(本記事は、本田直之・松尾大の著書『人生を変えるサウナ術』KADOKAWAの中から一部を抜粋・編集しています)

なぜ、サウナでアイデアが生まれるのか?

アイデア
(画像=fotogestoeber/Shutterstock)

起業家やクリエイターという切り口でサウナを語る際には「アイデア」というのがひとつのキーワードになるだろう。

もちろん普通のビジネスパーソンも自分でアイデアを出したり、決めなければいけないことは少なからずある。しかしながら、そもそも起業に際しては、人とは違うとびきりユニークなアイデアがなければ成功することは難しいし、経営のフェーズでも、熾烈な競争の中を生き残っていくために常に新しいことを考え続けなければならない。だから彼らは、普通の人よりシビアな「アイデア」の世界を生きていると言っても、差し支えはないだろう。

そうするとまず考えられる仮説は「サウナがアイデアを生み出す場として機能している」ということだ。もちろんひとりで考え事や瞑想をするのに良い空間である、ということは前章でも書いた通りだが、そこからどうやってアイデアやインスピレーションというものにつながっていくのだろうか。

NEW STANDARD株式会社(2019年8月にTABI LABOから社名変更)の代表取締役社長・久志尚太郎氏に話を聞いた。

久志社長は中学卒業後に単身渡米、16歳でアメリカの高校を卒業&起業、外資系IT企業を経て世界各国の放浪といった異色の経歴を持ち、2014年に再び起業。

ローンチしたウェブメディア・TABI LABOは一大メディアへと成長し、ミレニアル世代に向けたアイデア・ライフスタイルを発信している。今、日本を代表する若手起業家のひとりだ。

また、サウナブームにはいち早く目をつけてフィンランド政府機関のVisit Finlandに観光資源としてのサウナ活用を提言。社内には熱波師の資格を取るほどサウナに熱狂している社員もいるほどだ。マインドフルネスやウェルネスなどの時代の流れもあり、サウナを活用した数々の企業プロモーションも手がけている。

海外で制作が進んでいるサウナのドキュメンタリー番組「PERFECT SWEAT」には、日本古来のサウナ文化を発見するナビゲーターとしても出演する、日本サウナ界の中心人物でもある。

久志社長はサウナでアイデアが生まれるメカニズムについて、次の通り解説する。

「サウナに入る前には頭の中にいろんな思考が渦巻いている。『やばい、明日までにやらなきゃいけないんだった』『疲れたなぁ』『今日の上司マジでムカついたなぁ』『あれ、どうやって処理しよう』。
サウナに入ってこれらの思考に何が起きるのかというと、重要度が低いものと緊急性が高いものがスッと消える。熱くて複雑な思考ができないなかで、重要度が低いものは『くだらないからいいや』となるし、緊急度が高いものは『これはどのみちすぐやらなきゃいけないんだから、サウナから出たらサクッと終わらせよう』となるからだ。
そして、日頃後回しにされがちな『重要度が高く緊急性が低いもの』、つまり『本当に考えなきゃいけないもの』だけが残り、じっくりと考えやすくなる。
頭の中が一旦ゼロにリセットされ、忙しい日常の中で隅に追いやられていた潜在的な思考が『アイデア』や『インスピレーション』として顔を出す」

サウナはひとりで考え事をするのに良い空間ではあるが、久志社長が指摘する通り、確かに熱過ぎてそんなに複雑な思考はできない。同時に考えられるのはせいぜい1〜2個の本当に重要なものだけだ。

そうやって強制的に雑念が取り払われた純度の高い思考が、結果的に「アイデア」として結晶化する。

従って、普段はあまり深く考えていない人が「サウナの神よ、アイデアをください!」とお参りに行くようにサウナに行っても、求めるものは得られないかもしれない。

あくまで複雑な思考の補助として、サウナという空間を利用するのが良いだろう。

サウナで考え、水風呂で決断する

目標を掲げる
(画像=ImageFlow/Shutterstock.com)

