作戦を練るために必要な情報とは?

交渉術
(画像=THE21オンラインより)

ビジネスパーソンの日常は交渉の連続だ。しかし、苦手意識を持っている人も多いだろう。そこで、交渉学の専門家である石井通明氏に、最高の成果を得るための交渉術を教えてもらった。石井氏によると、こちらの作戦を練るためにも、5つのポイントを聞き出すことが重要だという。

※本稿は、石井通明著『最高の結果を得る「戦略的」交渉の全技術』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。


交渉に臨む際には、色々と主張したいことがあるとは思いますが、まずは相手の話を聞くことが大切です。喧嘩ではないのですから、先手必勝ということはありません。

何より、お互いの置かれた立場や状況などをしっかりと話し合い、それを踏まえた上で落とし所を見つけるのがセオリーです。そのためにも、自分自身が聞く側になることが大切です。

聞くことはこちらの作戦を練る上でも重要です。そこで、まず何を聞くべきか。

それには5つのポイントがあります。それでは、順を追って説明しましょう。

(1)相手の求めるもの(ニーズ)

そもそも相手が何を望んでいるのか、それを知らなければ交渉も何も始まりません。どういうことを求め、それに対して自分たちに何ができるかを考えるのが、スタート地点に立つための最低条件です。

(2)相手の力の分析

言い換えれば、相手の強みと弱みのことであり、そこを知っておくことが大切です。それは交渉相手の性格であったり、会社のポジションであったり、そもそも会社自体が持っている実力や影響力、資金力などであったり。敵を知ることは、戦い方を考える上で重要です。それによって、相手の強みをかわしつつ、弱みを攻めて交渉を有利に展開することができます。

(3)制限時間

この交渉はいつまでに終わらせておくべきか。相手にも期限があるはずです。相見積もりなどでライバルがいる時は別ですが、基本的にこちらが単独である場合で断れない事情がある時には、「いつまでが相手の限度か」という制限時間を探っておくと、そのギリギリまで交渉を進めることができ、やがて相手が折れて譲歩のポイントを見つけやすくなります。ただし、「説得」して相手へのマイナスを与えては、交渉を成功させたとは言えないので気をつけましょう。

(4)制限価格

お金が絡む案件では、時間と同様、相手の資金の上限があります。こちらとしてはより多くの利益を上げたいですが、無意味にふっかけて断られても意味がありません。ある程度高めの額(上限を超えてもかまいません)を提示した後で、本来のこちらの想定価格を提示したりすると、希望価格で交渉がまとまることがあります。

(5)代替案

そもそも、その交渉自体が必ず成功するとは限りません。ただ断られてしまっては、それまでの時間が無駄になってしまいます。そこで、相手にどのような代替案があるかを探っておきます。その内容によっては、交渉に対してどれだけ力を入れているか、相手にとっての重要度が想像できます。どうしても相手が望むことであれば、それだけこのチャンスを逃すまいとし、こちらが強く出ることもできるわけです。逆に、競合がいて、こちらの提示した条件に乗り気ではないというのであれば、こちら側の譲歩も必要になります。すなわち交渉の仕方自体が変わってきます。

POINT 相手のニーズ、強みと弱み、タイムリミット、資金の上限、そして代替案のやり取りが、落とし所のヒントになる。

石井通明(いしい・みちあき)
日本交渉学会正会員
1979年生まれ。アルバイト時代にコールセンターでテレフォンオペレーターの仕事に従事。そのまま会社に就職し、リーダー、課長、部長に5年で昇進し、取締役COOに最短で就任。現場では、電話業務から強いられる困難な応対をまとめる立場として、交渉の能力を高めた。そのあと、コールセンターの依頼主やクレーム主との対応などで交渉術の奥深さを知り、交渉のスキルを高めるために、2012年から交渉学の権威である英国ウェールズ大学で3年間学び、MBAを取得。ハーバード流交渉術や行動心理学、コンフリクトマネジメント(職場で発生する利害の衝突・対立を、組織の成長や問題解決につなげようとする取り組み)などを研究。MBAを取得後、交渉のスペシャリストとしてコンサル、講演をこなす。日本交渉学会の気鋭の若手として活躍中。交渉学についての学術論文「声の印象による交渉術」が大阪大学、学会から高い評価を得た。(『THE21オンライン』2019年11月06日 公開)

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