2020年が幕を開けた。本特集では、新年にさらに自身の資産を増やし、人生を加速させていこうと考える読者のために、金融・経済各テーマ別に一年の展望を解説する。

第4回のテーマは「2020年のグローバルマクロと円相場の展望」。国内外主要アナリスト調査で20年以上トップランカー、日経ヴェリタス金利・為替部門5年連続1位などの実績を持つ、田中泰輔リサーチ代表で楽天証券グローバルマクロ・アドバイザーの田中泰輔氏に、2020年のグローバルマクロと円相場の展望と、投資家のとるべきスタンスについて寄稿いただいた内容をお届けする。

田中 泰輔
田中 泰輔(たなか・たいすけ)
1983年慶応義塾大学(経済)卒。⽥中泰輔リサーチ代表。外国為替の美しい変動ロジックを読み、世界・⽇本・市場の体系を解く。米欧日メガ金融機関9社にて35年、トレーダーからマクロ・ストラテジストを歴任。内外主要アナリスト調査で20年以上トップランカー、日経ヴェリタス金利・為替部門5年連続1位。著書「相場は知的格闘技である」「マーケットはなぜ間違えるのか」など、日本の市場行動学の草分けとして知られる。楽天証券経済研究所の客員グローバルマクロ・アドバイザー就任など、投資の教育プログラム・情報発信で複数企業と提携。

はじめに

2020年前半の市場はリスクオンに傾きやすいと見ています。19年末にかけて好材料が出そろったことで、短期的に相場の調整のリスクもあります。しかし、2~3月には経済および政治から支援材料が続く公算で、内外株式、ドル円を後押しすると見込んでいます。

もっとも、リスクオン相場が現実になった場合も、半身で臨む慎重さが必要と考えます。リスクオンの新たなサイクルの始動ではなく、何年も続いた上昇サイクルの終盤が長らえている、と判断されるからです。20年後半には、米国の景気と株価を下振れさせるリスク要因を厳しめにチェックする必要が出てくるでしょう。

IMF経済見通し(2019年10月)
(画像1、出所:IMF)

米国:大統領選挙年のサポート

cbies/Shutterstock.com
(画像=cbies/Shutterstock.com)

世界経済の先行きを読む第一のカギは米国です。欧州と中国の景気減速の一方、米経済成長は巡航ペース(1.75%程度)を上回り、株式相場のパフォーマンスも他を圧倒してきました。経済の体温である金利は、日欧のマイナス金利を横目に、米国はプラス水準を保っています。

米景気は数年の上方サイクルを経て、16年に下方転換しかかりました(画像2)。それをトランプ政権が減税や公共投資で押し返したのですが、他方で、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレを警戒して利上げを早めました。18年、米長期金利が当時景気中立水準と目された3%を超え、それを嫌気した住宅、次いで株価が反落しました。

米GDPギャップと財政収支
(画像2、出所:IMF、Bloomberg Finance L.P.)

ところがFRBは、予想に反してインフレが軟化するのを見て、19年には再び利下げに転じました。トランプ大統領も20年11月の選挙での再選を目指して、市場が懸念する米中通商摩擦の一時休戦を演出し、景気と株価の下支えに動いています。

20年はこの流れを引き継いでスタートします。金利低下は住宅の回復を促し、米中合意も加わって、株価を押し上げます。好材料が早めに出そろい、相場にテクニカルな調整はありえます。

しかし、出遅れている製造業景況感の回復が2月、3月に追随すると見ています。背景として、低金利、米中合意に加えて、半導体サイクルの反発、自動車の調整一服、中国・欧州景気の底固さが見込まれます。

米大統領選挙戦の予備選・党員集会が集中する3月の「スーパーチューズデー」が近づくと、誰が勝つか、政策はどうなるかと憶測し、市場は神経質になる場面がありえます。しかし、選挙戦開幕の初期は高揚感が勝ると考えます。

以上から、20年明け最初の3~6ヵ月はリスクオンを予想しますが、この予想どおりになった場合も、年後半にかけて慎重に臨むべきと判断しています。その根拠は、欧州や中国、新興国全般の情勢を概観してから、全体像としてお話ししましょう。

欧州:重たい景気に底固さも

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(画像=RomanR/Shutterstock.com)

ユーロ圏の景気は、最近10年の牽引役であったドイツの減速を受けて、重くダレています。ECB(欧州中央銀行)は包括的な金融緩和措置を講じましたが、信用はなかなか増加していません。マイナス金利の深掘りがかえって金融機関の貸出を圧迫する面も観測されます。

ただし、景気が底固さを見せる目もあります。ドイツの景気減速のきっかけは、自動車の排ガス規制違反への対応の遅れでした。第三者機関によるチェックを義務づけた一方、体制が間に合わず、出荷できない事態になったのです。そこに主要な輸出先である中国の景気減速が重なりました。

自動車部門のテクニカルなもたつきは一巡し、中国経済が(減速しつつも)一定の底固さを見せれば、ドイツ、そしてユーロ圏全体の景気も下げ止まる可能性があります。さらに、ドイツには財政出動の余地が大きくあります。景気の一段の悪化時には、金融政策の追加余地も効果も限られるため、一歩遅れて財政出動がありうると見ています。

中国:米大統領選後をにらんだ景気立て直し

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(画像=Lightspring/Shutterstock.com)

中国の景気減速は、自らが招いた部分もあります。政府がシャドーバンキングにメスを入れたことで、一部信用収縮が起こりました。そこに米国が中国に貿易戦争をしかけてきました。中国の企業投資は慎重になり、輸出は鈍化し、経済成長率は公表ベースで6%まで低下しました(画像3)。関連データの推計から、実際の成長率は3~4%かさらに低いと見られます。

中国GDPの推移
(画像3、出所:Bloomberg Finance L.P.)

中国政府は、米国の中国叩きという国難に対して、減税などの財政措置に加え、信用緩和による景気下支えを図ってきました。地方政府の債券発行枠を増やし、インフラ投資、公共投資を増やしています。20年は、米中通商問題の一時休戦が中国の景況感への若干のサポートになるでしょう。それ以上に、中国当局は米大統領選後の米中摩擦再燃を当然警戒しており、20年中の景気立て直しに必死に取り組むと見ています。