(本記事は、曽我 ゆみこ氏の著書『経営者のための初めての不動産投資戦略』プレジデント社の中から一部を抜粋・編集しています)
安定な経営状態かどうかの判断方法
債務の健全性を確認する
家賃収入に対して、返済額がどのくらいかを示すのが、返済比率です。
返済比率=返済額÷家賃収入(満額)×100
で表します。まずは、返済額を満額家賃で割ってみましょう。たとえば月々50万円返済していて、満額家賃が100万円ならば50%になります。
空室率を確認する
満額家賃が1200万円(年間)として、その年の実績で収入がどのくらいだったかを計算します。家賃収入が実績で、1100万円だったとしたら、
空室率=(1-(1100/1200))×100=8.3%となります。
空室率は10%を目安にして、10%を超えていたら対策も検討する必要があります。
運営費の計算
月々支払う運営費の例を考えてみます。
- 家賃6万円×6部屋=36万円/月収の場合 管理費1万800円 3.0%(内容は集金および督促、空室時の募集) 清掃費1万800円 3.0% 有線TV6000円 1.6% 共用電気2400円 0.6% 火災保険6500円 1.8%(一括払いではなく、物件購入時の初期費用を抑えるために月額した場合) 合計3万6500円 10.1%
ということで、運営費は10%程度になると思います。これを大きく上回る場合は、改善できる可能性があります。管理費を多く支払う場合は、費用対効果を十分確認してください。
経営の安定性、今後の推移を予測する
実際の数値を計算したうえで、今後の安定経営が見込めるのかどうかを確認します。まず実際の家賃収入を計算します。年額どのくらい振り込まれたかを確認すればいいでしょう。
それから、毎月、決まってかかる費用について、差し引きます。
- 例1 初年度のデータ
- 家賃収入(満室)800万円 家賃収入(実績)720万円 運営費80万円 返済額400万円 家賃収入(実績)(年)=720万円 返済比率(実績)=400万円÷720万円=55.6% 債務償還余裕率(DCR)=実質収入(年)÷返済額(年) (家賃収入(実績)−運営費(実績))÷返済額=(720-80万円)÷400万円=1.6
- 例2 5年目のデータ
- 家賃収入(満室)762万円 家賃収入(実績)680万円 運営費68万円 返済額400万円 家賃収入(実績)(年)=680万円 返済比率(実質)=400万円÷680万円≒59% 債務償還余裕率(DCR)=612万円÷400万円=1.53 経過年と債務償還余裕率(DCR)の値(想定値) ※返済期間30年の場合 ※家賃収入が30年間で30%の下落があったものとする
例1では、初年度の債務償還余裕率(DCR)が、1.6ならば30年間で30%の家賃下落があっても、借入の返済に余裕があります。5年後1.53、10年後1.44となっているように、年数経過後のDCRの値を合わせてみることで、その先の5年後、10年後を予測できます。
たとえば、10年後のDCRが1.44となっているので、10年後の実績がこれよりも高ければ、経営としては良好と判断でき、1.35まで落ちていたとすれば、経営が5年も早く落ち込んでいることになり、25年を経過する頃に、利益がなくなる可能性があると予測できるのです。
例2では、債務償還余裕率(DCR)が1.53となっているので、5年目の値であれば、順調な経営状態といえます。
返済比率を比較する場合、実際の家賃収入を引用しますが、表の返済比率には、空室損が含まれていますので、実績の返済比率と比較して検討できます。
債務償還余裕率の値が悪くなければ、経営としては問題ありません。返済比率および債務償還余裕率の値が両方とも悪い場合は、空室損が10%よりも多かったり、運営費が10%よりも高くなっている可能性があります。返済比率が悪くないのに、債務償還余裕率が悪い場合には、運営費が増えている可能性があります。
減価償却費について(詳細は専門家に相談を)
減価償却費とは、建物の価格を法定耐用年数か残存年数で割った金額を年間の経費として計上できるものです。法定耐用年数は構造ごとに決まっており、木造22年、鉄骨造34年、鉄筋コンクリート造47年です。
新築の場合は建物価格をこの年数で割った金額が毎年の減価償却費として、経費に計上できることになります。
中古の場合の計算は以下となります。
償却年数(中古)=(法定耐用年数−経過年数)+(経過年数×0.2)
鉄骨造10年築の例(小数点端数0.5以上は繰り上げ、未満は切り捨て)償却年数(中古)=(34−10)+(10×0.2)=24+2=26年となります。
建物価格が5000万円であれば、
減価償却費=建物価格÷償却年数=5000万円÷26≒192万円/年
となります。
ここでは単純化のため、償却年数で割っています。詳しくは国税庁のウェブサイトで確認してください。
所得税について
不動産投資で得た収入については、ほかの所得と合算して税金を納める必要があります。たとえば、給与所得と不動産所得の合算した金額が330万円を超え、900以下の場合は以下の税率になります。
ただし、給与所得が700万円としても、税金の対象となる所得は400万円程度となるので、家賃収入で300万円の利益があったとしても、700万円程度となり、概算として計算する場合は所得税が20%と住民税が10%となるので、30%として計算して差し支えありません。
合算所得の内、課税対象が695万円を超えた部分については、3%上乗せになります。仮に800万円の課税対象の合算所得があった場合は、695万円までが、30%となり、695万円を超えた、105万円の部分が33%の課税になります。
税金について(詳細は専門家に相談を)
以下の例の物件の場合の所得税がどのくらいになるか、計算してみましょう。
- 物件価格1億円 建物価格5000万円 利回り8% 借入金額9000万円 借入金利2% 家賃収入(年)800万円(30年で30%の家賃下落を考慮します) 空室損(年)80万円 経費(年)80万円 返済額(年)300万円(返済額の元金部分が課税の対象となります) 減価償却(年)26年
年間の返済額399万円のうち、返済額の元金部分が利益として計算されます。手元には残らないのに、税金の対象になります。
元金割合は、年を経るごとに増えていきますので、初年度が一番低く、30年間経過の直前には、返済額のすべてが元金部分となります。この返済している元金部分は利益となるので、税金がかかります。手元には残らないのに税金がかかるので、経営を圧迫します。原価償却費は、支出がなく経費に計上できるので、とても助かります。この例では、物件価格の50%が建物価格となっていて、償却期間が26年ですので、年間の利益から192万円の減価償却が可能です。たとえば、課税対象の利益から192万円を引いた残りの収入が330万円を超えて695万円以下の場合は、30%の税金がかかります。
物件を購入し、月々に同額の返済をしていきますが、返済額の内、元金にあたる部分と、金利にあたる部分とあって、初年度は56%が元金で44%が金利部分となり、初年度の課税対象は56%になりますが、10年後は67%、20年後は約82%が元金となり、課税対象が増加していきます。
ただし、純利益は家賃が10年後はマイナス10%、20年後はマイナス20%と減少していくので、キャッシュフローもなくなっていきます。
しかし、建物の減価償却費分が経費になるので、年間192万円分の利益は課税対象から外れ、税の負担は軽減されます。ただし、減価償却期間は物件によって異なるので、減価償却期間が切れるタイミングで税額が増える傾向があるので、キャッシュフローがどのようになっていくかを予測しながら、運営する必要があります。仮に、耐用年数が短かった場合には、短期間に償却するため1年の節税金額が高くなりますが、それは利益を先取りしていることになるので、償却期間を過ぎたときに増税の補塡ができるように準備しておきましょう。
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