(本記事は、曽我 ゆみこ氏の著書『経営者のための初めての不動産投資戦略』プレジデント社の中から一部を抜粋・編集しています)

経費,コスト
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不動産投資における経費の考え方

「不動産投資を成功させる鍵は経費だ」と言う人がいます。私もその意見には賛成です。最も重要なファクターの一つだと思います。

ただ、先にお伝えしておくと、経費のための不動産投資になってはいけません。あくまで毎月お金を手元に残すため(インカムゲイン)と、不動産という資産を持ち売却時に収益をあげるため(キャピタルゲイン)に、不動産投資を行っているわけですから、経費によってお金が出ていってしまったら意味がありません。

そのうえで、経費を賢く利用しないと、税金ばかりが膨らんでいき、損をしてしまいます。

不動産投資は、ほかの投資法、つまり株式投資やFX、仮想通貨などと異なり、実態をともなうため、さまざまな費用を経費として扱うことができます。

この経費を個人の確定申告の際に、本業からの報酬(給与所得)や家賃収入から引くことができます。その分、税金の基準となる所得を抑えることができます。

資産管理法人を設立する場合には、法人が物件を所有する場合と、個人が所有して個人が法人に管理運営を委託する場合があります。前者は、資産管理法人をつくり、そこで法人が不動産を所有し、その運用益のなかからあなた個人(もしくはパートナーや両親など)に給与として支払うパターンで、この場合の不動産に関する経費は、法人としての決算処理で行うのが一般的です。また、個人への給与を経費扱いにすることができます。

後者は、個人で所有する不動産の管理を自分でつくった法人に任せるというパターンもあります。任せるといっても、その範囲は様々です。例えば個人所有の物件を一括で貸してその賃貸料として個人が受け取る(入居者からの賃貸料は法人に入る)という方法と、管理だけを任せその費用を個人から法人に渡す方法があります。

では、具体的にどのような経費があるのか、見ていきましょう。

「管理費や修繕積立金、賃貸管理費用」……区分マンションなどでよくあるマンション管理組合に支払う管理費や修繕積立金などは経費となります。一棟ものの場合、建物のさまざまな管理のほか、家賃回収などの業務も管理を業者に依頼したり、自身の資産管理法人に委託するのが一般的です。こうした管理委託料は経費となります。

「賃借人退去時に行う原状回復(リフォーム)費用」……入居者が退去した場合、室内清掃をしたり、壁紙や障子、畳を張り替えたり、破損・劣化した箇所の交換やメンテナンスが必要で、その費用は経費となります。

「借入の利子分」……ローン返済額のうち、利息にあたる部分は経費となります。

「火災保険や地震保険の保険料」……購入時などに支払う損害保険料は経費となります。一括で支払っている場合でも、1年間に経費とできるのは1年分に相当する保険料となります。

「固定資産税」……固都税と呼ばれる、固定資産税と都市計画税も経費になります。減免制度もありますが、課税標準額の1.7%です。経費にできる税金は、このほか不動産取得税や収入印紙代なども経費になりますが、一方で、当然ですが住民税や所得税などは経費になりません。

「減価償却費」……建物、建物付随設備などの減価償却資産に関する減価償却費用は経費となります。最も大きいのが建物に対するもので、建物価格を耐用年数で割った額が毎年経費として計上できます。築25年のRC一棟(建物の取得費が5000万円)の場合、耐用年数=(法定耐用年数−築年数)+築年数×0.2で計算するので、償却年数は27年となります。平成19年以後の取得となるので、現在の定額法を用いた耐用年数27年の償却率は0.038となります(国税庁のウェブサイトで確認できます)ので、年間償却費は190万円となります。

「税理士の費用」……煩雑な決算や確定申告については、税理士に依頼するのが賢明です。本業がある場合、すでにお付き合いのある人も多いと思いますので、利用しやすいでしょう。これも経費となります。

