個人のライフプランを立て、NISAやiDeCoなどの制度を利用するといった投資行動が重要なことは言うまでもない。しかし、そうした投資家的な視点や行動原理は、サラリーマンとしてより輝くためにも生かすことができる。
より主体的なキャリアを実現していくための方法について藤野英人氏に聞いた。
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人生は社畜or起業家の2択ではない
――今回の著書の中では、投資家的な考え方を実践するサラリーマンを「トラリーマン」と表現しています。
現在は多くの人が、人生を考えるときに、二者択一のようになっていると思うのです。
ざっくり言うと「大企業に入って社畜として、なんとかリストラされずにやっていこう」という生き方と「険しくてどうなるかわからないし、スッテンテンになるかもしれないけれど起業家の道を選ぶ」という生き方の2択です。
ただ、選択肢がこれだけしかないと、どちらも辛いですよね。本当は、第3の道、第4の道、第5の道‥と様々な選択肢があるわけですが、その一つが「サラリーマンの虎」、トラリーマンだと思っています。
つまり、サラリーマンではありながら、「自分が人生の主人公である」と考えて、仕事を楽しんでいる人たちです。彼らは、高い職業倫理と高度な専門性を持って、顧客のために満足できる結果を残すことのできる付加価値の高いサラリーマンとして活躍しています。このようなトラリーマンは、会社を辞めるほどのリスクはとらず、会社という枠を利用して、自分にとっておもしろい仕事を実現しているのです。
これまでは、上司から言われたタスクをこなすだけの人が重宝されたので、トラリーマンのような人材は異端でした。しかし、最近では、むしろ彼らが大企業の中で望まれる人材となり出世までしているというケースが出てきているように思います。
例えば、ヤフーの社長を務めている川邊健太郎さんは、学生時代に「電脳隊」を起業し、面白おかしく生きているうちに、その会社が買収によって、いつの間にかヤフーに取り込まれてしまいました。その後もヤフーのなかで自由にやっていたら、いつの間にか社長になってしまったというようなキャリアを歩んできた方です。
元々楽天にいて現在はヤフーの取締役の小澤隆生さんもトラリーマンだと思います。楽天の三木谷さんの下で様々な事業に取り組み、ヤフーに行って楽しく仕事をしていたら、いつの間にかヤフーの役員になってしまった。
こうしたキャリアを歩んできた人たちだからこそ、組織も自分自身のことも自由に考えられる。だからこそ、「LINEを統合して、LINEの社長と一緒にやろうよ」といった発想が出てくるのだと思います。これはトラリーマンだからできる発想であり、「俺の陣地をちょっとでも侵すんじゃない」というサラリーマン的な考え方では出てこないアイデアだと思います。
あるいは、楽天大学の学長を務めている仲山進也さんもトラリーマンだと思います。この人は、そもそも会社に来ません。楽天の社員ではあるものの、「兼業自由・勤怠自由・仕事内容自由の正社員」という、とてもフリーダムな働き方が許されている人です。
また、ZOZOの田端信太郎さんも超トラリーマンですね(※編集部注:2019年いっぱいでの退職を表明)。田端さんのような人は、決して愛社精神がないわけではなく、自身が活躍することで、所属しているLINEであり、 ZOZOが輝くというところを重要視してきた。そうでなければ、田端さんはプロサラリーマンとして失格なわけですから、結果を出すことに対しては非常にこだわっています。
一方で、いわゆる「日本のサラリーマン」的な、上司にゴマをすったり、年功序列が重要視されるといった非合理的な判断を強いられるのは断固拒否する。
彼らのように大企業の看板を使いながら、自由に働いている人が増えてきているのは、世の中の変化だと思いますね。
日本の会社は、労働基準法が非常に厳しいので、簡単に社員をクビにすることはできません。会社が社員を辞めさせるのは本当に難しい。であればこそ、そういう状況をうまく利用して、会社の利益にもなって、自分のやりたいことをやる。そういう境地にたどり付いた瞬間に、新たな道が開ける可能性が高いですよね。
トラが無理ならばネコという選択肢も
――とはいえ、全員が「トラリーマン」になるのは難しいと思います。