が活発になるのは生物としては当たり前のことだ。

そうして「熱くなってきたな......」となってきたところで、サウナ室を出て水風呂に入る。温められていた身体が冷たい水で急速に冷やされ「気持ちいい〜!」となるところなので、サウナーの中にも特に水風呂をメインの楽しみにしている人は多い。

しかしながら水風呂でも、リラックスしているときに優位になる副交感神経ではなく、交感神経が優位になる。16°Cなどの水風呂(場所によっては一桁台の温度の水風呂もある)にずっと浸かっていたら、体温はどんどん下がり、またもや生命の危機に晒されることになるからだ。

水風呂も十分に浸かったところで、浴槽を出て、外気浴スペースで休憩を行う。

このとき、サウナ→水風呂で大きく交感神経優位になっていたところから、反発して逆に副交感神経が優位となり、身体全体が一気にリラックスモードに入る。水風呂によってぎゅっと収縮していた血管が解放され、体表温度も脈拍も平常時近くに戻る。

この交感神経優位から副交感神経優位に自律神経がスイッチする際の感覚、極端に暑かったり寒かったりした環境から、平常の環境に戻ってくると「ホッとする」、この、自分の基準である体温や脈拍へと一旦リセットされ、リブート(再起動)されるときの、いうなれば野性的な感覚が、サウナにおける爽快感であり「ととのう」という感覚の正体だ

この一連の流れを終えると、血流の変化によって身体の凝りがほぐれ、全身のだるさや疲れが取れる。頭はシャキッとすっきりする。「これから仕事を始めよう!」というタイミングや「まだやらなきゃいけないことはあるけれど、そろそろ疲れが溜まってきたな......」というときにはぴったりのリフレッシュ方法だ。

前述の通り、この爽快感というのは、マラソンを走ってゴールしたときの達成感や、筋トレで極限まで筋肉に負荷をかけた後のじんわりとした感覚と似ていて、運動によってその代わりに得ることは可能だ。

ただし、サウナが他の運動と異なるのは、30分~1時間というごく短時間の間に運動と同様の効果を得られる点と、ただサウナや水風呂に入って休憩するだけで良く、特別な身体能力や技能、努力を必要としないことである。

筋トレや運動はあまり好きでも得意でもない、やろうと思ってもなかなか時間が取れない、長続きしない、という人にも今すぐ取り入れて頂けるという点で、サウナは万人に効果のあるリフレッシュ方法と言えるだろう。

もしかしたら「単にリフレッシュ効果を得るためならば、お風呂やシャワーでも同じなのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれない。

お風呂の場合には、お湯によって水圧がかかり、対流によって効率よく体を温めることができる。しかし、水圧がかかる分汗はかきにくく、自律神経による体温調節がしづらいため、交感神経を最大限まで使うことができない。

すなわちお風呂とサウナでは全く役割が違うのだ。お風呂では水圧によるマッサージ効果とお湯による温浴効果で効率よくリラックスできる。一方サウナには、自律神経を最大限に使い、疲弊した神経をリセットさせる効果があるのだ。

また、シャワーの場合も、身体の表面の汗や汚れを流してすっきりすることはできても、じっくり汗を流すというところまでは至らないだろう。

こうしてみるとサウナは、汗をかく機会の少ない現代人がしっかり汗をかいて身体の調節機能を保つための、運動以外の唯一の方法であるかもしれない。

フィジカル的効用② 良質な睡眠が得られる

(画像=violetblue/Shutterstock.com)

今、日本は眠れない国だ。

テレビやネット、雑誌では頻繁に眠りについて特集されているし、「よく眠れる」ことを打ち出した寝具も数多く販売されている。1日遊べばすぐに眠れた子供の頃のようにはいかず、睡眠障害に悩む大人が増えているのだ。背景には、ストレスや運動不足のほかに、PCやスマートフォンといった、私たちが当たり前に長時間使用しているデバイスのブルーライトという、現代ならではの要因もあるだろう。

「眠りたいのに眠れない」ということはそれ自体がストレスであるし、翌日の仕事のパフォーマンスにも大きな影響を与える。睡眠不足状態での仕事効率は飲食時のそれと同じ、という説もあるくらいだ。

こうした睡眠に関する悩みを抱えたビジネスパーソンにも、ぜひサウナをおすすめしたい。サウナに入った日の夜というのは本当によく眠れるし、「サウナに入れば睡眠薬は必要ない」とフィンランドでも言われるほど、睡眠効果が高いからだ

帯広の北斗病院と慶應義塾大学に勤務し、がんの遺伝子検査を専門とする〝サウナドクター〞こと加藤容崇医師(松尾がサウナが身体に与える影響を医学的に研究するために設立した日本サウナ学会の代表理事でもある)は、この「サウナが睡眠に与える影響」を検証すべく、サウナに入った日と入らなかった日の自身の睡眠状態を計測した。

