(本記事は、曽我 ゆみこ氏の著書『経営者のための初めての不動産投資戦略』プレジデント社の中から一部を抜粋・編集しています)
本業がどのような業種だと有利なのか?
どういった本業であると、銀行からの信用が高いかといえば、私の経験上、ものが動いている業種がよい感触を得られます。
利益率が高い低いということよりも、実際にものを仕入れて売っている、販売しているということのほうが、信用が得やすいようです。たとえば物販業。実際に事務所があって、従業員がいて、取引相手がいて、ものが動いている。そういう目に見えるものがいいわけです。一方で、コンサルティング業のような職種は評価されにくいといえます。肩書だけではよくわからない、想像がつかない商売であったり、どこから収入を得ているのかよくわからないような業種は、銀行員から敬遠されるということです。
またB to Cつまり個人消費者を相手にしているよりも、B to Bつまり企業を相手に商売をしているほうが、変動要素が少ないとして安定していると見られます。
そのほか本業が数年以内の若い会社である場合には、経営者の経歴もチェックされることがあります。一貫性のない経歴を持っていたりすると、審査は厳しくされます。
物件を見つける前に、まずは金融機関へ行く
本業で既に金融機関との取引があると思いますが、まずはその金融機関をあたってください。その後、他の金融機関にも相談してみます。ここで、金融機関を訪れる際の具体的な流れも紹介しておきましょう。
いきなり金融機関に行って、「話があります」というのは、やめましょう。電話をかけて、「賃貸業を始めたいと思っています。融資について相談できませんでしょうか」と言って、きちんとアポイントを取るようにします。
アポイントを取ったら、約束の時間に金融機関を訪れます。このとき、先にも書いた資料のほかに、プロフィールシートも持っていくといいでしょう。プロフィールシートとは、その名のとおり、皆さん自身のプロフィールを書いたものです。そこには会社、年収、年齢、金融資産、その他の資産、負債額に加え、家族構成(共働きならば、パートナーの職業なども)を書いておきます。
そして、次の質問をします。
- 質問1「賃貸業をしたいのですが、お金を借りることはできますか?」 質問2「いくらまで貸してもらえそうですか?」 質問3「木造、鉄骨、RC構造のうち、融資しやすいものはありますか?」 質問4「新築と中古、両方とも融資していますか?」 質問5「法定耐用年数を超える融資は可能ですか?」 質問6「金利はどのくらいになりそうですか?」 質問7「物件詳細を持ってきたら、融資の可否のお返事はどれくらいの期間を見積もっていたらいいですか?」 質問8「融資の対象となる物件のエリアはどこまでですか?」
1行だけでなく、複数の金融機関に同じ質問をぶつけ、特徴を摑んでおきます。そのうえで、本格的に物件を探していきます。
めぼしいものが見つかったら、「銀行から融資が引けたら購入する」という約束をして、再度金融機関と連絡を取って、以下の資料を提出します。
最初から全ては必要ありませんが、なるべく資料を揃えておくとよいでしょう。
- 「物件概要書」
- 「レントロール(物件の収益力を示すもの。家賃表)」
- 「不動産登記簿謄本」
- 「不動産売買契約書」のひな形
- 「重要事項説明書」
- 「図面(建物図面、間取り図、物件写真など)」
- 「公図」
- 「賃貸借契約書(すでに入居している場合)」
- 「建築確認済証」
- 「固定資産税評価証明書」
- 「源泉徴収票」
- 「確定申告書」
- 「本人確認書」
- 「印鑑証明書」
- 「住民票」
- 「課税証明書」
- 「既存借入の返済予定表」
法人の場合は、さらに「商業登記簿謄本」「定款」「決算報告書3期分」「納税証明書」「借入の返済予定表」も必要です。
細かくは、金融機関によっても変わりますので、事前に確認しておくとスムーズに審査に入れるでしょう。
事前審査が通ったら、手付を払い、物件の契約を締結して、引き渡しへと進みます。
金融機関で聞くべきこと、右から左に聞き流すべきこと
金融機関で質問すべき基本事項は先ほどお伝えしましたが、それら以外にも聞いておいたほうがよいこともあります。
まず、頭金が何%必要なのか。明確に教えてくれることはありませんが、金融機関によってだいたい決まっているのです。属性がこういう人なら、◯%必要というパターンは決まっていて、それをなるべく詳しく聞き出して、メモしておくことは大事です。情報の引き出し方は、こちらから探りを入れていくしかありません。「だいたい10%くらいですよね」とか「ゼロでもいけたりします?」と聞けば、「そこまでなくてもいけますよ」「意外となくてもいい場合もありますよ」とか「ゼロはダメですね」と返してくれることもよくありますので。
