イスラエルの民間月探査機が2019年4月、月面に墜落しました。そこには「地上最強の生物」ともいわれるクマムシが積み込まれていたため、月の環境汚染を心配する声も上がっています。どうして民間の月探査機がクマムシを月面にばらまくことになってしまったのでしょうか。

イスラエルの民間月面探査機が墜落

月,クマムシ
(画像=Paitoon Pornsuksomboon/Shutterstock.com)

墜落した月探査機を打ち上げたのはイスラエルの民間団体「スペースIL」です。スペースILはイスラエル宇宙船を月に送り届けることを目的として2011年に設立されました。

スペースILは米国のXプライズ財団が主催していた月面探査レース「グーグル・ルナ・エックスプライズ」に参加していました。このレースは民間団体を対象にして月面への探査機到達を競うものでしたが、日本からも「HAKUTO(ハクト)」が参加していたので、ご存知のかたも多いかもしれません。しかし、レース自体は2018年に「勝者なし」でいったん終了していました。

ただ、レースの終了後もスペースILは研究・開発を継続し、2019年2月22日に「ベレシート」と名付けられた月探査機の打ち上げに成功しました。ベレシートは4月4日に月の周回軌道に乗りましたが、スペースILによれば、民間から資金を集めた団体として月の周回軌道投入を成功させたのは世界初の事例だそうです。ベレシートは4月11日に月面着陸へ向けてプロセスを開始しましたが、不具合が発生し、最終的に月面に衝突して着陸には失敗しました。

積み荷は、書籍やDNAサンプル、そして、クマムシ

この墜落してしまった月探査機には、アーク・ミッション財団という非営利組織が依頼した「積み荷」が搭載されていました。アーク・ミッション財団はその目的に人類が獲得した英知を、時空間を超えて保存し、広めることを掲げています。

今回、ベレシートの打ち上げを利用して、地球以外に「図書館」を作り出すプロジェクトを進めていました。図書館といっても書籍を集めたわけではなく、人類の歴史や文化、言語などの情報をニッケル製のディスクに情報として加工したものですが、アーク・ミッション財団はさらに人間の血液サンプルやクマムシ数千匹もベレシートに積み込んでいたのでした。

高温や低温、放射線、真空状態でも生存可能。それがクマムシ

クマムシとは、緩歩動物門に分類される生き物で、4対の足を持ち、1,000種類以上の存在が確認されています。大きさは0.05ミリから1ミリ程度。海底や山地など、さまざまな場所に生息しています。高温や低温、高圧、さらには放射線にも耐えられ、真空状態であっても生存が可能だそうです。

そして、クマムシのなかには「乾眠(かんみん)」と呼ばれる状態になることで、水分がない状態でも生きながらえるという性質を持つものがいます。代謝のない状態で動きをとめますが、水分を与えると再び動き回れるようになるそうです。ベレシートのクマムシも乾眠状態で積み込まれていました。

クマムシが月面を「汚染」?

こうした特徴を持つクマムシが積まれていた探査機が墜落したため、汚染を心配する声も上がっています。実際に、世界初となる人工衛星スプートニクが打ち上げられて以降、人類による宇宙探査が他の天体の生態系などに悪影響を与えないか懸念する声があがりました。

地球の歴史を振り返ってみても、大航海時代に欧州の人々が米大陸を訪れた際、現地の人々に免疫のなかったさまざまな病気が持ち込まれたため、米大陸の人口が激減する事態が発生しました。宇宙でもこうした事態が引き起こされることが懸念されており、現在では国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)が「惑星保護」に向けて、宇宙探査の過程で生物学的な汚染などを引き起こさない方法などについて策定と普及を進めています。

探査機の墜落とともにクマムシも全滅したのか。あるいは地上最強の呼び名通り、墜落時の高熱や真空状態にも負けずに「生存」しているのか――。民間も含めた宇宙進出が進むなか、クマムシの運命にも注目です。(提供:JPRIME


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