すると、サウナに入らなかった日の夜は、脳や身体の疲労を回復させる深い睡眠の割合が全体の14%程度だったのに対し、サウナに入った日の夜は約28%と、全体に占める深い睡眠の割合が2倍近くになっていた。すなわち、サウナに入った日の方が睡眠の質が改善し、ぐっすり眠れていたのである。

実際サウナに入った後というのはあまりによく眠れてしまうので、帰りの電車を乗り過ごしてしまうこともしばしばだ。しかも深い眠りなので、なかなか起きない。

(画像提供=北斗病院)

「できるだけ長く眠り、しっかり疲れを取りたい」と考えている人は多いが、忙しいビジネスパーソンにとって、十分な睡眠時間を確保するのはなかなか難しい。

理想的な睡眠時間が約8時間程度であるのに対し、働きざかりの40代日本人の半数前後は毎日6時間未満しか眠れていないという。また「睡眠時間は取れているけれども体質的に睡眠が浅く、なんだか疲れが取れた感じがしない」という人もいるだろう。

であれば、サウナの力を借りて、睡眠の長さよりも質を高められないか、試してみるのはいかがだろうか。

ちなみに、深い睡眠効果を得たいときには「サウナ→水風呂→外気浴」のサイクルを3セットくらい繰り返し、身体を副交感神経優位のリラックスモードに導いてあげるのがポイントだ。逆に、リフレッシュして作業をしたいときに長時間サウナに入ってしまうと、身体が疲れて眠くなってしまうので注意が必要。得たい効果に合わせて、効果的なサウナの入り方も微妙に異なってくるのである。

フィジカル的効用③ ご飯が驚くほど美味しくなる

ちなみに、サウナに入る前にたらふく食事をすることはおすすめできない。

胃や腸などの消化器に消化のための血液が集中してしまい、身体への負担が大きくなるからだ。

サウナが運動に近いということは先ほど述べた通りだが、ご飯をたくさん食べた後に激しい運動をすると、気持ち悪くなったり、わき腹が痛くなるのと同じ、と考えて頂ければイメージしやすいだろう。ご飯を食べた後にサウナに入ると、サウナが不味くなってしまうのだ。

従って、食事はサウナの後の方がおすすめなのだが、理由は身体への負担のほかにもある。

サウナの後は、ご飯が美味しく感じられるのだ。それも、体感的には通常の2倍ほどである。

その具体的なメカニズムについては、現在「ととのう」という現象を研究する中で解明されつつある、というところだが、基本的には味覚が敏感になりいつもより味がはっきりと感じられるため、普段は「なんだか物足りないな」と感じていた薄味の料理にも奥ゆかしい旨みが感じられるようになる。

このことをよく理解しているサウナ施設は「サウナ飯」の名の下に旨い飯を用意しており、それがまたそのサウナの名物となっていたりもする。

だから僕らは、特に重要な会食や星付きレストランでのとっておきの食事には、必ずサウナに入ってから行くようにしている。その方が食事をさらに美味しく楽しむことができるし、一度この感覚を知ってしまうと、「サウナに入らないで食事に行くことは、一緒に会食してくれる相手やシェフに失礼だ」とすら感じるようになってしまったからだ。

ちなみに「サウナに入ると本当になんでもかんでも美味しくなるのか」というとそれは少し違い、サウナ後に食べたくなるもの、美味しいと感じるものには、なんとなくの傾向がある。発汗によって体内から塩分が出てしまっているため、身体が欲しているしょっぱいものや塩分は特に美味しく感じるのだろう。かつては何のためにあるのか判らなかったレモンサワーやソルティードッグのグラスの縁についている塩などが「最高に旨い」と感じるようになった。また、逆に甘みは少し感じにくくなるらしく、たしかにこってりとしたチョコレートやケーキはサウナ後に食べたいとは思わない。

「究極のサウナ飯」の探求も、サウナーにとって大きな楽しみのひとつなのだ。

また、サウナに入った後は細胞が脱水状態となり食べ物や栄養素の吸収率が上がるため、身体に良いものを食べることも健康にとっては有効だ。サウナ後にビタミンやミネラル、たんぱく質の豊富な食事を摂ることで、身体の内側からキレイで健康になることができる。女性客の多いサウナやスパ施設では、こうした栄養バランスを意識した食事メニューが用意されていることも多い。

もちろんサウナから出た後に、至福のビールやレモンサワーで一杯やるのか、ビタミンたっぷりの食事でゆっくり身体をいたわってあげるのかどうかは、完全に個人の自由である。

本田 直之(ほんだ・なおゆき)
レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役。日米ベンチャー企業への投資育成事業を行う。食やサウナのイベントプロデュースも手がけている。フィンランド政府観光局認定サウナアンバサダー
松尾 大(まつお・だい)
サウナー専門ブランド・TTNE株式会社代表。フィットネスクラブや福祉施設等、複数の会社を経営する傍ら、世界各地のサウナを渡り歩き、現在、サウナに関する執筆、TV、ラジオ、CM、イベント、デザイン性豊かなサウナ室のプロデュース等に関わり、サウナの素晴らしさを伝える為の活動をしている。フィンランド政府観光局認定サウナアンバサダー

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