「決断」もまた、経営者にとって重要なキーワードである。自分のみならず、社員や会社の命運を握るような決断、経営の現場は常にその連続だ。

もちろん誰かに相談することはできるが、最終的に何らかの判断をくだし責任と覚悟を持てるのは経営者本人だけである。言うまでもなくそこには大きなプレッシャーがかかり、迷いが生じることもしばしばで、決断力こそ経営者の最も重要な資質と言っても過言ではないだろう。

さて、サウナ好きの経営者の間には「サウナで考え、水風呂で決断する」という言葉がある。ニコーリフレ会会長・中市忠弘氏による言葉だ。

重要な経営課題についてサウナでじっくり考え抜いた後、おもむろに水風呂に入る。全身へのキーンという冷たい刺激とともに、思考と視界が一気にクリアになる。

すると、目に見えない課題の展望も開け「行けるかも!」というやる気と確信とともに「水風呂で決断する」のだ。

結局のところ、いくらあれこれ考えてみたところで、その決断が本当に正しかったかどうかはやってみた後でないとわからない。必要なのは迷いを断ち切り勇気を奮い起こすための空間である。

ただし、水風呂に入ってみたら「やっぱりこのアイデアはちょっと違うかも......」と思うことも当然あるだろう。そういうときのためにもうひとつの言葉がある。

「サウナで考え、水風呂で忘れる」

やるならやる、やめておくならやめておく。そうした「決断」に最適な空間が、水風呂ということなのだ。

忙しい経営者の最強の家

サウナ施設
(画像=tsuneomp/Shutterstock)

事業のフェーズや景気によって波はあるものの、特に起業したての時期の経営者というのはものすごく忙しい。先述の久志社長もこのように語る。

「サウナに入っていなかったら、こんなに仕事はできていなかった。ずっと休みなく仕事をしている中で、サウナに入っている時間だけが自分を唯一強制的に休ませてあげられる時間であり、サウナに入っていなかったらかなり精神的にまいっていたと思う。サウナには相当救われた」

もちろん、なるべくバランスの取れた働き方の中で、リラックスのためにサウナに入るのは理想的だ。しかしながら、仕事の山場で忙しさとストレスが最大限に高まったときにも、サウナは心強い味方として僕らを支えてくれる。

ヤフー株式会社のCEO・川邊健太郎氏も21歳で起業して最も忙しかった時期にサウナに出会い、いまや館山のご自宅にプライベートサウナをつくるほどの、筋金入りのサウナーとなった。

「ある日ものすごく働いて疲れたという日があって、夜中の2時くらいに勇気を出してサウナに行ってみたんです。すると、面白いくらいに気分がリラックスして、翌日の仕事もはかどったんですよ。それまでも休みの日などに1日釣りなどをして気分を変えていたことはあったんですけど、これだけ短時間の間に気分転換のできるものはサウナ以外にはないように思います」

そして、なんと川邊社長は、サウナに住んでいた時期もあったという。

朝、サウナに入って出勤し、夜はまた同じところに帰ってきてサウナに入り、その辺の二段ベッドや休憩スペースで寝る。たまにはマッサージを受けることもある。

日本を代表するIT企業の経営者が二段ベッドで雑魚寝というと、なんだか意外に思われるかもしれないが、ハードスケジュールをこなす経営者にとってサウナは最高に合理的な家でもあるのだ。

人生を変えるサウナ術
本田 直之(ほんだ・なおゆき)
レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役。日米ベンチャー企業への投資育成事業を行う。食やサウナのイベントプロデュースも手がけている。フィンランド政府観光局認定サウナアンバサダー
松尾 大(まつお・だい)
サウナー専門ブランド・TTNE株式会社代表。フィットネスクラブや福祉施設等、複数の会社を経営する傍ら、世界各地のサウナを渡り歩き、現在、サウナに関する執筆、TV、ラジオ、CM、イベント、デザイン性豊かなサウナ室のプロデュース等に関わり、サウナの素晴らしさを伝える為の活動をしている。フィンランド政府観光局認定サウナアンバサダー

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