世の中には「お金持ち」になるための情報があふれているが、実際にお金持ちとはどういった人を指すのか、あるいはお金持ちになるためにどうしたよいのか、具体的かつ客観的に記したものは少ない。
「お金持ちになる絶対的な法則は存在しない」としつつも、「お金持ちになりやすい行動パターンやお金が逃げていくパターンを知ることで成功する確率を上げることはできる」と語るのが経済評論家の加谷珪一氏だ。ベストセラー『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス (2014/1/29))の著書であり、億単位の資産を運用する個人投資家でもある加谷氏に「資産1億円の教科書」と題して話を聞いた。(聞き手:押田裕太)
第3回では、お金持ちが長けている「コミュニケーションスキル」の中身について掘り下げていこう。
成功する人はコミュニケーションが上手
──前回、相手を理解することの重要性についてお話いただききましたが、コミュニケーションスキルにも通じる話ですよね。
そうですね。私が実際にお会いした方で、自身の息子を専務に引き上げた社長さんがいました。話を聞いてみると、「本気で自分の息子はよく私のことをわかっている」と言うのです。他の社員は、社員としての受け答えをしてしまい、社長が何を求めているのかまで考えが至らないということでした。
例えば、その社長さんから無理難題を振られたとしますよね? 社員であれば「そんなことをおっしゃられても……」と言い返してしまいますが、息子さんは違ったとのこと。「それは無理かもしれないけど、俺だったらこうするよ」と、提案を返されたそう。そうすると、「他の社員よりも息子のほうが仕事ができるのではないか」と思ってしまうわけです。
そして息子さん本人と私が飲みに行ったとき、なぜそう言ったのかを聞いてみると、「オヤジはこう言えばバッチリだから」とのこと。これでは勝ち目がないですよね。経営者の息子なら、経営者の人間性や行動パターンをよく理解して対処できるわけですから、えこひいきを除いても、息子が他の社員より昇進に有利なのは間違いないと思います。
そういった人と競うためには、さらに自分のコミュニケーション能力を磨く必要があるのではないでしょうか。生まれ育ちや家庭環境を恨んでも仕方ありません。そういった差がもとからあることを理解したうえで、意識的に磨いていかないと、経営者の息子には勝てないと思った方がいいでしょう。
──相手の立場にたつということは、単に相手がやりたいことだけでなく、なぜそれをやりたいのかという目的を把握することが大事だということですね。それをふまえた提案ができれば、自分の思うように仕事を進めることができる。
営業もすべてそうです。売りたいものを売りたいときに売るだけでは、トップセールスにはなれません。カリスマ営業マン、カリスマ営業ウーマンっていらっしゃいますよね。
過去にダイエーの社長を務め、今は横浜の市長をされている林文子さんは、BMWジャパン時代に「カリスマセールスウーマン」といわれた方です。見ておわかりの通り、ゴリ押しで押し込む営業のタイプではありません。
あとは百科事典で有名なブリタニカの和田裕美さんもトップセールスです。あの方も見た目の印象はすごくソフトで、ゴリ押しするタイプではありませんよね。それなのにものすごい実績を出されているというのは、相手を良く理解していて、欲しいというタイミングで一気に売ることができているからだと思います。和田さんは、新規の営業獲得率だけでいうと、あの会社の上位クラスにいる営業の方と大差がないそうです。
それでも営業成績がダントツという秘密はリピートにあるんです。一度開拓したお客さんからの獲得が上手いんですよ。それは顧客のニーズをきっちり把握していて、押すべきときに押しているからだと思います。
マーケティングの教科書を読むと、「利益の8割はリピーターから」と書いてあって、皆、「そうだそうだ」と思うわけですが、実践するのは非常に難しい。しかし、これがしっかりできると、スゴい営業成績に繋がるということが証明されているので、相手を理解することが大事だということは、何においても共通の法則だといえるでしょう。
投資もそうですよね。自分が投資先企業の経営者だったらどうなのかを考えないとできません。自分が経営者であれば、なるべく企業の情報を出したくないし、好き勝手やりたいと考えるのが自然でしょう。ですから「IRの内容を踏まえて投資したのに騙された」と怒っても仕方がありません。自分だったらどうするのかを常に考えられないと、投資でも勝つことは難しいと思います。
――コミュニケーションで一番重要な要素とはなんでしょうか?