2019年も残すところあとわずかとなった。本特集では新たな年のはじまりを前に、金融業界の各テーマごとに、この一年を振り返っていきたい。

第2回のテーマは「年末年始に読みたい金融本」。エコノミストの崔真淑さんに、この一年を振り返るためにZUU online読者が読んでおくべき金融・ビジネス書5冊を選定理由とともに寄稿いただいた内容をお届けする。

崔真淑
崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト(一橋大学大学院博士後期課程在籍・株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ代表取締役) 2008年に神戸大を卒業し、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)に入社。当時最年少の女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。12年に独立、経済学を軸に、経済ニュース解説、マクロ経済・資本市場分析を得意とするエコノミスト・コンサルタントとして活動。若年層の経済・金融リテラシー向上のため、東京証券取引所のPRコンサルティングなども手がける。13年からは日経CNBC経済解説委員に女性として史上最年少で就任。16年一橋大学大学院(MBA in Finance)修了。17年4月からは一橋大学大学院イノベーション研究センターに所属し、組織のインセンティブ設計と資本市場の関連性についての研究を行う。18年からは同大学院の博士後期課程に在籍。

「不適切会計」と「粉飾決算」の違いは?

会計と犯罪――郵便不正から日産ゴーン事件まで
『会計と犯罪――郵便不正から日産ゴーン事件まで』
細野 祐二(ほその・ゆうじ)
会計評論家。1953年生まれ。82年公認会計士登録。78年〜2004年までKPMG日本および同ロンドンにおいて会計監査、コンサルタント業務に従事。04年、株価操縦事件に絡み有価証券報告書虚偽記載罪の共同正犯として逮捕・起訴され、無罪を主張したが2010年有罪が確定。現在、評論・執筆活動のかたわら、自身が開発したソフト「フロードシューター」により上場会社の財務諸表危険度分析を行っている。

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企業不正を巡る手法や、地検特捜部が実際にどのような捜査を行うのかに興味がある人におすすめです。その判決や逮捕は適切なのか、大企業には甘いのではなど、上場企業を巡る不祥事のリアルな話が詰まっています。特に日産ゴーン事件、郵便不正事件と直近で話題になった事件で何が起き、そして地検特捜部の課題に対する解説は秀逸です。

近年、上場企業で会計を巡る不祥事が相次いでいます。メディアでは、不適切会計や粉飾決算という言葉で表現されることが多いですが、この2つの違いは、悪意をもって会計不正を行ったかどうかを立証できるかであり、後者は立証ができた場合に使われる言葉です。そこで、立証のために出てくるのが、地検特捜部といわれる組織です。

著者は、会計士として地検特捜部と実際に戦い、有罪判決を受けています。その経験がある著者だからこそ、会計不正がどのように行われることがあり、地検特捜部ににらまれたらどうすべきなのか……。

今、日本では上場企業へのガバナンス改革(経営者が株主利益に資する経営をしているか、私的利益のために行動していないかを監視するために制度)の真っ最中です。今後も、企業不祥事や経営者不祥事は何かのタイミングで露見しやすい環境が続くと予想されます。投資家や経理担当者、経営企画、経営者、経済事件に関心のある人に読んでほしい一冊です。

経済メディアの「通説」をひも解く

日本のエクイティ・ファイナンス
『日本のエクイティ・ファイナンス』
鈴木 健嗣(すずき・けんじ)
一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授。1976年生まれ。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了、博士(商学)。東京理科大学経営学部専任講師、神戸大学大学院経営学研究科准教授、ワシントン大学客員研究員を経て、現職に至る。主な著作に、“Do the Equity Holding and Soundness of Bank Underwriters Affect Issue Costs of SEOs?”Journal of Banking and Finance(単著、日本経営財務研究学会学会賞受賞論文)、“Do the Use of Proceeds Disclosure and Bank Characteristics Affect Bank Underwriter’s Certification Roles?”Journal of Business Finance and Accounting(共著)、「増資インサイダー問題と資金調達コスト」証券アナリストジャーナル(共著、証券アナリストジャーナル賞受賞論文)、など。

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株式を巡っては、配当、自社株買い、公募増資、株式分割など、さまざまな株主還元策や資金調達が存在します。その際、経済メディアでは、それを行った企業側の意思決定の背景や株価の反応を、事実と仮説を交えて報道されることが多いようです。例えば、増配で株価上昇、自社株買いは経営者が株価割安と発するためのサイン、公募増資は1株当たり利益の希薄化懸念で株価下落……など。でも、それって本当なのでしょうか?

じつは、これらの通説や仮説は間違っているケースや、実際には株式と株価を巡る動きについてどういうメカニズムが働いているのかが学術の視点でしっかりと解説されています。また、日本の上場企業の大規模データを用いての検証も行っており、グラフを眺めるだけでも、非常に学びが多いでしょう。

株式投資を行っている人や、経営者が株式を巡る意思決定で困った際に読んでほしい一冊です。特に、日々の経済メディアの通説や報道に違和感を感じることがある人には、絶対に読んでほしいです。これを読めば、株式を巡る通説をうのみにするのではなく、どう考えるべきかの知識も手に入るでしょう。株式の辞書代わりに、一家に一冊は置いてほしい本です。

「データ分析」の根幹を知る

その問題、数理モデルが解決します
『その問題、数理モデルが解決します』
浜田 宏(はまだ・ひろし)
東北大学大学院文学研究科教授。関西学院大学法学部政治学科卒業。同大学院社会学研究科にて博士号(社会学)を取得。日本学術振興会特別研究員、関西学院大学社会学部准教授(任期制)を経て現職。専攻は数理社会学。

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「仮説ってどう立てるの?」「データ分析がうまくいかない」、そんな疑問を持っている人に読んでほしいのが本書です。

今年に入って、データ分析やビッグデータ、AIなど、データ分析を巡る話題がさらに増えました。しかし、データがあれば本当になんでも解決してくれるのでしょうか?じつは、そんなことはまったくありません。データがビッグになればなるほど、分析に使えないゴミデータが増えるリスクがあるだけでなく、本当に検証したい結果が見えなくなることがあるからです。