住宅ローンを組んでマイホームを購入したり増改築したりすると住宅ローン控除を受けられる。しかし実際に住んでいない場合は、住宅ローン控除が適用されないこともある。住宅ローン控除の減税額は大きいので、控除が受けられないことは避けたい。
住宅ローン控除の適用条件は本人が住んでいること
住宅ローンは購入する住宅に住むことを前提に借りられるローンであり、住宅ローン控除の適用も本人が住んでいることを前提にしている。住宅ローン控除の適用条件はいくつかあるが、住宅を購入した場合は以下の2つだ。
・新築または取得の日から6ヵ月以内に居住すること
・住宅ローン控除を受ける各年の12月31日までに住み続けていること
つまり住宅ローン控除を受けるには、住宅の引き渡しを受けてから6ヵ月以内に住民票を移し、年末時点まで住んでいなければならない。増改築の場合も自分が住んでいる住宅が対象であり、控除を受けるには工事が完了した日から同様に居住していなければならない。
住宅ローン控除を自宅に住んでいない状態で受けられるケース
住宅ローン控除は、原則的に住宅ローンを借りた本人が住んでいなければ控除を受けられないが、仕方なく転居しなければならない時もあるだろう。そのような場合は、状況により住宅ローン控除が適用される場合とされない場合がある。本人が住んでいなくても例外的に適用される条件を見ていこう。
ケース1……単身赴任などで本人だけ引っ越して家族は引き続き住む
やむを得ない事情で自宅に住めなくなる代表的な例は、転勤による単身赴任だ。住宅ローン控除の期間は10年間(条件により13年間)と長く、その間に転勤する可能性は十分ある。転勤で本人が自宅に住んでいない状態だと通常は住宅ローン控除を受けられないが、家族がそのまま残って住む場合は引き続き控除の対象だ。
家族と言っても誰でもいいわけではなく、生計が同じ配偶者や扶養親族でなければならない。生計を別にする親や兄弟姉妹が代わりに住んでも控除は受けられない。本人についても将来自宅に戻って再び住むことを前提にしている。
ケース2……海外に転勤して家族は引き続き住む
転勤先が海外の人もいるだろう。その場合も上記と同じく、家族がそのまま自宅に住んでいるなら住宅ローン控除の対象になる。住宅ローン控除適用の可否は、税務上の区分である「居住者」と「非居住者」のどちらに該当するかで異なる。国内に住んでいる人は通常「居住者」に該当する。
海外に1年以上の予定で転勤する場合は「非居住者」になる可能性があり、住宅ローン控除を受けられないことも否定できない。住宅の取得などが2016年3月31日以前の人は、適用者が居住者に限られていた。そのため単身赴任で家族が自宅に残る場合でも住宅ローン控除を受けられないことがある。
税務上の取り扱いについては判断が分かれることもあるため、事前に税務署に確認するようにしよう。
ケース3……入居後、年末までに転勤があり家族と引っ越して数年後に戻る
運悪く自宅に住み始めた時に転勤のタイミングがくる人もいるかもしれない。入居後、初めての年末を迎えるまでに家族と引っ越す場合、自宅に住んでいない期間は住宅ローン控除を受けられない。その後、住宅ローン控除期間内に再び戻って居住した時は、残りの控除期間に限り控除を受けられる。
ケース4……本人が病気で療養のために転居する
転勤以外では、病気による療養のために転居を余儀なくされることも考えられる。この場合も家族と一緒に転居すれば住宅ローン控除は受けられないが、家族が残るなら引き続き控除が適用される。療養のための転居はやむを得ない事情であるため、単身赴任するパターンと同じ取り扱いだ。
本人が住んでいないと住宅ローン控除を受けられないケース
自宅に住んでいないために住宅ローン控除を受けられない条件も確認しておこう。
ケース1……転勤で家族も一緒に引っ越したため誰も住んでいない
転勤や療養などで家族も一緒に引っ越す場合、自宅を空ける期間は住宅ローン控除を受けられない。住宅ローン控除期間内に再び戻って居住するなら、残存期間は控除を受けられる。住宅ローン控除の再適用は以下の3つの要件を満たさなければならないが、特に問題のない要件だろう。
・転勤などその他これに準ずるやむを得ない事由があること
・居住しなくなるのが2009年1月1日以降であること
・住宅を取得してから6ヵ月以内に居住していること
ケース2……夫婦共有名義だが別居して片方が住んでいない
共有名義で住宅を購入した場合は夫婦ともに住宅ローン控除を受けられるが、離婚の意思があり別居しているような状態だと、自宅を出た配偶者は控除を受けられない可能性がある。単身赴任のように一時的に住んでいないだけなら控除を受けられるが、離婚協議中の別居などは将来戻るつもりがないとみなされ対象外になることもあるため注意しよう。
ケース3……離婚して購入した住宅に住んでいない
離婚後のパターンはいくつかある。例えば住宅ローンを夫1人が契約し、離婚後も夫が自宅に住み続ける場合は問題なく住宅ローン控除の対象になる。夫婦共有名義などで持ち分が分かれている場合は、住み続ける夫に持ち分の財産分与をすれば、その分も含めて夫は控除を受けられる。逆に持ち分を持つ夫が離婚後に自宅を出て生活する場合は、住宅ローン控除が受けられない。