「建物の設備修理等に要した費用」……一棟ものの場合、建物全体の補修やメンテナンス、共有部分の改装などは自身で行います。その費用も経費となります。ただし、建物を修復する、原状を回復するだけでなく、資産を増大させるような修繕の場合(たとえば床暖房の新規設置など)は、減価償却としての計上となります。

「その他」……物件取得のための交通費、通信費や不動産投資に関する知識を蓄積するための新聞・図書費、賃貸業を行ううえで業務を依頼している相手との接待交際費、物件の撮影に必要なカメラ、物件の検索に必要なパソコンといった消耗品費(私用する場合は、按分にする。たとえば業務用と私用で使用頻度が半々だったら、購入額の半分を経費にする)なども経費となります。

確定申告のハナシ

確定申告についても、簡単に説明しておきましょう。

不動産投資などの副収入がない給与所得者であれば、基本的には会社が行ってくれる年末調整で済みますが、賃貸業で収入が入ってくると、1〜12月の収支を申告する必要が出てきます。

これを確定申告といい、基本的には2月中旬〜3月中旬に税務署に必要書類を提出します。

この申告をもとに、税金を納めたり、逆に還付金を受け取ったりします。

この確定申告には、白色申告と青色申告があります。

白色申告は、最も簡素な書類で済むものになりますが、一方で特別控除がなく、家族への賃金が経費として認められる専従者給与という仕組みが利用できず、赤字を翌年以降に繰り越すこともできません。

なお、白色申告で提出する書類の基本は、国税庁のウェブサイトからダウンロードできる確定申告書Bと収支内訳書、控除証明書類です。

事前に事業者としての登録が必要な青色申告は、複式簿記をつけることによって、65万円の特別控除が受けられます。

一方で、白色申告と同様に、簡素な帳簿付けのみの場合は10万円の特別控除にとどまります。青色申告のメリットはほかにも青色専従者給与という仕組みが使えるため、従事した期間に則った家族に対する給与を経費として認められること、そして赤字を翌年以後3年にわたって繰り越せる(逆に前年の黒字に繰り戻して前年の税額の還付を受けることも可能)ことがあります。

ただし、この青色申告者になるためには、購入後、一定期間の間に青色申告申請手続きをする必要があります。

青色申告で提出する書類の基本は、確定申告書Bに加え、損益計算書、貸借対照表、青色申告決算書、控除証明書類です。

資産管理法人をつくると、どのようなメリットがあるのか

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確定申告は個人で行うべきもので、それとは別に資産管理法人を設立する場合には、決算が必要になります。それに伴い、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、計算書類に関する付属明細書、事業報告書(それに関する付属明細書)などが必要になります。

加えて、法人を設立する場合、登録免許税や謄本交付手数料、公証人手数料といった数十万円規模の設立コストもかかります。決算に関する税理士への報酬などもかかります。

つまり面倒で、お金もかかるということです。そうした手間を考えたときに、資産管理法人は誰もがやみくもに設立したほうがいいというわけではありません。

当然のことながら、金銭的なメリットが得られる状態の人が考えるべき選択肢です。

個人と法人で最も異なるのは税率です。個人の場合、最高税率は2020年現在では55%となっています。収入が多いほど税金が高くなり、損をしてしまうということです。

一方で法人の場合は、最高税率(法人実効税率)は2020年現在約30%です。ですから家賃収入と、他の所得の合計が大きい場合(おおむね所得の合計が1000万円以上)に、法人化したほうが節税になるといえます。

ほかにも、資産管理法人を設立するメリットはあります。まず給与のコントロールができることです。資産管理会社の給与をパートナーや両親に振り分けることで、税金をうまく軽減することが可能になります。

たとえば自分の給料は、本業のほうで800万円をもらっていたとします。それに資産管理法人からの給与として800万円を加えたら、1600万円の給与になってしまい、税金を相当負担することになります。