次に事務手数料がいくらなのか。金融機関は手数料ビジネスだ、と指摘する経済学者もいますが、案外この事務手数料もばかになりません。定額制としているところは、3万円が相場になっているようです。金利だけを見て判断すると、事務手数料が高くて驚く場合があります。
また、繰り上げ返済時などに発生するローンの解約手数料も聞いておきます。変動金利か固定金利かでも変わりますが、交渉次第では有利な契約にしてくれることもあります。その余地があるかどうかも含め、聞いてみるといいでしょう。
このように聞いたほうがいいことがある一方、聞き流していいこともあります。それは行員が投資家目線でしてくるアドバイスについてです。物件の査定を金融機関としてするのは当然として、それを個人でもやってくる人がいるのです。もちろん個人の発言なので効力はほとんどないといっていいのですが、「これはやめておいたほうがいいですよ」とか「別のもっといい物件を知っています。紹介しましょうか?」などと言われることがあります。
投資家目線ではない基準でのアドバイスもあるので、その場合は聞き流しましょう。
どのような金融機関と付き合うべきか
金融機関によって特徴が異なるということをお伝えしましたが、都市銀行、地銀、信用金庫、ノンバンク系などのジャンルによって、おおまかな傾向はあります。
まず都市銀行は、現金がある程度ある方向きです。金融資産が1億円以上あり、属性もよい方などが最低ラインだと感じます。最近では、「資産10億円以上ないと……」と行ってくる金融機関もあります。そして、融資の審査も時間がかかります。私が想定している本書の読者(=中小企業などの経営者の皆さん)は、あまり都市銀行に適しているとはいえないと思います。もちろん審査が通るならば、金利が安い傾向にあるので、検討してみるのもよいでしょう。
地方銀行、いわゆる地銀は金利が都市銀行ほど低くはありませんが、1〜2%台が基本となりますので、条件は悪くないでしょう。ただ、物件が営業エリアにあるかどうかに左右されます。地銀によっては、個人向け融資に力を入れており、比較的審査がゆるいところもありますが、その場合には金利が高くなる傾向があります。
信用金庫は、地銀以上にエリアが重視されます。自宅や自身が経営する会社、物件がエリア内にない場合には、なかなか相手にしてもらえません。ただし、金利はノンバンク系ほど高くなく、かつ付き合いが長くなるほど条件がゆるくなっていくため、お勧めの相手だといえます。特に本業としても付き合いがあれば、いろいろと融通してもらえる可能性も高まるでしょう。付き合いが長くなるにつれ、頭金や金利を少なくしてもらえた事例もあります。
ノンバンク系とは、融資専門の金融機関で、大きく分けて銀行系列の会社と独立系の会社があります。金利は高く、3〜4%台に乗ることが多いようです。地銀や信用金庫のようなエリアは関係なく、頭金ゼロでも融資が通りやすいので、ほかの金融機関でダメだった場合に、最後の砦(とりで)的な存在だといえるかもしれません。
そのほか日本政策金融公庫も利用できます。皆さんもご存じのように、政府系金融機関です。全国に対応しており、金利は固定金利で、低めに設定されることが多いのですが、融資期間が短いことが大きな欠点です。通常は10〜15年、長くても20年で、私が推奨するような投資法では、選択肢に入ってきづらいといえます。
金融機関の担当者との距離の取り方
金融機関について、いろいろと触れてきましたが、案外、担当者によって左右される部分もあります。担当者が替わった途端に、融資が出やすくなったという経験は、実際に私もあります。
同じ銀行、同じ支店でも、担当者が投資に対して前向きな人になると、一気に風向きが変わることもあります。
ただ、相性がよくないからといって「担当を替えてくれ」とお願いするのはあまりよいことだとはいえません。ですから、少し距離を取って、支店を替えて再度アポイントを取ればいいでしょう。あるいは金融機関は異動が頻繁にあるので、少し期間を空けて連絡を取れば、替わっていることがあります。
ちなみに、私の基準ですが、いい担当者とは動きが早い人です。逆にダメな担当者は反応が遅い人です。「即日お返事します!」と言っていて、実際には数日後に連絡してくるような人はダメです。往々にして、書類を作成するのが不得意だったり、常に仕事を抱え込んでギリギリまで動かなかったりする人なので、担当者としては不合格です。
そしていい担当者は、なるべく懇意になりたいので、食事に誘うこともあります。
加えて、その上司も必ず紹介してもらうようにしています。そうすると、たとえ異動があっても、良い関係を維持できるからです。
支店長クラスとも顔見知りになっておくと、顔を合わせたときに「あ、どうもこんにちは」と挨拶ができます。すると、担当者も「しっかりやらないと」と思ってくれるかもしれません。
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