一般社団法人日本CFO協会(東京都千代田区、理事長:藤田純孝)主催のCFOフォーラム・ジャパンの特設イベントとして一昨年から始まった「ベンチャーCFOフォーラム・ジャパン」が今年も東京・経団連会館にて開催された。事業のライフサイクルやキャッシュフローの見極めに加え、M&A実施後の経営統合や経営戦略の計画・実行などCFOに求められることが年々増加し続ける中、今回のイベントは「上場ベンチャーCFO経営改革の軌跡 ─ 公認会計士出身の若き企業家は、どのように経営の階段を駆け上がったか?─」と銘打ち、自ら経営改革を実践しリーダーシップを取ってきたグリー株式会社取締役最高財務責任者の大矢俊樹氏による講演が行われた。
◆CFOとしての歩み
① CFOとしての歩み1 ”経営者”としての土台を築く
ヤフー株式会社でM&Aの責任者をやっていた時に自らソーシングし資本提携をした株式会社クレオに取締役としてジョイン。当時、一人当たりの売り上げの低さ、事業部の損益を良く見せようとする傾向、赤字体質、といった経営課題を抱えていた状況に対し、コスト構造の改革、持株会社化による独立採算の徹底、ビジネス収益モデルの改善など、経営面のみでなく業務の中身にも手入れを行ったそうだ。
② CFOとしての歩み2 ヤフーCFO就任
仕事を一緒にする仲間を選ぶ、必要とされることを大事にする、という二点に重点を置いていたこともあり、ヤフーからCFOの打診を受け引き受けることに。これまでのクレオと全く規模が違うヤフーでは、現場を知ること、一緒に働く人に信頼できる人を選び、信頼したら口出ししないことを徹底したという。短期間での成果に捉われず、時間がかかるけど重要である「思ったことを言い合える」関係性づくりに真摯に取り組んだことにより、業務効率も上がり、結果もついてくるという流れを作り出すことにつながったそうだ。
「短期的結果だけを追い求めず、中期的成長との両立が大切」という考えを柱に未来を見据え、当時成功を収めていたブラウザ向けサービスからスマホ向けサービスへのシフト転換。また、ビジネスモデルもマーケットの小さい広告事業から、マーケットの大きいEC事業への投資へ変化させたり、M&Aによる未来への種まきを行ったそうだ。
③ CFOとしての歩み3 グリーのCFOに
当時、「当たれば大きいが、リリースするまでどうなるかわからない」ゲーム事業がメインだったグリーにおいて、買収などにより収益モデルの軸を増やし、またその増えていく風土の違うグループ会社をマネジメントしていくことに力を注いだという。グループ経営の推進において重視したのは、ビジネスカウンセル機能の強化、PMIプロセスの強化だそうだ。ビジネスカウンセル機能とは、コーポレート側が実際に事業を推進する子会社から離れた立場で、全子会社の事業推進・管理統制のサポートを受け持っていくスタイルをとることだ。
◆これまでの歩みから得た経営者としての学び
1.希望的観測を持たない
夢を語るのがCEOの仕事だとすれば、CFOは現実を見て、問題を先送りすることなく対処していく必要がある。また社内の雰囲気や内輪の事情に流されずにやるべきことをやり抜く気力・胆力が求められる。
2.赤字に慣れない
赤字とはそもそも世の中や株主に付加価値を提供できていない状態であり、赤字が「当たり前」になれば抜け出せなくなる。
3.ヒト、モノ、カネは一体
一つの施策だけで組織風土や人財の変革はできない。人は会社の資産であり、彼らが働きやすい環境をつくることは、必要な投資である。
<まとめ>
大矢氏のこれまでのCFOとしてのあゆみを辿りながら、これまでの経験が共有されたが、最後にキャリアを築くうえで大切にしている考え方として語ったのは、「”求められる”仕事をした方がうまくいく」、「“人の役に立ちたい”という思いで人との出会いを大切に」という二つのことだった。
やりたいことがわからない、といった声もよく聞く昨今ではあるが、あまり自分視点の思いにこだわりすぎずに、与えられた、また、求められた機会に全力を尽くしてみれば、世界が広がっていくのかもしれない。