2019年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比1.6%増(1)と、前期の同2.4%増から低下、Bloomberg調査の市場予想(同1.9%増)を下回る結果となった(図表1)。

タイGDP
(画像=PIXTA)

なお、2019年通年の成長率は前年比2.4%増(2018年:同4.2%増)と低下、昨年11月の政府予測(+2.6%)を下回った。

実質GDPを需要項目別に見ると、主に輸出と公共投資の悪化が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比4.1%増と、前期の同4.3%増から低下した。費目別に見ると、通信(同4.3%増)とホテル・レストラン(同10.2%増)は堅調だったが、食料・飲料(同2.6%増)や娯楽・文化(同0.5%増)、自動車の購入(同11.1%減)が不調だった。

政府消費は同0.9%減と、前期の同1.7%増から低下し、8期ぶりのマイナスとなった。

投資は同0.9%増と、前期の同2.7%増から低下した。投資の内訳を見ると、まず民間投資は同2.6%増(前期:同2.3%増)と上昇した。民間設備投資(同2.5%増)が鈍化したものの、民間建設投資(同3.1%増)が回復した。また公共投資は同5.1%減(前期:同3.7%増)と落ち込んだ。公共建設投資(同6.1%減)が大きく低下したほか、公共設備投資(同1.9%減)が低迷した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+3.0%ポイントと、前期の+4.9%ポイントから縮小した。まず財・サービス輸出は同3.6%減(前期:同0.6%増)と低下し、2期ぶりのマイナスとなった。うち財貨輸出が同5.1%減(前期:同0.1%減)、サービス輸出が同1.1%増(前期:同3.2%増)と、それぞれ低下した。一方、財・サービス輸入は同8.3%減(前期:同6.8%減)と低迷した。

タイGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給項目別に見ると、主に製造業の悪化が成長率低下に繋がった(図表2)。

農林水産業は干ばつ被害が拡大したため、前年同期比1.6%減(前期:同2.7%増)と低下した。

鉱工業は同1.9%減(前期:同0.1%減)と低下、前期に続いてマイナスとなった。まず主力の製造業は輸出低迷を受けて同2.3%減(前期:同0.8%減)と低下し、2期連続のマイナスとなった。また電気・ガス業は同0.4%減(前期:同3.2%増)、鉱業は同1.0%増(前期:同2.9%増)となり、それぞれ低下した。

全体の6割弱を占めるサービス業は同4.1%増(前期:同3.9%増)と小幅に上昇した。サービス業の内訳を見ると、情報・通信業が同10.8%増(前期:同8.2%増)、不動産業が同3.0%増(前期:同2.2%増)、ホテル・レストラン業が同6.8%増(前期:同6.7%増)、運輸・倉庫業が同3.9%増(前期:同3.1%増)となるなど、前期から伸び率の上昇した業種が多かった。一方、小売・卸売業は同5.2%増(前期:同5.3%増)、教育は同1.8%増(前期:同1.9%増)、建設業は同1.9%減(前期:同2.7%増)、金融・保険業は同3.4%増(前期:同8.8%増)と低下した。

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(1)2月17日、タイの国家経済社会開発委員会事務局(NESDB)が2019年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。

10-12月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は2019年通年の実質GDP成長率が+2.4%と、2018年の+4.2%から低下し、2014年以来の低成長となった。四半期ベースでみると、昨年は輸出の低迷が続く中でも概ね+2%台後半の緩やかな成長が続いていたが、10-12月期は景気減速が鮮明になり成長率が+1%台まで低下した。

10-12月期の景気減速は輸出と公共投資の悪化した影響が大きい。10-12月期の財貨輸出は前年比5.1%減となり、4期連続のマイナス成長となった。米中貿易摩擦を背景とする世界経済減速や電子部品輸出の回復の遅れ、バーツ高に伴う輸出競争力低下などが響いた。また政権発足の遅れにより本来10月から始まる今年度予算の執行が遅れた。このため、10-12月の政府支出が落ち込み(図表3)、公共投資(前年比5.1%減)と政府消費(前年比0.9%減)がマイナス成長となった。政府はつなぎ予算の執行や旅行給付金などの消費刺激策を実施したが、景気の落ち込みを回避するには至らなかったようだ。

また18年後半から続く輸出の低迷は輸出関連産業の業績悪化を通じて、民間部門に悪影響を及ぼしている。民間消費は+4%台の堅調な伸びを維持しているが、4期連続の減速となった。低インフレ環境やタイ政府の実施した旅行給付金などの景気刺激策は消費を下支えに寄与したとみられるが、製造業を中心とした雇用者数の減少や月額平均給与の鈍化(図表4)、消費者信頼感の低下自動車買い替え需要のピークアウトなどから消費の勢いは徐々に失われてきている。民間投資は若干上昇したものの、伸び率は+2%台で勢いを欠いている。輸出低迷に加え、自動車販売の減少や低い設備稼働率、タイ産業景況感の悪化、そして4月に導入した住宅ローン規制による不動産購入の減速など、様々な要因が投資を下押ししている。

タイGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

先行きのタイ経済はどうだろうか。まず年明けから中国で拡大する新型肝炎の影響は1-3月期の景気を下押しするものと見込まれる。中国とのサプライチェーンが強く結ばれる電気電子産業や観光業を中心に悪影響が広がりそうだ。また10-12月期のGDPを押し下げた予算執行の遅れも当面続く見通しだ。今年度予算案(歳出総額3.2兆バーツ)は1月に一旦成立、2月中旬までに執行が始まる見通しであったが、下院で与党議員による代理投票が発覚、憲法裁判所は2月7日に採決のやり直しを命じている。タイ政府はつなぎ予算の執行上限を従来の50%から75%に拡大させるなど、景気への悪影響を緩和させるように対応しているが、1-3月期も政府支出の落ち込みは続くものとみられる。このほか、米中貿易戦争の長期化や干ばつ被害の拡大、大気汚染など、先行きのタイ経済は様々な下振れリスクを抱えており、2020年も景気の停滞が続きそうだ。

このため、タイ政府と中銀は引き続き景気下支えに動くだろう。タイ政府は今年1月、昨年の建設投資を鈍らせた融資規制を緩和させるなど、既に個人の住宅取得を促す手立てを講じているほか、年後半には低所得者や農業に対する支援策、国内観光促進策を実施しそうだ。他方、タイ中銀は昨年8月と11月に金融緩和を実施し、政策金利を既に過去最低の1.25%まで引き下げているが、今後更なる利下げを打ち出す展開が予想される。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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