住宅ローン控除の要件は契約者本人の居住が原則であり、自分がローンを組んでいるとしても離婚後に自宅に住んでいないのなら対象から外れてしまう。購入した住宅に住まずにローン返済が滞るとその家が競売にかけられるなど別の問題が発生する可能性もある。住宅など不動産の持ち分は必ず相手と相談するようにしたい。
ケース4……自宅を賃貸に出して住んでいない
転勤などで家族と一緒に引っ越して自宅を賃貸に出していた期間は、居住とみなされないため住宅ローン控除を受けられない。賃貸に出していても将来戻ってきた時に住宅ローン控除の残存期間があれば受けられるが、賃貸の場合に限り、戻った年ではなく翌年から再適用されることには気をつけよう。
再適用された住宅ローン控除の残存期間は住んでいない期間も含まれる
やむを得ない理由で自宅に住まなくなっても、再び居住すれば住宅ローン控除は受けられる。その場合に知っておきたいのが再適用された住宅ローン控除の残存期間だ。
住宅ローン控除の期間は入居した年から10年間(条件により13年間)であり、転居して控除を受けられない期間も含まれる。例えば当初3年間は控除を受け、転勤で家族と転居し2年経過後に戻った場合、再び住宅ローン控除を適用できる期間は残りの5年間である。住んでいない期間は控除を受けられないが、その間も控除期間としてはカウントされてしまうのだ。
住宅ローン控除を自宅に住んでいない状態で受けるためには手続きが必要
自宅に住んでいない状態で住宅ローン控除を受けるためには、状況により手続きが必要だ。事前に届け出ないといけない場合もあるため、転居をする人は念のため税務署に問い合わせることも行ってほしい。
ケース1……単身赴任して家族は引き続き住んでいる
転勤により単身赴任する時に家族が自宅に引き続き住んでいるなら税務的に必要な手続きは特にない。あえて言えば、住所変更をして会社の年末調整を行う程度だ。単身赴任先が海外でも基本的な取り扱いは変わらない。
ケース2……転勤等により家族で引っ越した後に戻ってくる
住宅ローン控除の期間に転勤になるケースがこれだ。家族全員で引っ越して戻る場合、転居前と再び居住した後に必要な書類を税務署に提出しなければならない。転居前に提出する書類は以下の2つである。
<転居前に提出する書類>
(1)「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」
(2)未使用分の「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書」及び「給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」
(1)は国税庁のホームページから印刷でき、(2)は住宅ローン控除を初めて受けるために確定申告した後に税務署から送られてくる書類だ。1枚に「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書」と「給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書」が一緒に印字されている。(1)と(2)をセットにし、転居する日までに住んでいる地域の税務署に提出しよう。
家族で引っ越した後に戻り再び居住することになったら、以下の書類とともに確定申告が必要である。
<再び居住した後に提出する書類>
(1)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
(2)住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
(1)は国税庁のホームページから印刷した用紙に記入する。(2)は金融機関から送られてくる書類だ。
ケース3……1度も住宅ローン控除を受けずに引っ越して戻ってくる
購入住宅に初めて入居する前に転勤などで1度も住んでいない場合は、必要な手続きはない。再び入居することになった時は、以下の書類を添えて住宅ローン控除を受けるための確定申告をしよう。
(1)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
(2)特定事由によりその家屋を居住の用に供さなくなったことを明らかにする書類
(2)は転勤辞令の文書などを会社から発行してもらうといいだろう。
自宅に住んでいないことを隠して住宅ローン控除を申告しても発覚する
住宅ローン控除は減税額が大きいため、できる限り受けたい税制だ。転勤があっても住宅ローン控除期間は家族に住んでもらうなどの対策を検討したい。
家族と一緒に転居しても住民票だけ残そうと考える人もいるかもしれないが、住んでいないことが発覚して問題になることも考えられる。会社は新しい住所で年末調整を行い、それに基づいて住民税が課税されるためだ。黙って住んでいないことを隠すと悪質性が高いとみなされ、最悪、銀行から一括返済を求められる可能性もある。
そこまでのリスクを犯して住宅ローン控除を受ける必要はないだろう。万が一、転居することになったら必ず住宅ローンの借入先に相談をしよう。
文・國村功志(資産形成FP)/MONEY TIMES
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