それならば、資産管理法人の給与は200万円を自分に、パートナーには600万円を振り分ければ、トータルの税金は少なくなります。もちろんその給与は、法人の経費となります。本業をお持ちの場合、わざわざ別の法人をつくらなくとも、すでに経営している会社でやればいいのではないかと思います。

しかし、融資の鍵をにぎる金融機関は、本業と不動産業の事業をまぜることを嫌います。本業は本業、不動産業は資産管理法人と分けたほうが信用されやすい傾向にあります。

なぜかといえば、不動産投資は別のあまたある業種に比べて、借入金の割合が大きいからです。決算書のバランスが崩れて、本業のほうの実態が見えにくくなるということです。

また、本業のほうでパートナーや家族に対して、給与を多く支払うというのは、従業員のモチベーションを下げてしまう可能性も否定できません。その意味でも、資産管理法人なら、気を使う必要がないので両親、義理の両親、子どもなど、複数人に給与を分散できる可能性があります。

さらにお勧めなのが、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)です。1年以上事業を継続している中小企業であれば、月額5000〜20万円を、積み立てることができ、積立総額は最大で800万円まで認められています。この掛け金もすべて損金扱いにできます(最大、年間240万円まで経費扱いできるということ)。

なお、この資産管理法人は、人によってはあえて赤字にする(戦略的に赤字経営をする)という人もいるかもしれませんが、本業の足を引っ張らないためにも、黒字にしておくべきでしょう。

相続はどうする?

資産形成をしていくモチベーションとして、子どもに資産を残してあげたいという思いを持っている方もいると思います。では、不動産投資で築いた資産を、どのように子どもに相続すればよいかは、いろいろな対策方法があるので、ある程度の規模になるようなら前もって考えておくのもよいでしょう。

節税目的の不動産投資はダメ

ここまで本章では、お金にまつわる話、すなわち経費や税金といったことに関する事柄を説明してきましたが、これらは利益をあげるための手段であって、目的ではありません。

すなわち節税が目的の不動産投資になってしまっては、いけないということです。

気をつけなければならない、不動産販売会社は金融機関の担当者のなかには、「節税対策になりますから」と囁いてくる人がいることです。そういう甘い言葉で、キャッシュフローがマイナスの物件すら勧めてくる人もいます。

それこそ本当にお金が余って困っているというような人ならば、それでもいいのかもしれませんが、本書はそういった方を対象としていません。

また、経費を使うために建物のメンテナンスをするという人もいるでしょう。本当に必要ならばやるべきですが、今はお金があるからという理由ではなく、費用対効果を考えて行いましょう。

たとえば部屋のグレードを上げることで、かけたお金以上に家賃が上がるのだったらいいのですが、そうでなければ最小限のことをしておけばいいのです。最小限とは、不潔にしないとか、壊れていないとかそういうレベルの話です。やはり、ある程度余裕を持った資金繰りをしておかないと、突発的な支出に対応できなくなる可能性もあります。無駄な支出は避けなければ、長い目で見た不動産経営はうまくいきません。

経営者のための初めての不動産投資戦略
曽我 ゆみこ(そが ゆみこ)
化粧品会社経営。投資家。不動産投資にて、インカムゲインとともにキャピタルゲインもプラスにすることを目指した「Wゲインスクール(WゲインCLUB)「金持ち大家さんファミリー」を主宰。また、「クオンタムリーヴの会」では、不動産投資家を目指す経営者が、本業でさらに活躍をするために、不動産投資家を目指す経営者のサポートをしている。2010年、がんにかかり、抗がん剤治療を開始。働かなくても経営が成り立つようにと不動産投資を思い立つ。その後、頭金1000万円で都内近郊の駅近物件を選び不動産投資を始め、資産6億円、返済比率40.11%以下にて運用。40代以上の女性の自立支援塾「乙女塾40」塾長を務める。著書に『毎月100万円! 確実に増える不動産投資』(辰巳出版)がある。

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